1話 世界を救った彼らのエピローグ
コミケ待機の暇つぶし用なので、コミケ期間内に完結させるつもりです
完結できなかったら連載作品化します
そうして世界は救われた。
『豪腕無双』ライオネル・アンダーソンは、国家の軍務をあずかる立場に就くという。
苛烈な性格をした彼に指揮される兵たちを哀れみつつも、仲間たちは『向いているよ』と笑った。
『万能の癒し手』オーギュスト・バジューには神殿での仕事が待っている。
戦いに向かぬ穏やかな男だった。神に祈り、神にその身を捧げるのは、彼の性分に合っているだろう――その穏やかで明るい余生を想像し、仲間たちは『お前らしいな』と微笑んだ。
そして――
『至高の賢者』と呼ばれた男がいた。
「お前はどうする?」
『豪腕無双』の問いかけに、賢者は答える。
「私は転生し、未来を見てみようと思う。……この時代では少々有名になりすぎたからね。誰も私を知らない時代で、再び生きてみようと思うんだ」
『豪腕無双』と『万能の癒し手』は、寂しそうに「そうか」と言った。
転生――
そういう術式があることさえ知らぬ二人ではあったが、賢者が『ある』と言うならば、それは『ある』のだと疑いもしない。
彼ら三人はかたい信頼で結ばれていた。
性格も、生まれも違う三人ではあった。
ケンカも絶えなかったが――
ともに、『世界を滅ぼすモノ』と戦った仲間なのだ。
心の底には、互いに対する尊敬があった。
「『賢者』よ、あなたは、未来の世界でなにを成すおつもりで?」
『万能の癒し手』は問いかける。
『豪腕無双』が豪快に笑い、予想を語る。
「そりゃあ、こいつのことだ! 魔術学院の長なり、宮廷魔術師なり、なんだってできるだろう! それとも、次の『世界を滅ぼすモノ』の座にでもおさまってみるか!? 俺たちのいない時代だ! さぞかしやりやすいだろうぜ!」
ガッハッハ、という笑い声が耳朶を震わせた。
『賢者』はかすかに笑みを浮かべ、
「いや、もう、魔法はいいよ。私は次の人生こそ、趣味に生きてみようと思う」
「そういえば、あなたの趣味とは? 魔法研究以外の趣味があるようには見えなかったのですが……」
『万能の癒し手』の問いかけに『賢者』はこう答えた。
「作家になりたい」
「……」
「……」
「冒険物語をつづり、多くの人を喜ばせるような……読者の笑顔を作るような、作家になりたいんだ」
仲間たちは一瞬だけ虚を突かれたような顔になった。
けれど、口々に、「それは素晴らしい」と賞賛してくれた。
読者の笑顔に奉仕する職業。
なんと素晴らしいことだろう。
『賢者』は転生後の素晴らしい人生を思い描き――
仲間たちに別れを告げて、今生を終えることにした。
◆
そして、五〇〇年後――
新しい肉体にもなじみ、作家になるという夢を果たした賢者は、心の底から、こう思うのだった。
「編集も読者も死ねぇぇぇぇぇ!」




