27話 最強の敵
「サトウキビから作られる異国の砂糖に比べて、花から作る砂糖は柔らかな舌触りでしたが、うまく使わないと輪郭のぼやけた菓子になってしまいますね・・・。」
「母上、父上、兄上、ノエル様、先立つ不孝をお許しください・・・。」
「二人とも現実逃避してないで解決案出してー!!」
ここはアガレス王国北東の遺跡。現在この中では現実逃避をする者と、生を諦めた者と、何とかこの状況を脱しようと無謀にも挑む者がいた。
「それじゃ、遺跡の調査を始めるわ。とりあえず私が先頭を歩くからグラは罠の感知をよろしく。シール君とリリムは後方から襲われることがないように注意してね。」
「わかった。」「承知しました。」「りょーかい!」
三者三様の返事を返し、遺跡の内部へと入っていく。シルフィードがうっかり封印を壊してしまったこともあり、入り口から魔物に襲われたりもしたがさすがにそこは問題にならず、ルルが無詠唱で魔法を発動させ片っ端から殲滅していった。
この遺跡は山中へと延びていく遺跡のようで入り口は山の中腹より少し上のほうにあり、そこから下へと下っていくような作りとなっていた。
「普通の冒険者なら結構苦戦しそうだけど、魔物はルル姉が倒してるし罠はグラっちが見つけてくれてるから楽に攻略できそうだねぇ。」
「油断禁物ですよシール君。」
すっかり気を抜いているシールとそれを注意するリリム。シールの呼び方に関しては昨夜、含みのある言い方に聞こえるとか何とかで、ルルのことを"お姉ちゃん"と呼ぶのをリリムに禁止され、色々悩んだ末に"ルル姉"と呼ぶことに落ち着いた。ルルは若干不満そうだったが特に口出しすることはなかった。そして何故か僕を呼ぶ名前がグラっちになってしまった。理由は特にないというのがまた複雑な心境にさせる。ついでに僕から竜神シルフィードへの呼び方もシールに固定させられた。正直心苦しい部分もあるが本人がそれがいいというのであれば仕方がないと思い、シールと呼ぶようにした。
「それにしても、感知の魔法は便利ね。私ももっと勉強しておけばよかったわ。」
「ルルが身に着けてしまったら僕の活躍の場が完全になくなりそうだね・・・。あ、この先の広間にも罠があるね。でもこれは見たことがない魔法陣だな・・・。」
まあ何が来ても大丈夫よ。と自信満々に広場へと入っていき中央の辺りにたどり着いたルルに向けて突然ガスのようなものが円環の魔法陣に囲まれながらルルの顔目掛けて吹きかかった。
「あらら、油断しすぎだよルル姉。」
「シール君に言われるとは・・・姉様?どうしたのですか?」
ガスを浴びてからまったく動かなくなってしまったルルを不審に思い、リリムが近づいていったのだが、肩に手を掛けようとした瞬間突然リリムが吹っ飛ばされグラとシールの間を抜け壁に叩きつけられた。
「ぐっ・・・こ、これは・・・姉様・・・。」
慌てて振り返ると苦痛に顔を歪めながらも、すぐに光に包まれ受けた傷が回復したらしいリリムが警戒の体制を取っていた。
恐らく今の光に包まれたのが二人の持つ呪いの力なのだろう。どれほどの傷を受けたとしても瞬く間に回復してしまうその力は、圧倒的な力の差を持つ相手と敵対した場合、どれほど待っても死に逃げ込むことが出来ない絶望を与えるものでもあるようだった。
こちらをゆっくりと振り返るルルの目は赤く、自分たちがどうして立っていられるのか不思議なくらいの殺気を漂わせていた。
「これは催眠と混乱の魔法でしょうか・・・。今、姉様は思考能力を著しく低下させられ、回りの生命を全て奪うように催眠を掛けられてしまっているのだと思います。」
「それって・・・つまり・・・。」
リリムに現状を説明され脂汗が止まらない。現実を受け入れたくない恐怖で手足が震える。彼女が説明した状況を端的に言うのであれば・・・
「ルル姉が・・・敵になった・・・ってこと?」
「えぇ・・・。」
リリムが小さく頷き肯定した瞬間、シールのいた位置に炎弾が降り注いだ。頭上わずか数十センチの距離から突如現れたそれらを間一髪といった感じで後ろに避けたシールだったが、避けた先に今度は氷結の魔法が展開され、多少は防げたものの下半身は完全に氷漬けになってしまい、上半身も胸から上と右腕がなんとか動かせる程度になってしまった。そして今度はルルの頭上に大量の矢が展開されたかと思うと、それらが一斉に光り出した。
「ぐぅっ・・・!くっそ・・・ルル姉反則すぎるだろ・・・!」
竜神らしく、というのも変な話だが、氷漬けになった体を素早く治癒魔法を展開し解除しつつ、雨のように降り注ぐ光の矢を結界を貼り何とか防いだ。だがこのままではすぐに力が尽きてしまう。何とかそうなる前に突破口を見つけたいのだが、戦闘経験の浅さが故の焦りがこの状況での思考力を奪っていく。
「シール君!私に神速を!」
「わかった!風の祝福よ、彼の者に力を!神速の時を刻む疾風を与えよ!!!」
シールが詠唱するとリリムの周りが風の刃に包まれ、そしてリリムごと消えた。何が起きたのかを理解できたのは、それが起きた数秒後、そしてその数秒の間にも理解の追いつかない何かが起きている。
おそらくリリムは今、シールの補助魔法と自身の強化魔法を合わせて、眼にも止まらぬ速度で動いている。速度はそのまま威力となり、ルルの展開する光の矢を撃ち落とし、ルルの腹部に渾身の蹴りを打ち込んだ。眼に見えぬほどの速度で蹴り飛ばされたルルが壁に激突したのだが、その直後聞こえたのはリリムが攻撃を受けているであろう音と、苦痛に満ちた声であった。
そして、壁に激突し土煙を上げていたルルの姿が見えると同時に、膝をつき息を切らしているリリムが目の前に現れた。
「ダメ・・・ですね。一撃入れることは出来ましたが、姉様の無詠唱魔法の展開が早すぎて、神速を得ても避けきれません・・・。これは・・・諦めましょう。」
息を整えて立ち上がり潔く敗北を宣言した彼女を見て、間違いなくここで死ぬのだろうなと、悲しい確信を得てしまった。




