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4 吸血鬼の素性

 

 応接室のソファに受付嬢を寝かせた吸血鬼とアズマリア。


 協同作業と受付嬢さんの乙女の秘密の共有。


 この二つによって心の距離が縮まった二人は対面し、先程の『出合い頭《奇跡》ぶっぱ事件』のいきさつについて確認していた。


「………じゃあなに!?

 君は勢いで依頼を受けて、

 後になって不安になって、

 出来れば断りたいな~って思って、

 食べたクッキーを後ろめたく感じて、

 被害妄想でクッキーの幻覚を見て、

 それを消し去る為に《破幻(イマジンブレイク)》をぶっぱなして、

 たまたまそのタイミングで俺たちが入室した、

 と!?」


 あまりにあまりな現実だった。


「…マジかよ………万が一の高レベル者対策に精度を上げまくった幻影魔術が…問答無用で。

 それがただの偶然!? っなんだよそれ………」


「あ、あはは…」


 事実を知って落ち込む吸血鬼。


 悪いと思ったのか、お茶を淹れてもてなすアズマリア。


 先ほどまで飲んでいたお茶の残りだ。


「お茶なら君の血がいい…」


 ジト目で責めてくる吸血鬼。


 アズマリアも最初は怯えていたが受付嬢さんのアレ以降なんとかなっていた。


 未だ恐怖はあるのだが、嘆く姿や拗ねる姿を見てその人間臭さに中和されてきているのだ。


「そ、それはちょっと」


 お茶の入ったカップとお茶請けを献上してお茶を濁す。


「?このクッキー、器の大きさの割りに数が少なくない? 高級品なのかな?」


 一口かじって「…普通」と呟く吸血鬼を見て一矢報いた気になるアズマリア。


「…まあ、納得はいかないけどそんな事もあるか…いや、ねーよ、あり得ないって…」


「その、人生に『こんなはずじゃなかった』なんてざらにありますから。

 良きにしろ悪きにしろ呑み込んで次に進むしかないですよ?」


「お、おう…」


 短い間に絶望→希望→絶望→大混乱を経験したアズマリアの儚い笑顔。


 吸血鬼をしてなにかを感じ入らせたようだ。


「とりあえず自己紹介をしようか。

 俺の名はヴァルゲイン、見ての通り吸血鬼だ…はぁ、ホントなら人間の貴族でヴァルゲイン=フォン=ベオウルフとかって設定もあったのになあ……まあ、それ無しでも少し長いからヴァルでいいよ」


 役作りの設定を考えた時間が無駄になったことを嘆く吸血鬼ことヴァル。


「第九等級の冒険者で神官のアズマリアです。

 その、お聞きしたいのですがヴァル様は最近勇者様に倒されたという吸血鬼………だったり、しません、よね?」


 一月前に勇者パーティに吸血鬼が退治されたとお触れがあったばかりだ。

 

 無関係とは思えない。


 もし、退治しそこねた本人が人の町に来るのだとすれば、考えられるのは人への報復。


「あ~違う違う」


 本人ではなかった。


 胸を撫で下ろしたアズマリア。


「あれ、俺の親父殿(おやじどの)。息子ね、息子」


 本人じゃないけど身内でした。


 どうしよう、復讐の線が消えない。


「あの~ぉ、ひょっとして、ひょっとしてなんですけどヴァル様は復讐に来てるとかないですよね!? 

しませんよね?」


 直球で質問するアズマリア。


 まだ成人して間もない少女に腹芸など出来ないのだな、とその愚昧さを愛しく思うヴァル。


「もしそうなら勇者様のパーティはすでに旅立っていますのでどうか矛先はそちらへ…」


 なかなか(したた)かな娘だなと評価を訂正するヴァル。


「…勇者に復讐するつもりはない。同じようにこの街や周りの街にも危害を加えるつもりもない。

 君の神に誓ってもいいよ」


「ホントですか!?」


「本当」


「ホントのホントですね? 

 嘘ついたら焼串百本爪の間に通しますよ?」


「なかなかエグいね。

 俺の知ってる脅し文句は針千本飲ーますぐらいだったんだけど…

 君の神って邪神かなんか?」


 考えてみれば針千本飲ますのもなかなか無茶な行為だ。


 実際には約束の際に多用されるただの定型文なので、その地方の風土やその時々の流行等を取り入れて変遷していっても不思議は無いのだろう。


「ともかく本当。誓います。この話はここまでっ!!

 吸血鬼が言っても信じられないかもしれないけど、こうなるって予想してたから人の姿に化けてたんだからな!?

 それを台無しにしたの君だからな!?」


 ちょっとキレかけているヴァル。


 幻影魔術を破られた件は彼の矜持(プライド)的にかなりの痛痒(ダメージ)だったようだ。


 アズマリアにしても痛いところをほじくり返されたくはないのでとりあえず話題を変えてみる。


「でも、じゃあ何をしに来られたんですか?」


「いや、だから普通に依頼しに来たんだよ。

 《浄化(ピュアリフィケイション)》を使える人材を探しに」


「なんの為にですか?」


「それも依頼書に書いてあったでしょ。

 アンデットの浄化だって」


「???」


 理解できないという顔をするアズマリア。


 吸血鬼といえば闇の眷属の代表格。

 

 そして同様に闇の眷属であるアンデットを使役するのがお約束だ。

 部下みたいなものではないのだろうか?


「そのぉ…スケルトンとかレイスとかのアンデットって吸血鬼にとっては部下みたいなものじゃないんですか?」


「そうだね。

 細かく言うと色々違う部分もあるけど、その認識で大体合ってる」


「それを浄化しちゃうんですか?」


「そう」


 あっさりと頷くヴァル。

 

 吸血鬼と人、認識のズレが生じている。


 戦争中にわざわざ敵軍から兵士を呼び込んで自軍の兵士を処刑するような行為。


 往々にして違和感を感じる行動は不審や疑念を生む。


 その裏になにかあるのでは、と。


「………なにか企んでませんか?」


「まあ、そう思うよね。

 何度も言うけど、そう思われたくなくて変装してたんだからね…」


 小さく嘆息してヴァルは語り始めた。




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