10話 救いの手
「はっ?何故そんなことを・・・」
突然の発言に混乱を隠せない。彼女たちと出会ってからまだ数日だが、すでに何度混乱したかわからない。だが今回は僕だけでなくリリムも戸惑っている。いつの間にか消火し服は乾いていた。
「彼らがここへ来た目的は分からないわ。ただ、この山が危険だというのは知っていたはず。そんな所へ子供を連れてくるわけないでしょ?ということはここへ来たのはこの子一人。そして大人二人はこの子を探しにきたというところかしら?」
確かにその通りだ。ここに限らず山脈が危険地帯だというのは国の常識と言っていいだろう。他国から紛れ込んできた可能性はほぼない。この近辺の監視網を超えてくるような奴がこの熊に遅れをとるとは思えない。だがそれでも、彼女の前の発言と繋がらない。
「・・・姉様は・・・名も知らぬこの子を守るのですか。」
先にルルの思惑を理解したリリムがぼやく。付き合いの長さの差だろうか。あるいはリリムの頭がいいのか。・・・僕の頭が悪いという可能性はないと思いたい・・・。
未だ理解しきれていないグラに対してルルは説明を続ける。
「仮に、真実を説明したとするわ。熊の魔物に襲われ、彼は命を落とした。私たちが通りかからなければ全員死んでいた。その場合、罪に問われるのは、責を咎められるのは誰になるかしら?」
なるほど、禁足地へ入ってしまった子に責があるのは当然だ。この子のせいで男は死んだと責め立てられるかもしれない。だが彼女が殺したことにすれば、責は変わらずとも、憎しみはこの子へは向かない・・・。いや、彼女の方へいくらか逸らすことができる。そうすることでこの子を憎しみの対象から外そうということだろう。
「山を登っていたら突然人に出会った。武装していたため野党と思い刺したけど直後に子供が見え自分の過ちに気が付いた。なんとか回復を試みたが一人は間に合わなかった。犯人は"2人組"で逃亡中。筋書きとしてはそんなところかしら。あなたには彼らを村へ送り届けた後、村の人たちにそう報告してほしいの。」
視線を貰ったグラは納得は出来ないが仕方がないと頷いた。
だが、それを断る声がした。
「悪いが、それは聞けない・・・。助けてもらったうえに罪を押し付けるような真似は・・・できない。」
「あら、起きてたのね。」
男がゆっくりと起き上がる。意識こそ早くに戻っていたようだが体を動かすことができなかったようだ。
「ひとまず、救ってくれたことに感謝する。ダルタは間に合わなかったようだが・・・サラだけでも無事でよかった。」
男の名はダヤン、亡くなったダルタという男は彼の弟でこの子、サラと呼ばれた子の父親だそうだ。彼は真実を説明し、命の恩人を村へ迎え入れ感謝をしたいと伝えてきた。
だがそれでも、ルルの考えは変わらなかった。
「それは受け入れられないわ。話を聞いていたのならあなたも分かっているはずよ。それに、憎むべき相手を目の前に置いてしまったら人はどんな行動をとるかわからない。そうなったら、この子は壊されてしまうわ。私たちを憎んでくれたほうが、その怒りも憎しみも前へ進む糧となるわ。私たちがそれでいいと言っているのよ。それとも・・・あなたはこの子を壊したいのかしら?」
少しだけ眼に力を込めて威圧するように伝えるルルに男は何も言い返すことはできなかった。複雑な心境であることはわかる。ルルの言い分もよくわかる。それだけに、これ以上誰も何も言えないでいた。
だからこそ、リリムがダヤンの肩を軽く抱き、囁いた言葉に救われたような顔をして休眠に入ったのだろう。
「あなたが、私たちのことを忘れずにいてくれればそれでいい。それだけで私たちもまた、救われる。」




