101話 風の刀とたこ焼き泥棒
「伝導師ってのも大変そうだねぇ。あんなに絡まれるものだとは思わなかったよ。」
シトリの街について一夜明け、宿には朝から民衆が集っており各々の言葉で伝導師への面会を求めていた。
「アガレスではあまり宗教とか気にしてる人もいなかったからなぁ・・・。シトリのように国教があるとこうも違うんだな。」
リリムは朝から伝導師としての役割を果たすため宿に留まり、ルルはその補佐をするといって同じく宿に残った。さすがに街中で危険にさらされる心配もないということで、僕とシールは街中に出て適当に散策をしている。
「お?グラっち・・・じゃなかった。セナル!あの店からいい匂いがしてくるよ!行ってみよう!」
「フィドル・・・君が指を指しているのは武器屋のように見えるけど・・・?」
他国への潜入ともあって、以前ノエル様がしていたように僕らも名前を変えている。といっても、まったく違う名前にしてしまうと馴染まず問題が出てきてしまうかもしれないため、本名を少し変えた程度のものではあるが。
「違う違う。その横。ほら、香ばしい匂いが・・・。」
シールに腕を引っ張られ連れて行かれた店は、入口部分に店内と外とを遮る扉や壁がなく、屋台のような感じに見受けられる。机と椅子も内外に並んではいるがその数は少なく、どちらかといえば持ち帰りが主とした店のようだ。
そこで調理されているものは、丸いくぼみがいくつも並んでいる不思議な鉄板で焼かれている球状の食べ物であり、お祭りの時などにはそれなりに良く見かけるものだ。
「お姉さん!六個入りを二つください!」
「お!嬉しいねぇ!こんなおばさんをお姉さんだなんて!おまけで二つ多くしてあげちゃうわ!」
見た目的にはお姉さんとはとても思えなかったが、こういう店をやっている女性はお世辞とかに弱いから、綺麗なお姉さんとか言えばおまけがよくもらえるものだという。さすがは子供歴百年越えの猛者だ。世渡り上手というかなんというか・・・。
「ま、美味しいものが沢山食べれるなら何でもいいか。」
「そうそう。ん?隣の武器屋が何か騒がしいみたいだけど・・・どうしたんだろう?」
シールが様子を見にいってくると言い出して席を立ったので、こっそり一つシールの皿から食べつつ武器屋の様子を伺う。金は払わないだとか何とか聞こえる辺り、客が支払いを拒んでいるようだ。
「こんなもんに金なんか払えるか!」
「待ちやがれ!・・・ちくしょう・・・またこんなだよ!あーあ、やってられっか!」
中の様子をこっそり伺っていたら、客だった男が手に持っていた剣を投げ捨てて店から出て行った。入れ替わるようにして中に入って確認したところ、どうやら投げ捨てたのは魔剣のようで、その出来は中々の物だった。
他にも、店に並べられている武器は変わった形の物が多いけど、どれもしっかりとした作りになっている。癖のある武器ばかりだが、”こんなもの”と言われるような出来ではないと思う。
「なんだガキ!ここはてめぇみたいな奴がくるところじゃねぇ!」
「ねぇおじさん、さっきの人はどうしてこれを捨てていったの?」
捨てられた剣は風の魔法を纏っており、片刃しか付いていない。いわゆる”刀”と呼ばれるもので、一般的な騎士や冒険者が持っている剣とは異なるものだ。
「俺が知るか!魔剣が欲しいっていうから叩いてやったらコレだ!」
今出て行った客は冒険者のようだったし、ならば求めていた魔剣は炎系の魔法が付与された両刃の剣だったのかもしれない。敵の攻撃を受け止め、分厚い体を貫くのにはこの刀は不向きだ。まあ、それで怒るのもどうかと思うけど・・・。
「おじさん、いらないならこの刀は僕が貰っていくね。お金はどこに置いたらいい?」
「ふざけるな!お前みたいな奴に俺の魔剣が扱えるわけ・・・!?」
言葉を遮るように、刀に付与された魔法を解き放つ。これは僕も良く使う風刃だったため制御は簡単だ。違う点があるとすれば、風を見えない鞭のように扱うことができるようで、風の鞭を使っておじさんを捕らえ、軽く吊り上げてみた。
「これでも、僕は風の魔導士なんだ。それで、"もう一度だけ"聞くけど、この刀はおいくらかな?」
今度は少しばかり語気を強めて訪ねる。もちろんただ脅しているだけではなく、この刀の購入が同情ではなく、僕が欲しいからだと思わせるためだ。
実際僕は近接戦が得意じゃないし、それようの武器なども持っていない。この刀があれば多少はマシになるだろうから、一応必要としている。
「ガキ・・・お前何者だ・・・。・・・金はいい。その刀を大事に使ってくれ。」
さっきまでの威勢はどこへいったのやら、おじさんはすっかり静かになってしまいこちらをまじまじと見つめてくる。これが綺麗な女性の視線ならいくらでも受けていられるのだけど、ヒゲ面のおじさんになんて数秒だって見つめられたくない。
とりあえずタダで貰うというのも後味が悪いので、それなりの金額を包んで置いておく。これをどうするかは自由にすればいいとだけ伝えて店を出て席に戻ると、そこにあったのは空になったお皿が二枚残っているだけだった。
「一緒にいたお兄さんなら、"冷めるともったいない"って言って全部食べてどっかに行ったよ。持ち帰り用のお代は貰ってるからこれ持って追っかけな。」
おばさんから十個入りの箱を受け取り、大急ぎでグラっちの後を追った。そういえば貴族の畏まった料理より縁日の屋台で売っているような食べ物のほうが好きだとか言っていたなぁ・・・。




