4話 姉妹の正体 困惑するグラ
「グラ、1つ訂正させてね。回復阻害ではなく治癒阻害の魔法よ。それと、その魔法陣は隠蔽の術と共に前歯に仕込んであるから、前歯を取り除いてしまえば問題なく治癒できるわ。」
魔法陣は大きいものほど効果を高くできる。前歯に付与した程度の小さな魔法陣では通常ならほとんど意味を成さない。
それでも、込められた魔力量の多さ故にそこそこの効果が出ている。少なくとも、私たちがあの場を去り、追われなくなる程度の時間は稼げる。
その程度のつもりで魔法をかけたのだが、まさかそんな予想外の認知をされているとは思わなかった。
「な、なぜそんなことまで分かる・・・まさか!?」
言うやいなや短剣を抜き同時に魔障壁を展開してく辺り、その辺の騎士よりよっぽど対応力もある強者であることがうかがえる。
それでも、リリムの前では大した意味をなさないのだけれども。
わざわざ魔障壁を展開させ、攻撃の隙まで作り仕掛けさせたうえでその障壁ごと吹っ飛ばし地に伏せさせ抑え込むリリムを見て思わず微笑む。
圧倒的な力の差を見せつけておいたほうが"会話"がスムーズになる場合があるから、余裕があるときはそうしてほしいと、何百年も前に言ったことをまだ覚えていてくれている。
リリムにとって、ルルの言葉は全てが大切でそれだけ愛されているとこんなところでも感じることができる。
それでも、石床にヒビが入るほど強く抑えるのはやめておきなさい。さすがにちょっと可哀そうだわ。苦痛に悶えるイケメンというのも悪くないけど。
「安心して。この国に害を与えるつもりはないわ。あのエルフのおじいさんは100年前にもしつこくナンパをしてきていてね。ちょっとイラっとしただけだから。衛兵の人たちは・・・まあおじいさんの味方みたいだったし、ちょっとね・・・。ごめんなさい。」
グラに回復の魔法をかけつつ弁明をする。エルフのおじいさんも衛兵も命に別状はない・・・はず。前歯は失うだろうけど。
「どうやら、君たちが何者なのか聞く必要がありそうだ・・・。それと、リリムさん、できれば解放してほしい。回復した端から肋骨にヒビが入っていくのを感じる・・・」
「姉様の回復魔法は優れていますので、死なない限りは大抵治ります。」
「そういう問題じゃない・・・」
改めて、向かい合い座るグラとルル。リリムの椅子も用意されているのだが、彼女は座らない。まるで従者というか護衛のようだ。
「私たち姉妹は呪われた子。持っている呪いは【不老】。体は決して老いることなく、受けた傷もすぐに回復する。昔、左腕を切り落とされたことがあるのだけれど、それすら痛みを感じる前に元に戻ったわ。おそらくだけどこの体は【不死】でもあるわ。私たちは1000年を超える時を生きている。といっても、特別なのはそれだけ。特別な才能があるってわけでもないわ。」
「これほどの強さを持っているのにか?」
確かに、普通の人間がこれだけの力を持っていれば異常なことだろう。天才なんて言葉で収まらないほどには。
「1000年も生きているのだもの。それだけの時間を鍛錬や勉学に使うことができているということでもあるわ。そして、身体が衰えないのなら力は向上する一方だわ。仮にあなたが同じような状況だとして、1000年鍛えたら私たちより遥かに強くなるでしょうね。」
有限を生き、育ち、衰えるからこそ才能や努力の差が出てくる。衰えることがなく永遠を生きているというのなら確かにそれだけの力はつくのだろう。
そんな、ありもしない想像の未来を描くなんて意味がないかもしれいが・・・
「なるほど、わかった。少なくとも君たちが敵でないのなら、この問題はいいとしよう。それと、先ほどはすまなかった。いきなり襲いかかろうとしてしまって・・・。」
「そうね。リリムに感謝するわ。私は戦闘面は力加減が慣れていないから、うっかりこの建物ごと消し飛ばしていたかもしれないもの。」
どうやらこの姉もまた、超人魔境の力を持っているらしい・・・。