11話 消える姉と焦らない妹
「あそこが俺たちの村だ。」
「それなら、ここでお別れね。」
一夜明け雨も上がり、リリムの先導に従い麓も村付近までたどり着いた。まだ多少の距離こそあるが、ここから先は魔物も何もいないだろう。ダヤンとグラはそれぞれダルタとサラを背負っている。万が一に備えて遠目から見守ってはおくが、まあ大丈夫だろう。
朝方、サラの悲鳴のような絶叫で全員が目を覚まし、ルルが慌てて催眠と鎮静の魔法を掛け事なきを得た。
ダヤンは大人だからまだしも、サラは10歳になるかどうかというくらいの子供な上、父親と叔父が目の前で貫かれたのだ。そして父親は亡くなってしまったのだから、目覚めと共に自壊する可能性すらあったため、あまり良くないことだと前置きをしつつ、記憶の一部を封じる魔法を掛けておいた。それでも完全ではないが、あとはあの子次第な部分なので、これ以上干渉するつもりもない。
「地脈の魔が乱れるほどの"何か"・・・。魔物の召喚か、とんでもない力でも手に入れようとしたか・・・。何にしても穏やかじゃないわね。」
「調査しますか?」
見送っている間、特にやることもない二人が暇つぶし程度に話をする。だがルルとしてもそれほど興味があるわけでもなく、苦笑いをしながら必要ないとだけ伝えこれ以上の考察を打ち切りにした。
「王都に着いてからはどうしますか?グラさんの話だと夕刻前にはたどり着けるとのことでしたが。」
もちろんそれはグラに合わせて、通常の速度で歩いて旅をする場合だ。二人が本気になればものの数秒でたどり着くことすら可能だろう。だがそんな無粋な真似はしない。二人にとっては色々な世界・景色を見て回るこの旅そのものが目的でもあるため、わざわざ見識を狭めるようなことをする必要はない。
「そうねぇ・・・。ま、いつも通り着いてから考えましょ。」
「グラさん。悲報です。姉を見失いました。」
「そっかぁ・・・。この町に人さらいはいないと思うから大丈夫でしょ・・・。」
王都にたどり着きわずか数分で、気が付けばルルは姿を消していた。時刻は夕刻の辺り、城下町からは多種多様な食事処からいい臭いを漂わせていたため、ルルの行き先は分からないが目的は明らかであった。
むしろ気になる点はリリムの反応のほうだ。大好きな姉とはぐれてしまっているのに随分落ち着き払っている。初めてに出会った町では姉とはぐれてしまいかなり焦っていたと聞いていたのだが・・・。
そんな疑問を思い浮かべていると、察したのかリリムが答えてくれる。
「私は、知らぬ土地に一人でいると心がざわつき不安になるんです。自分では律することができなくなってしまいかねない程に。今はあなたがいるので幾分か落ち着いていられます。信頼している・・・というほどではありませんが、アガレス王国の王子ともあろう方が、私たちに害を成すとも思えませんので。」
特に表情を変えることもなく言い切るリリムだが、聞き捨てならない言葉にグラは度肝を抜かれた。だが、いい加減彼女たちの超人さにも慣れてきていたせいか、特に表情を崩すことなく返事をすることもできた。
「王子?僕がかい?」
「おや?違いましたか?あなたの見た目も魔力反応も、あなたの先祖と瓜二つでしたので。」
父親や親族ではなく先祖と来たか・・・。一体何代前の先祖のことを言っているのか聞いてみたいような聞きたくないような・・・。だが、彼女たちはこの国へは初めて来たと言っていた。いやそれを言ったのはルルだけでリリムは何も言っていなかったな。ということは彼女はこの国へと来たことがあるのだろうか。何にせよ、こんな大通りで話す内容ではないことは確かだ。
幸いにも回りの人に聞かれた様子はなく、恐らくリリムも聞かれないように音の方向や距離を調整したのだろう。それは隠密としてのスキルでもあり、グラも会得してるためそれほど不思議でもなかった。
「そうだね・・・。まあここでする話でもないだろう。せっかくだから王宮へ案内するよ。そこで、僕のことも話すし、色々と聞かせてほしいからね。」
「特に予定もありませんので。あぁ、ただ、途中で姉を見つけたら少しばかり寄り道させていただきます。」
そう言って二人は王宮へ向かい歩き出した。




