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8 吸血鬼の住処

 北を目指して馬車は進む。


「今さらなんですが、この馬車ってどこに向かってるんでしょうか?」


「…坊っちゃま、説明はされていないのですか」


 ミザリーが硬質な視線でヴァルを見る。


 ヴァルの方もふて寝はやめたようで、頬杖をつきながら応じた。


「当主な。

 そういや言ってなかったかな? そういやぁ………領地としか言ってないね」


「…では、ワタクシから。

 今向かっているのは坊っちゃまの領地、森にある別邸の一つですね。

 そちらにあらかじめスケルトン達に集まっていただいています。

 森の中程にあり、迷いの結界の内側ですね。

 別邸とはいえそれなりの設備は整っておりますので滞在にも問題はありません」


「森の奥にたたずむ屋敷なんて怪しさこの上ないと思うんだけどな~、先々代の趣味だっけ?」


「そうですね。趣の違った別邸を七つ程建てられております」


爺殿(じじどの)は建築マニアだったってことか。本城、支城二つ、別邸七つ……………多いわ!!」


「そんなにいっぱいお家があるんですか…」


 孤児院出身のアズマリアには想像もできない贅沢さ。

 家などひとつあれば十分ではないだろうか。


「向かっている屋敷は比較的この地域の建築様式にかなった造りです。

 オラシアの街の貴族や裕福な商人の屋敷を想像していただければと。

 他の屋敷には東洋や南洋風の建築様式もありますので機会があればご案内いたします」


 南洋風どころか普通の屋敷も想像がついていないアズマリア。

 上流階級の(ぜい)をこらした屋敷とはどんなモノかと期待に膨らんでくる。


 窓の外を見れば徐々に木々の占める割合が増えてきていた。


■■■


 鬱蒼と茂った森、怪しげな鳥の鳴き声、全体的に黒っぽい建材で作られた屋敷、その屋敷に絡み付くように生い茂る不気味な(つた)


 アズマリアの感想は恐怖の館、もしくは呪われた館。

 とにかくオドロオドロしい雰囲気の形容詞しか似合わない建物である。


「………思っていたのと違う」


 屋敷の玄関先に停車した馬車から降りたアズマリアの第一声がこれだ。


「到着したね~」


「こちらが当家の別邸となります」


「あの~、ホントにここですか? 森の廃墟とかじゃなくて!?

 壁とか漆喰が崩れてませんか!?」


「仕様です」


 しれっと言うヴァルをひっぱたきたくなったアズマリア。


「説明いたしますと、先々代のこだわりによる破損の再現がなされています。

 内部は問題ありません。

 当家の使用人が定期的に状態の保全につとめておりますので」


「これはこれで吸血鬼の住処(すみか)としてはふさわしいよな」


「落ち着きます」


「様式美だな」


 なにも問題はない、といった風に和やかに会話する人外二人。


 駄目だ、人と魔物は決してわかり合えないのかもしれない!!

 アズマリアはそう思った。


「ではどうぞ中へ、ご案内いたします」


 正面の大扉が開けられる。


「わあ~!!」


 朽ちかけの外観とは裏腹に、吹き抜けのホール部分はこれぞ豪邸という趣だ。

 真紅の絨毯、輝くシャンデリア、左右から弧を描くように伸びる階段、そこかしこに配置された調度品や絵画。


「こういうのです、こういうのです♪ これがワタシの思ってた豪華なお屋敷ですよ♪」


「ご期待にそえたようで何より」


 一度下げられた分より高揚したアズマリアが壁際に置かれた調度品を見て回っていく。


「高そうな壺ですね~♪ 額縁に入った絵なんて教会の宗教画しか見たことないです!! これなんかキンキラですね~♪ これなんて薄汚く見えますけど不思議と歴史の重みを感じますよー♪」


 アズマリアの『こいつ金持ってんな』感覚にビンビン来ているようだ。


「由緒ありそうな甲冑!! 剣も盾も立派です♪ こっちの頭蓋骨なんて真っ白………って?」


 立ち姿の甲冑の横に置いてあったのはいわゆる骨格標本というヤツだろう。


 本の中で悪い魔術師の部屋に置かれているようなモノがどうしてこんなところに? と思ったが、よく考えたら悪い吸血鬼のお屋敷だから不思議でもないのかしら?と思い直すアズマリア。


 微妙に失礼な事を考えている。


 すると骨格標本の頭蓋骨が向き直りカタカタと顎を揺らした。


「ッエエエエエエエェェ!?」


 突然の事に腰を抜かして座り込み、そのまま後ずさるアズマリア。

 骨格標本はスケルトンだったようだ。


「おや、スケルトンさん?」


「屋敷内に入り込んでしまいましたか。

 屋外で待機していただく手筈だったのですが」


「待ちきれなかったのかもしれんけど、外で待っててな」


 ヴァルに言われたスケルトンはそのまま玄関から出ていく。


「大丈夫? アレが君の浄化の対象になるんだけど?」


 しりもちをついた格好のアズマリアを引っ張り起こし問いかける。


「と、突然で驚いただけです。

 …念の為確認なんですけど、スケルトンさん達ってワタシを襲ってきたりしませんよね!? ね!?」


「そこは任せて。

 キッチリ手綱は握ってるから」


「………あの、今のスケルトンさんは?」


 今しがた主人の想定外の動きをしていた実例を見たばかりだ。

 不安がつのるのも無理はない。


「この屋敷に集まってね~っていうのを誇大解釈しちゃっただけでしょ。

 もしくは人だった頃の人格の名残かな?

 ほら、集団行動すると一人ぐらいは待ち合わせで間違えたりする奴いるでしょ。普通に考えたらソコしかないって筈の場所なのに、どこをどう間違えたら違う場所に行くんだって奴」


「まあ、なんとなくわかりますが…」


 駄目だコイツ、と心の中で毒づくアズマリア。

 不安の解消に向いた人材ではなかったようだ。


「アズマリア様、安全に関してはワタクシが保証いたします。

 元々当家の方針として、支配下にあるアンデッドは人間に危害を加えないようにとの命令が徹底されていますので。

 先の勇者の襲撃等の非常時は別でございますが、基本安全でございます」


「ミザリーさんが言うなら…」


「なぜに…解せぬ…」


「「日頃の言動です」」


 綺麗に揃った声を聞こえないフリをし、明後日の方向を向くヴァルだった。


「まあ、驚かせてしまったのはコチラに原因がなくもなくもないにせよなきにしもあらずなので当主としてスケルトンさん達の様子を見てくる事にしよう。

 ミザリー、彼女を部屋に案内してから例の場所に連れてきてくれ。

 女性の準備は時間がかかるのはわかってるからゆっくりでいいぞ」


「了解いたしました。

 が、気を使うのはよいとして、声に出す必要はありません。

 また、坊っちゃまがよくおっしゃるセクハラにも該当します」


「ぐぎぎ………」


 奥歯を噛み締めて外に出ていく当主。


「アズマリア様、お部屋へご案内いたします」


「はい」


 どことなくいい気分に見える背中に案内されて廊下を歩いていく。


 案内された部屋の内装の豪華さにアワアワしつつも旅装を解き支度を済ませ、ここに来た目的の為に気合いを入れた。


「ん!!」


 頬をピシャリと叩き部屋の外で待つミザリーと合流する。


 これから《浄化》を行うのだ。



  

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