44話 要塞内の諜報活動
「送り込んだ奴らは全員やられたか・・・。少しアガレスの連中を甘くみていたな・・・。」
要塞と化した国境の砦へと潜入し、食堂を兼ねた休憩所で喋っている兵士たちの会話を聞いて回る。幸いにも誰一人としてこちらに気が付いた様子はなく、味方同士だけだと思い口元が緩くなっているようだった。
「仕方ねえだろ。連中はかわいそうだがしくった奴が悪い。それより、これでバエルとアガレスはしばらく睨みあってくれるだろうよ。」
「まあそうだな。とんでもなく強い女がいるらしいし、そいつが国から出てないならうかつには仕掛けられねぇだろうよ。」
どうやらレゾンを襲った者たちはシトリ教国の手先だったらしい。その狙いはどうやらルルとリリムの出航を阻止し国に留まらせて、バエル王国への牽制になるようにしたかったようだ。
だが、そうなってくると今度は何故シトリ教国がそんなことをするのかが不明だ。戦争を起こさせないことで何か得があるとするならば、両国がにらみ合いで疲弊したところを纏めて掻っ攫おうとしているのだろうか。
そうまでして彼らが狙っているものがあるとすれば、王宮にあると噂されている財宝か、あるいはリュフカの町だろうか?だが財宝はともかくリュフカの砂糖畑は土地面積こそ広大だが、特別な技術を用いているわけでもない。むしろその砂糖を使って甘味を作り出す職人たちこそが観光名所たる所以だろう。リュフカの町の所有権を奪ったところで、職人たちが手を貸すかは不明だ。
そんな程度の物にここまでのことはしないんじゃないだろうか?と考えていたところで、一人の兵士が新たに入ってきた。だがその表情は少しばかり硬かった。
「アガレスの使者が一向にレゾンに現れてないらしいぞ。夕刻頃に到着して夜出発って話をしていたってのに、町の外にもどこにもいないらしい。」
実際はすでに到着しているし、なんなら親書とそれを持った王族の人間は今報告をした兵士のすぐ隣に立っているんだけどな。都合よく入り口が開けっ放しになっているし、下手な行動を起こして問題になる前にここを去ろう。今掛けているこの魔法は自己流で開発したもので、姿や気配は完全に隠せるが、存在そのものを消し去る訳ではない。ぶつかれば当然気づかれるだろうし、扉などを開けたりしても、突然何もなく開く扉に不信感を抱かれてしまう。どちらかと言えば戦闘中に発動し、堂々と相手の後ろに回るのに使うような魔法だ。
ついでに言うと、足音や足跡は今履いている靴が消してくれる。空中闊歩の魔法が刻まれた物で、裏商会で販売されていた所をかなり高価な値段で買い取った一品だ。出所は不明だし、入手経路が非合法な商会経由のため誰にも教えてはいないが、エレナやルルは何となく気が付いているような雰囲気もある。
尤も、この靴が僕自身の役割に大きく貢献してくれているため、黙認黙秘してくれているようだ。魔力を流さなければ普通の靴なので、普段の生活で違和感を与えるようなこともない。
そうしてグラは来た時と同じく堂々と門を潜り抜けレゾンの町へと戻っていった。辺りは日が完全に落ちており、町中も街灯がぽつりぽつりとついている程度になっていた。
「おかえりなさいグラ。船のほうはなんとかなりそうだわ。風はシール君が操れるし、魔石から送り込まれる魔力もシール君が代わりに送り込んでくれるわ。ついでに操舵もシール君がやってくれるし、魔物の撃退と食事の用意を船上での暇つぶしの用意も・・・」
「後半僕じゃなくてもいいよね!?」
馬車馬の如くこき使われるであろうシールが"せめて報酬が欲しい"と嘆いていたが、竜神に対しての報酬などルルとリリム相手にしている以上に思いつかないため聞こえなかったことにしておいた。
だが、さすがの竜神とあっても一日中魔力を流し続けることは出来ないため、ある程度加速したら風で船を動かし、進路を急速に変える時などにまた魔力を流しといった方法を取るらしい。
一見ふつうより遅れそうな方法だが、風の竜神にとってはただ魔力を流し続けるより船に軽量化の魔法を掛けてもらい帆が壊れない程度に強い風を起こし進むほうが遥かに楽なのだそうだ。
「とりあえず、船の動かし方はわかったけど、方向とかはどう決める?海図も羅針盤も壊されてしまったんだろう?」
船の被害として上がってきた報告は、航海士と操舵士と魔石の他に、海図と羅針盤もいくつかあった在庫が全て破壊されたり、破られたりしてしまったらしい。スフラの町に行けばもしかしたらあるかもしれないと騎士が提案したところ、そちらも秘密兵器があるから問題ないといって断ったらしい。
これ以上シールの負担が増えないことを願いつつ、全員で船に乗り込んだ。




