40話 グラの依頼
「実は、ウアル連合国に似たような症状の患者がいたらしく、治療方法も見つかっているという情報を得たんだ。」
現在王妃の状態は政治に影響が出るほどではないが、感染する可能性もあるため、完全耐性を持つ王族以外とは面会しないよう離宮へ隔離されているとのことだ。
英雄の血縁とは便利なもので、その血が体内に流れているだけで病から身を守ってくれるらしい。尤もそれは体が衰弱していると効果がないらしいため赤子や老人は病に掛かることもあるのだとか。
そんなことはさておき、どうやらその治療方法を探すべくグラがウアルへ向かうよう国命が出たらしい。
「それと、ウアル連合国第一王子の結婚式に関しても、僕が出席することになった。今後の両国の関係を思えば、決していいとは言えないが、病の王妃様を連れてくるわけにもいかず、陛下も兄上も看病と連絡係としての業務が増えてしまったからね。」
国王直々に親書を作成し、そこにはこういった国情のため出席できないことを詫びる文が記載されているという。そして、ある程度長期の滞在となるため身の周りを世話するために召使が一人ついてくるという。だが彼女は一般人のため護衛として私たちを雇いたいとのことだ。
「君たちは単純な金銭で動くような人じゃないからね。報酬に関しては道中にでも打ち合わせして決めていきたい。もちろん可能な限り君たちの要望は通すようにする。お願いできないだろうか?」
第二王子とはいえ、ただの旅人に頭を下げ依頼する姿は異様で、店の中から結構な注目を浴びてしまった。ここで断れば相当な顰蹙を買うだろう。ふつうならかなり嫌らしい頼み方だが彼の意図は違うとこにあるのは内情を知っている私たちからすれば明白だ。
この店の中にも一人、異質な気配を漂わせている者がいるとルルが感じ取っていた。おそらくはどこかの国の密偵だろう。そしてその者に聞かせるように話しを進め頭を下げることで、ただの店の一角で王族が依頼をするという違和感に対して、それほど私たちのことを買っているという情報を上書きし、注目の的を"私たちが何者なのか"というところにズラしているのだろう。
「なるほど、事情は分かったわ。でも一つだけ先に要望を伝えるわ。王宮内でもどこでもいいから、転移点を残させてほしいの。それがあれば緊急時にすぐこちらへ戻ってこれるし、あなたたちだけでも送り返すことが出来るわ。」
もちろんこれは嘘である。そんな便利な魔法など使えないし、遺跡で拾った魔剣ならできなくもないだろうが、そんな魔力は無い。まして転移魔法関連の制御が苦手な私たちがやったらどこに飛ばされるかわかったものじゃない。
だが、これもまた牽制のために必要な情報だ。すぐ戻ってくることが出来るということは、王族が頭を下げるほどの冒険者がいつでもこの国にいるということに繋がる。国政に介入しているんじゃないかと問われれば、正直かなり際どい所に聞こえるが、お互いに利用しあう立場ならこのくらいの協力はしてあげないとね。
グラとルルは互いに手を取り全員店を後にした・・・のだが、追加で注文した料理の支払いをしていないことを思い出しすぐに店に戻り店主に平謝りしお金を渡した。ちょっと抜けている所があるほうが身近にも感じて好印象を与えるため、わざとそうしたということにしておこう。
少しばかり顔赤く染めて戻ってきたルルを見て、リリムとシールは笑いを堪えているのか肩を震わせ、グラは目を逸らしている。だがグラに付き従っている召使は店に入ってきてから今まで一言も喋らず、堅い表情のままだった。
うまく変装し気配なども隠してはいるが、こちらもやはり内情を知っている上に眼鏡を通さなかった時の目の色で誰なのかは判断ついた。髪の色はシールが渡していた玩具で、瞳は眼鏡で変えているのだろう。
彼女が何を思っているのかはわからない。自分の恰好が不服なのか、嘘がばれるのを恐れているのか、国民を騙していることに心を痛めているのか。だが、そんなに緊張しなくても平気ですよと小声で伝えたところ、予想していなかった回答が戻ってきた。
「いや、模擬戦の際に蹴られた古傷が痛み出してな・・・。心理的外傷というやつだろうか・・・。それで体が強張っているようだ。」
それを聞いて、リリムが少しばかり申し訳なさそうな表情をしていた。




