21話 夜間の会合
「夜分に訪ねてしまい申し訳ない。まずは、今回の件に関してご助力感謝する」
スフラの事件後、王都へと戻り数日がたった。王都は思っていた以上に広く魅力的で、数日観光し続けたがまだ行っていない店がいくつか残っており、明日残りを見て回ろうかと宿に戻り計画していた時、部屋の扉を叩く音がした。
「お客様、夜分に失礼いたします。ご面会ご希望の方がいらっしゃっておりまして・・・その・・・。」
言い淀む店員にどうしたのかと尋ねれば、会いに来たのはアガレス王国王妃と第一王子だという。とりあえず窓を開け荷物をしまい、いつでも逃げ出せるように準備をしてから扉を開け招き入れた。
「私はノエル・コートフール・アガレス。こちらは息子のアルマだ。」
「ご丁寧にありがとうございます。私はルル、こちらは妹のリリムと言います。このような姿で王妃様へ謁見する無礼お許しくださいませ。」
寝間着姿で王妃に会うなど本来ならば言語道断だろうが、ノエルは特に気にしている様子はない。息子と紹介された彼、第一王子であろうアルマもわずかに顔を赤く染め少しばかり視線を逸らしてはいるが不快に思っている節はなさそうだ。この二人は、スフラを襲った事件の顛末はエレナとグラセナ(グラの本名らしい)から聞いているとのことで、私たちがどういう存在であるかもすでに知っているそうだ。
「私は世間話というのがどうにも苦手でな。単刀直入に要件を伝えさせていただく。貴女らに伺いたいことが二つ、依頼したいことが一つある。」
まずはエレナの能力に関して。記憶の転写という能力自体は知っているが、どういう条件で、どれだけの転写を行えるのかという疑問。そして二つ目は竜神に関して。水の竜神はどれだけの期間スフラにいてくれるのか、というものだ。
ノエルは元王宮騎士にして現在は宰相でもあるという。王妃が宰相というのは聞いたことがないが、彼女も王子も疑問は抱いているようだが国王命令だから仕方がないと苦笑いをしていた。
そしてそんな国を担う二人だからこそ、国防に関するかもしれない情報を是が非でも入手したいということなのだろう。
「エレナの能力に関しては、彼女の右手で肌に直接触れた相手の記憶を転写します。転写する量に関しては恐らくですが心臓に近い場所ほど多く、また長い時間触れていることでも増えるでしょう。」
能力に目覚めリリムに触れた時は首元に4.7秒ほどだったが、それで何百年分もの記憶を転写できたのだから、一般人に対しては触れた瞬間に殆どの記憶を転写できるだろう。彼女の魔法技術に関してはリリムの記憶から鍛錬方法を見出しているとはいえ、彼女の努力の結果だろう。彼女が今の勢いで鍛錬と研究を続ければ、100年もしない内にリリムは追い抜かされるであろうほどに己に対して狂人的な修練を積ませている。尤も、人間が100年も生きていることなどそうそう無いが。
「なるほど。類まれなる才を持った天才が、膨大な知識を元に狂ったように鍛えたのであれば、あれほどの力を持っているのも納得・・・か。」
アルマが苦虫を潰したような顔をして呟く。おそらくは到底超えることなど不可能な現実を突き付けられた悔しさからだろうか。
グラは声も見た目も爽やかな印象を受けたがアルマは猛々しさを感じる見た目と声をしていた。
「やはりエレナ様を軍力として迎えるほうが良いのでは?能力に関しても直接触れなければよいのなら・・・。」
そこまで言ってノエルに制止させられた。まあ軍に関する話など今ここですることではないだろうし、その辺は本人たちも含めてそちらで解決してほしい。
「それと、竜神に関してでしたね。エリアスとは何度か会ったことがありますが、どれほどの期間いてくれるのかまでは測りかねます。」
それでも、面倒くさがりな彼女は数十年、あるいはもっと長い期間は移動もせずにだらだら過ごすであろう。隣国と緊張状態にあるアガレスにとって戦力として計算してもいい程度には力を貸してくれる予感はする。
「水の竜神は回復魔法や防御魔法を得意としています。彼女に知識を乞い、それらの技術を発展させておくのが最も効率的ではないかと思います。」
「なるほど。助言感謝する。その辺りに関してはエレナに一任するとしよう。」
この国の魔法技術に関してはほとんどエレナ一人で研究し発展させているらしい。王族専用の書庫というのがどれほどの情報量を持っているのかわからないが、竜神もまた膨大な知識を備えている。それを利用しない手はない。私が回復魔法を勉学した際にはかなりお世話になったものだと、少しばかり過去を懐かしんでいたが、ノエルが依頼を一つしたいと言っていたのを思い出しそれを口にする。
そして、リリムの出した紅茶を飲みながらノエルが話した依頼は、私たちの目的を達成するのにも、かなり利のある可能性の話だった。




