28話 反省し謝るルル
「くそっ・・・せめて僕が治癒できるくらいまでルル姉に近づくことが出来れば・・・。」
シールの悔しそうな呟きに、先ほどの神速を自分自身に付与できないのかと尋ねれば、神速を付与することは出来てもリリムと違い攻撃を躱すことが出来ず撃ち落とされてしまうとのことだった。
リリムが自己強化魔法を掛け、さらに神速の魔法を掛けてもらい、やっとルルの魔法の展開速度に追いつけるというのだから、ルルは化け物どころの騒ぎじゃない。そんな彼女が、普段の適当さを無くし集中状態にあると本当に手の打ちようがないと、三人とも感じていた。
ところが、壁際まで飛ばされたルルはそこから一歩も動かず、また、こちらに攻撃をしてくる様子もまったくない。これはどうしたものかと疑問に思ったが、リリムが何かを計るように少しずつ前進し、広間の中央辺りまで進んだところでそのまま地面を蹴り後ろへ跳んだ。
そして後ろへ跳んだ瞬間に広間の中央に炎の柱が現れ、後ろへ跳んでいなければリリムはその炎柱に飲み込まれていただろう。
そんな様子を見て呆気にとられたがリリムの方へと振り返ると彼女の口角がわずかに上がるのが見えた。
「どうやらこの広間の半径と同程度の長さが攻撃範囲として認定されているようですね。最初こそ中央で催眠状態に陥ったため逃げ場がありませんでしたが、壁際まで移動したことによって、反対側が安全地帯になったようです。・・・最も、確実なことは言えませんし、解決策も見つかりませんが。」
「てことは、このままにらみ合っていればルル姉だし自分で治癒していずれ助かる・・・かも?」
それは余りにも楽観視しすぎだろうと思ったが、現状それ以外に解決策がない。こちらへ攻撃してこないのであれば、この状態のまま、あとはルルが自分でどうにかするのを待つしかない。下手に刺激をして動き出されたりでもしたら、リリムはまだしも、残り二人はまず生き残れない。
「動かないのは姉様を襲った魔法が姉様を支配しきれていないからかと。姉様の意思がわずかにでも残っている状態ならば、このまま動かないのが得策・・・というより、それしか生き残る道はなさそうですね。」
そして、どれほどの時が経っただろうか。赤かったルルの目が突如元に戻ったかと思うと膝から崩れ落ち、地面に伏したが、すぐさま立ち上がった。
「あー・・・やっと治った・・・。まったくとんでもない目にあったわ・・・。」
「そりゃこっちの台詞だよ・・・。」
力なく突っ込みを入れたシールは、立ち上がったルルと入れ替わるように地面に倒れ、仰向けになり安堵の息を零した。そしてリリムはすぐさまルルへと近づき、異常が無いことを確認した後、ガスが噴き出した所へと近寄って行った。
「これが諸悪の根源ですね。この部屋の中央付近に人が立ったらそこへ向けて噴き出すようになっていたのでしょう。仕込まれている魔法はやはり混乱と催眠。姉様が耐性を持っていない状態異常ですね・・・。」
毒や火傷、凍傷といった状態異常には呪いの力なのか完全耐性があるらしいのだが、そういった生命を直接傷つけるような状態異常でない場合、睡眠や混乱、催眠といったものは油断しているところにやられると効いてしまうらしく、実際今回、嫌というほど味わった。
「たぶんここに集団で来た人たちを内部分裂させるための罠なんでしょうね。治癒が出来なかったら、操られた仲間に切るか切られるか、どちらかを迫られてしまうでしょうね。」
そういってルルはリリムが持っていた円筒状の魔法具を破壊し、シールへと回復魔法を掛けた後正座した。正確にはリリムとシールに正座させられていた。
「姉様、私たちの中で接触無しで治癒魔法が使えるのは姉様だけなのですから、私たちを盾にしてでも姉様は正常な状態を保つ義務があるかと。」
「そーだよー!それにルル姉強すぎてすっごいしんどかったし!てか、勝てる気しなかった!」
「あー・・・その節は大変ご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳く・・・いや本当に・・・ごめんなさい・・・。」
しゅんとしながら頭を下げるルル。なんというか、普段あれだけ冷静で余裕たっぷりなルルが正座をして落ち込んでいる姿というのは変な感情を呼び起こしそうになる。リリムは途中から鼻を抑えて他所を向いているし、シールは"謝ルル姉可愛いから許す"と言って笑っている。
本当に無事に終わってよかった。まだ遺跡調査は続くが、これ以上の難関が待ち受けているとは思えないし、ルルさえ無事ならなんとかなるだろう。
それだけに、ルルの立ち位置には常に神経を研ぎ澄まさねばならないのだが。




