3話 話すグラ 焦る姉妹
警騎士所:交番みたいなものだと思ってください。
「ご足労、感謝する。」
警騎士所の入り口でグラに声を掛けられ、少し驚いた。
こちらはそもそも何時に伺うかどころか、行くかどうかすら伝えていないというのに、この男はいったいどれだけの時間ここにいたのだろうか。
警騎士所の場所がわからない(ということにして)のんびり町並を眺めながらたどり着いた時には昼を過ぎていた。
昨日の賑やかな町と打って変わって今日は比較的静かだった。
やはり昨日は何かの祭りだったのだろう。
警騎士所の中を案内され通されたところは簡素な作りの小さな部屋だった。ただし壁一面に魔法陣が刻まれており、盗聴防止などの魔法が含まれているため密談をするために作られた部屋のようだ。
「まずは昨日の人さらい集団の捕縛にご協力いただき、改めて感謝する。・・・昨日はお礼を言おうと思ったらすでにいなかったからね。」
「正直なところ、この町の事件やらには興味がないわ。急ぐ旅というわけでもないけれど、実りのない時間を過ごすのはあまり好きではないわ。」
事件の概要は朝読んだ瓦版でおおよそ理解している。ある意味でどこにでもあるような些細な事件。そんな話をするくらいなら食事処に引きこもっていた方が何倍も有意義だ。
「そうか、それなら改めて。僕はグラ。年は19歳。アガレス王国国王直属の密偵だ。といっても、この国は全体的に平和だからね。こういった小規模な事件を追うことも時々あるんだ。使える魔法は"感知"と"隠密系"。武器は短剣だけど、あまり荒事は得意じゃない。」
「密偵・・・ですか。それを出会って間もない、正体不明の私たちに話してもよいことなのでしょうか?」
リリムの疑問は最もだ。親しい間柄ですら公言などできない職だろうに。それをわざわざ私たちに言うということは、私たちの力を見て何か頼みたいことでもあるのだろう。未開の地への旅か、危険なダンジョンへの挑戦か。いずれにしても戦闘面での依頼になるだろう。
「ああ。本来なら言える訳もない。だが、こちらにもちょっとそうも言ってられない理由があってね。可能ならば、君たちの力を借りたい。」
「聞かせてもらえるかしら。その理由とやらを。」
彼曰く、この国は隣国、バエル王国とあまり仲が良くないらしく、いつ戦争になってもおかしくないらしい。そんな中、1週間前バエル王国から強力な"魔女"が2人この国に送り込まれたという情報を得た。その魔女の調査並びに討伐をお願いしたいらしい。
1週間前にバエル王国から来た魔女2人ねぇ・・・
「姉様・・・これはもしかしなくても・・・」
「グラ。その魔女2人っていうのが、どんな見た目をしてるかとか、あるいは何故魔女と呼ばれているのか、わかるかしら?」
「見た目に関しては情報が少ない。ローブのようなものを被っていたみたいでね。ただ、少ない情報の中で得たものは、その魔女2人を見たエルフ族の老人が"あの女、100年前と見た目がまったく変わっていない"と錯乱していてね。さらには混乱やら麻痺やらも魔法が掛けられていた上に回復阻害の魔法まで掛けられていてね。老人がうわごとのように呟いているのを聞き取るのが精いっぱいだった。」
さらには駆け付けた関所の衛兵も攻撃をされ気絶させられていたらしい。たしかに話を聞く限りでは悪質な魔女のようだ。
老人に悪辣な魔法をかけ、助けにきた衛兵も攻撃したあげく1週間は目を覚まさないよう定期的に睡眠の魔法が発動する魔法陣を体内に仕込まれているのだから。
まったく、さっきから冷や汗が止まらない。