42話 砂糖の町より甘い夜
「女三人寄ればなんとやら・・・お隣は楽しそうですなぁグラっち。」
リュフカの宿にて三人部屋を二部屋借り、男女で分かれて泊まっている。隣からは特に声などは聞こえないが、どうもシールはあちらに混ざりたいらしい。
「別にグラっちが嫌って訳じゃないんだけど、同じ部屋で寝るなら女の子がいいじゃん?・・・いや、グラっちが女装すれば・・・いけるか?」
「おやすみ。」
「あぁ~ん、冷たい~。」
体をくねらせながら気色悪い声を出されても、とてもじゃないが付き合ってられない。レゾンの町で何も起こってなければいいが、何か事件が起きていれば結婚式に向かうどころの話じゃなくなる。
「そんな張りつめても予定を変えることができない以上しょうがなくない?命の心配だけはしなくていいんだし、肩の力を抜いたほうがいいと思うよ。」
年長者からの助言だよっと言ってベッドにもぐるシールは、見た目的にはどうみても年下なのだが・・・。
だが確かにシールの言う通りだ。今からこんなでは身が持たない。ふうっと息を吐いてベッドに入る。とにかく明日の夜無事出航できることを祈りながら眠りについた。
「古今東西女三人集まれば恋話をするものだとエレナに聞いた。というわけでルル、グラセナとの子はいつ産む予定だ?」
「ぶふぅっ!?」
突然の発言に飲んでいたはちみつ牛乳を噴き出してしまった。こういう場でする恋話にしては議題が重すぎないだろうか?ふつうはもっと手前の段階の話をするものではないのだろうか・・・。
「グラには確かに好意を抱いているけれど・・・、あなたが期待しているような感情は私には無いし、グラも抱いていないと思うわ。それに、この呪いは体の異変を修正するものなのよ。たぶん、そういった行為をしたとして子を成すことなど出来ないわね。」
こればっかりは経験がないし、気軽に試す気にもなれなかったのでわからない。案外その辺は融通が利く呪いなのかもしれないし、そうではないかもしれない。
それにグラに対しても恋心を抱いているというわけでもない。彼は見た目も爽やかで、王族でもあるし、その気になれば任務だなんだと言って自由に動き回ることが出来る。一緒に旅をしていてとても心地よくは感じるが、どこまでいっても彼への好意には理屈が並んでしまう。恋とはそういった理屈では語れないような物ではないだろうか?
「なんだつまらんな。それならばリリムはどうなんだ?」
「あっ・・・。」
しまった。自分への興味が薄れたのなら当然次はリリムに矛先が向いてしまう。だがこの話題は出来れば今すぐ終わりにしたい。
「大丈夫ですよ姉様。さすがに、もう大丈夫です。」
そういって笑うリリムが事情を知らないノエルへ語り出す。リリムの心がまだ"人"であった時代の話・・・。
「別に、大した話ではないです。ずっと昔、私は確かにある殿方に恋をしていました。ですが、この身のせいで失恋したというだけのことです。」
そんな簡単な説明で終わるようなことでもない。深く愛していた男に命を狙われ、魔女だ悪魔だと集落を追い出され討伐部隊まで組まれ追いかけまわされた。裏切られ、絶望し、そしてリリムは・・・壊れた。
「あの時は、私に近づく者は私を殺しに来た者だけでしたからね。姉様にも迷惑を掛けました。」
人に絶望し、厄災の如く死を振りまいてしまっていたリリム。そしてそのことに気が付くのが遅れてしまったことが私の人生の中で一番の後悔。
「それは・・・すまない。気軽に聞いていい話ではなかったな。」
「構いません。もう・・・1000年以上前の話ですから。」
それ以来リリムは、私も含めあらゆる人と一定の距離を保つようになってしまった。同じ過ちを繰り返さないために、言葉遣いも変えて、二度と災厄とならないように・・・。
だが同時に、離別に対しても恐怖を抱くようになってしまった。失うこと、一人になることを極端に嫌うようになり常に人の近くにいる。だというのにその手は決して誰かに繋がることもなく、ただひたすら虚空を掴んでいた。
「エレナが・・・私に対してああいった態度を取るのは、私のその記憶を転写しているからでしょう。だから彼女は私に近づき続ける。それにシール君も私の過去を知っているからこそ、近づいてきてくれるのだと思います。」
正直な所、エレナやシールはリリムにとってかなり良い影響を与えてくれているため、非常に有難い存在だ。尤も、感謝の言葉がリリムの口から二人に伝わることはないだろうが。
「・・・まあ単純にあの二人の距離感は、そういった過去など関係なく苦手ですが・・・。」
溜息をつくリリムを見て、ノエルも安心したように笑う。説明し辛い事情であるし、ノエルがそういった話題を振ってくるとは思ってもなく油断していた。これ以上深く話すのも聞き出すのも躊躇われ、少しばかり沈黙が漂ってしまったが、リリムが沈黙を破ってくれた。
「さて、私たちのことは話ました。次はあなたの番ですよノエル。」
悪戯っぽく笑うリリムに驚きつつも聞こえないふりをしてベッドへ潜ろうとするノエルを捕まえる。私としても彼女たちのことは少しばかり興味がある。どれほど長く生きていても、いつの時代も他人の惚気話は聞いていてとても楽しい。
「私とエレナと陛下・・・グラッセオは元々幼馴染でな。体も弱く、"神官"であるグラッセオのことを私とエレナで守ってやるんだとよく話をしていた。恋をして結ばれたというより、元からずっと三人で生きて行こうという感じでな。グラッセオが王位を継いだ時に一緒に結ばれた。」
観念して話だすノエルだったが、幼馴染であるのはいいとして、その短い話の中に聞き流せない言葉があった。
「ん?待って・・・神官?神官というと神に仕えているとかいう、教会でお祈りをしているような彼らのこと?」
「あぁ、そうだ。とても見えないだろう。まあ正確には神官見習いといったところか。この国は王族だろうと貴族だろうと、王位や家を継ぐまでは一アガレスの民として働く風習があるんだ。大抵は騎士などになるんだがな。」
そして彼は子供心ながら女性二人に守られてるような状態で国王になどなれるはずもないと、体を鍛え続けたらしい。子供の頃のまま大きくなったなら今のグラみたいな感じになっただろうと言われ、リリムととも驚愕していた。
「グラッセオは回復魔法の適正があってな。体を鍛えては回復魔法で癒しを繰り返していて、気が付いたらとんでもなく猛々しい男になっていた。」
そして晴れて最年少で騎士軍将になったノエルと婚約したのだが、エレナとノエルで、どちらが王妃になるかで揉めたらしく、結局じゃんけんで負けたノエルが正妻の座に就いたそうだ。
「まあ私たちはずっと三人で生きてきたからな。そしてこれからも三人で生きていく。その気持ちに嘘偽りなどないから、決まってしまえば後は気楽なものだったよ。」
その後も、調子付いてきたノエルは中々に壮絶な話を長々と話始めた。どういう腰使いをすれば気持ちがいいだとか、どこを舐めれば興奮させることができるかとか・・・。こういう話をするあたりはノエルもやはりアガレスの王族なんだなと感じる。グラだけはどうかこんな人達に染まることなくいてほしいと願うばかりだった。
なお、ノエルとエレナだけで致したこともあるらしく、その話はリリムが興味深そうに聞き入っていた。
・・・今日から違うベッドで寝ようかしら。




