29話 贅沢な休息
「とりあえず、いったん休憩にしましょう。私が見張りをやるから三人はゆっくり休んでいて構わないわ。」
広場での戦いの後、精神も体力も根こそぎ持っていかれ疲労困憊といった状態の三人を座らせ、ルルは通路へと続く入り口を魔法陣で塞いでいく。
そして収納魔法からポットを取り出し紅茶を振る舞うと、次々と調理器具や食材を取り出し料理をし出した。
台もなく魔法で空中に固定されているまな板やらを見るのは、実はそれほど珍しくもないらしく、冒険者の中に優秀な魔導士がいればこういった調理要因としての需要も多少だがあるらしい。
刻んだ根菜や肉を鍋に入れ火にかけ、牛乳と小麦粉を混ぜたものを鍋の中に入れ煮込んでいく。どうやら作っているのはシチューのようだ。
「根菜は栄養もたっぷり詰まっているし、お肉も入っているから元気もでるわ。野営にはぴったりの定番料理よね。」
そういって三人へシチューを取り分ける。紅茶との相性こそそれほどよくはないが、疲れた体にやさしい味が染みわたる。
冒険者は戦闘はもちろんだが、食事の用意をこなすことも重要だ。アガレスの冒険所でも新米の冒険者に食用に適した野菜の見分け方であったり、シチューなどの複数人で分け合って食べることのできる料理などを教えることもある。
「だが、少し意外だな。ルルが料理出来るというのは。」
「作れる種類はそんなに多くないのだけれどね。」
「ポンコツそうに見えて案外しっかりしてるのがルル姉のいいところだよね。あ、おかわり!」
「姉様、私は甘い物が食べたいです。」
はいはい、と笑って返事をしたルルは、小麦粉をバターと共に練り、リュフカで仕入れた砂糖や牛乳を混ぜて生地を作り、一口で食べることが出来る大きさに分けた後、鉄板に並べ不思議な形をした魔法具の中へそれを入れた。どうやらこの魔法具には炎魔法が仕込まれており、これで生地を焼くようだ。
「これは海を渡ったとある島でよく作られているお菓子でね、子供たちにも大人気なのよ。お砂糖の質が違うからこっちは甘さがちょっと物足りないかもしれないけど、疲れているときはこのくらいの方が食べやすいと思うわ。」
そういって出来上がったものは、小さなパンのようなものでこちらは紅茶との相性がとても良く、遺跡の中だというのにまるで貴族のお茶会でもしているかのような気分に浸ることができた。
だがそれは目を閉じていればの話で、目を開ければ焼きあがった菓子を奪い合うシールとリリムが目に入り、それを笑いながら空中に座り紅茶を飲むルルがいた。貴族のお茶会というよりは子供の集いのようだったがこれはこれで楽しいひと時を過ごすことが出来た。
ちなみにリリムに料理が出来るのか尋ねたところ、肉を捌き塩をふって焼くことならできますとの回答が届いた。どうやら仕入れがリリムの役で調理がルルの役回りのようだ。
その後少しばかりだが仮眠も取ることにし、ルルの左腿をリリムが、右腿をシールが枕代わりにして寝だし、二人の頭を撫でながら微笑んでいるルルに見惚れつつ、壁に寄りかかり眠りについた。
全員が眠りにつくまで、ルルの透き通るような声で子守歌を歌い、花の心地よい香りを辺りに漂わせ、至れり尽くせりな寝床になった。
いつだったか、ルルは加減が苦手だなんて話をしていたのだが、こういった面でも如実に現れているようで、それが何だかとてもおかしく感じ笑ってしまった。




