47話 反省会はお酒のつまみ
「やるわねグラ。総合的には80点くらいかしら?」
リリムから紅茶を受け取り、飲みながら話を聞く。最初に短剣で攻撃しようと突っ込んだ点と、バラバラにして海の藻屑にしてしまったせいで食べれなかった点が減点対象だったようだ。
「戦闘中の身のこなしは完璧と言えるでしょう。トビウオを利用して距離を取った判断も素晴らしかったです。」
あれで距離を取っていなければ、ザリガニの一撃を食らっていたし、そのまま海に叩き落され水中戦になる可能性もあった。隠密の魔法を使えば自分は狙われないが、そうなると今度は船のほうが狙われる。
船が狙われても問題ないだけの人がいるとはいえ、一応鍛錬のつもりでもあったため船の戦力は無いものと考えての行動だった。
「魔法も1発の威力こそ低いが、連続して撃てるのはさすがだな。エレナの子だけあって、魔法攻撃の技術は高いな。」
最後の攻撃をする際、ザリガニは顔の周りに魔法防御陣を展開していた。それは1発だけだが完全に防ぎきることが出来る防御魔法だったため、軽めの電撃でわざと消費させ、その後に3種類の魔法を同時に放ち倒すことが出来た。
「あえて言うなら、水棲生物に水や氷系の魔法は効きが悪いから、氷弾より炎弾とかのほうがよかったかな?正直電撃だけで良かったと思うけど。」
体の内部から物理的に貫くためにこの二つの魔法を選択したのだが、すでにそこそこ弱っていたからそこまでする必要もなかったという。むしろそこまで徹底してしまったことでザリガニを食べることが出来なくなってしまったと怒られた。
「もちろん倒すことが最優先で問題ないし、食料も別に足りないって訳ではないからね。シール君の言うことは気にしなくていいわ。それより、武器のほうが問題ね。短剣のままでいくなら特殊な短剣を用意する必要があるわね。」
仕事柄、剣などを持ち歩いていると邪魔になってしまうことが多く、懐にしまったり腰や足に固定できる短剣を使っているのだが、剣や槍に比べて短剣の魔法具は極端に少なく、靴を買った商会ですらいまだに1本も流れてきていない。
「いっそ鍛冶屋に頼んで作ってもらうほうがいいかな?でも短剣を作りたがる鍛冶屋が中々いないんだよね・・・。」
鍛冶屋としてもやはり作ったからには武器に活躍してほしいという気持ちがあるらしく、どうしても短剣は鍛冶屋にも人気がないようだった。
「それに短剣を魔剣にするには、小さくて高濃度の魔石が必要だものね。それこそ、宝石でも使わないとそんな高濃度にはできないし、間合いを考えると宝石じゃ耐久力が低すぎるわよね・・・。」
まあ別に戦闘を極めたい訳でもないので、その辺はいつか巡り合ったらいいな程度に思っている。むしろ先ほどの戦闘は、経験が浅い割に冷静に的確な判断が出来たことのほうが嬉しく自信につながった。
「古代にはさまざまな武器を研究していた者も何人かいましたからね。もしかしたらどこかの遺跡で巡り合うかもしれません。」
そうしめくくりリリムは収納魔法から何やら調味料を数種類取り出し混ぜ始めた。それと同時に船を襲って返り討ちにあったトビウオがルルの手によって捌かれていく。魔毒を取り除き刺身として出されたトビウオに、リリムがタレを掛けて完成した。
「醤油に柚子という柑橘系の果物の果汁とお酢を混ぜた物です。海藻を細かく刻んで和えて食べるのもおいしいですよ。」
「ほう・・・これは・・・。ルル!」
「お望みのものはこちらに。王妃様。」
随分と仰々しく取り出したのは米から作った酒だった。トビウオを食べ酒を煽る三人娘を見てシールは羨ましそうにしている。
「シールはお酒は飲まないのか?」
「あんまり強くはないかなぁ。それに、お酒は葡萄酒のほうが好きだし。魚とは合わないかなって。」
なるほど、確かに葡萄酒は海鮮とそこまで相性が良くないことが多い。どちらかというえば獣肉と合わせるのが一般的だ。そしてシールはトビウオはそこそこにして、鶏肉の残りを焼きはじめ、赤白さまざまな葡萄酒と共に楽しみだした。各々が好き勝手に盛り上がっているならと、自分も収納魔法から香草酒を取り出し飲み始める。
真昼間から酒盛りが始まったが船は止まらず進み続ける。
「慣れの差・・・かしらね?」
夕刻辺りから、シールが酔いつぶれて寝てしまい、風も自然のままになった結果船は殆ど動かず、軽量化の魔法が掛けられた船がたまに波に煽られ進む程度になってしまった。
そしてノエルとリリムが抱き合うようにして眠っている。あのリリムがここまで人と密着しているのは珍しいと思ったが、ふと思い出せばリュフカの町でも真っ裸で三人くっついて眠っていたなと苦笑がこぼれた。
グラはというと、元々香草酒は薬用としての意味合いが強いからか、特に酔いつぶれることもなく少し顔を赤らめる程度だった。椅子に座りぼーっと空を見上げ月明かりに照らされるグラは、どこの絵画かと思えるほど美しく思えた。
「私も少し酔っているのかしらね・・・。」
出会い、共に過ごした時間はまだまだとても短いが、それでも過去何百年と感じていない幸福感をここ数か月で味わっている。恋だの愛だの言ってる暇があるなら試験管でも見つめていたり、研究論文を眺めている方が楽しいと思っていたが、ただ意味もなくグラを眺めているだけの、こういう時間も悪くないと思ってしまう。
「ま、私は人ならざる者。実を結ぶことなどないのだから、せいぜい舞台で見ている物語の如く楽しみましょう。」
誰に聞こえるわけでもなくぼそっと呟き、グラから分けてもらった香草酒を口にする。
爽やかな香りが鼻から抜け、体に心地よさが広がっていく。
とても甘美で、故に苦い・・・涙が零れる彼の味・・・。




