41話 レゾンを目指して
「ところでルル姉・・・船はどうするの?」
王宮に泊めてもらい、朝食を取っている最中にふと思い出したようにシールが尋ねる。
「王族が親書を持って行くのよ。船も用意しているらしいわ。」
ウアル連合国へ渡る船はスフラからではなく、リュフカよりもさらに北にあるレゾンという町から出るそうだ。そこは国境付近ということもあり人の行き来がさかんなため、貿易にくる商人が多く彼らの船を停めるための船着き場もあるそうだ。
リュフカの砂糖畑を抜け、普通の馬車で1日ほどの距離にあるらしく、早めに到着するためにこの後すぐに出発する予定だ。
「事情が事情だからね。船に乗り込むのは僕らの他には航海士と操舵士の二人だけだ。もちろん、どちらも信頼出来る人だ。」
今回は召使に扮したノエルが同行するため、万が一のことを考え同行する面々は最小限に抑えたらしい。尤も、他に乗り込むとしたらせいぜい護衛の者程度だろうし、それは自分たちで問題なくこなせるためこれ以上必要もない。
昨日すでに早馬にて船の手配などは知らせが行っているため、到着次第すぐに出航できるようになっている。予定ではリュフカの町で1泊し、レゾンには夜に到着しそのまま出航するらしい。
レゾンで1泊してもいいのではないかとも思ったが、話を聞くとその先にある隣国"シトリ教国"は数年前に教皇が代わった際、色々と良くない噂が流れているそうだ。
「シトリ教国とは敵対している訳じゃないけど、無警戒でいられる訳でもないからね。それに貿易商人が集う町に長く滞在するのもノエル様の正体がバレてしまう可能性があるからね。人の顔なんかが認識し辛い夜に出航したいんだ。」
こちらとしても特に留まりたい理由がある訳でもないためグラの計画を受け入れる。
「それとリリム、リュフカの町に1泊するけど、絶対にいなくならないでね。」
「・・・善処します。」
グラの心配事はむしろリュフカを発つ際にリリムが我儘を言わないかという方にあるようだ。
「それでは道中気を付けてな。」
国王自らが見送りに来て声を掛ける。今回乗り込む馬車は以前遺跡調査のためにリュフカへ向かった際に乗った馬車と違い、王族専用の馬車だという。車輪から内装からしっかりと作り込まれており、鍛え抜かれた2頭の馬がかなりの速度で馬車を引くという。
「すっげぇ・・・。この馬車ってルル姉たちより早いんじゃないの?」
人と馬を比べるのもどうかと思うが、この姉妹はスフラの町へすらわずかな時間で移動できるほどの速度で走ることができる。それを考えるとこの馬車よりかは早いだろう。
「けど、こんな速度で走ってレゾンを目指したら、リリムはともかく私は体力も魔力もが尽きてしまうわ。」
この馬は魔力を体力に変換する魔法具を身に着けているため、1日中走り続けても体力が尽きることがない。さらに整備された道を走るだけなら御者も必要ないくらいには賢く、町から町へと素早く移動するために用意された特別な馬だ。
「この馬と整備されている道があるから、辺境の村や町で事件が起きても王宮騎士を素早く派兵することが出来る。先代の宰相である父が考案し私が実現させた。本来ならこの方法なら昼過ぎに出発でも問題なかったのだが、リュフカの町で少しばかりゆっくりしたいだろうと思ったのでな。」
「それは・・・素晴らしいですね!」
少し自慢げに話すノエルは、昨夜リリムと話し合い無事に打ち解けることが出来たらしく、食事処で見せていた強張りはまったく無くなっていた。
そしてリュフカの町へ到着し、衛兵たちに話を通し宿へ案内してもらっている最中に衛兵から妙な話を聞いた。ちなみにルルとリリムとシールは買い食いに出ている。宿の場所は伝えてあるため夜前に合流する予定だ。
「シトリ教国が国境付近の兵を増員した・・・。ふつうに考えればレゾンに蛮族の類が現れ、国内に入れないためだろうが・・・。」
「派兵された者の装備が弓だったり魔導士が数人確認できたというのが気になりますね。人間相手ではなく魔物を相手するための派兵でしょうか?」
案内された宿の部屋に防音と盗聴阻害の魔法を貼り、二人で話し合う。蛮族を相手にするならば重装備程度で十分なはずだ。それは宿に戻ってきたルル達も同じく不審に感じたらしいが、あれこれ話あった挙句、結局現地へ行ってみないと分からないという結論に至った。




