27 女騎士の強敵
先手をとったのはシズク。距離を詰めた勢いのままに突きを繰り出す。
目を狙った一突き…かと思われた刹那、切っ先がぶれ一が三になる。目、喉、胸を狙った三段突き。
それを細剣で払い、横に回り込みながらの薙ぎで首を狙うケイ。
だがそれもシズクの体さばきによってかわされた。
「…初撃で決めるつもりなら、欲張り過ぎだぞ」
『挨拶代わりです。まあ、大抵の相手はこれでさよならの挨拶も兼ねられるのですがね』
「それはご丁寧、に!!」
今度はケイから斬りかかった。
上体を狙った薙ぎを後方に距離をとってかわされるが、想定内だったのかそのまま前進しつつ体を回転させ足元を狙う。
が、それも跳んでかわされ、今度は跳んだ勢いで大上段の振り下ろしを仕掛けるシズク。
引き戻した細剣でそれを受けるケイ。細剣と刀がぶつかり合った。
そのまま鍔迫り合いとなり押し合う形になる。
それも一瞬の事で、すぐさま離れ距離を取り合う合う二人。
『押し切れませんでしたね』
「力も強いな。アンデッドとしての力か!?」
『鍛錬の賜物です。あと、押し合いは力だけでするものではありませんよ』
軽口を叩き合う二人。気付けば両者の立ち位置は最初に戻っていた。
「さて、次はもう少し強目にいってみようと思うのだが…」
『もう少し、と言わずに全力で構いませんよ? それも凌いで、返す刀で斬って差し上げます』
「フッ、言ったな…」
小手調べは終わりとばかりに両者が笑い合う。同時に闘気が立ち上った。
剣に生きた二人の女の饗宴が始まった。
■■■
一方、観戦ルームと化した控室。
『おお~、一瞬の攻防でしたな』
『俺、あの三段突きで殺られた事ある』
『にしてもあの騎士殿、今のところシズク殿と互角にやりあってますな!?』
「今代の剣聖候補までいった訳だからなぁ、ちょっと性格には難ありだけど剣の腕は確かみたいだな」
『え!? 我、その情報初耳なんですけど!?』
『俺は知ってたぞ』
『俺も…つうか、前の説明会で若がいってたじゃん。居眠りでもしてたか!?』
『ウッ……』
二人の攻防を見てワイワイと感想を言い合うヴァルと死霊騎士達。
だが、それについていけない者もいた。戦闘系はからっきしのアズマリアである。
「あのぉ、お二人の姿がブレたかと思ったら、また同じ位置にいるんですけど……何かあったんですか?」
心底不思議そうな顔でヴァルに尋ねる。
「ん!? 見えなかった? 一瞬の間にこんな攻防があったんだけど……」
と内容を説明するがピンときていない様子のアズマリア。
「ほえ!? あの一瞬にそんな事が!? 嘘ですよね?」
「ん~、ダメか…じゃあスロー再生するか」
そう言って魔術の投影画像に手を向け数度指を動かすヴァル。
すると画面が少し前に戻り、さらにそれがゆっくりと再生された。どうやらこの投影魔術には録画やスロー再生の機能もついているらしい。
「こんな感じで動いてたんだけど」
「……うそん」
唖然とした表情で感想を漏らすアズマリア。目も口も見開いており、まるで時おり遺跡から発見される古代の人形のようだ。
そんな表情を楽しんでいたヴァルだったが、死霊騎士の一人から声がかかる。
『…あのぉ…若、畏れおおいのですが続きを観させていただけないでしょうか…』
スロー再生のまま停止してしまった画像を指しながら、恐縮した感じでお願いしてくる死霊騎士。
「ああ、悪い……とりあえず普通に戻していい?」
部下からの陳情に応じようとするが、その前にアズマリアに対して断りをいれるヴァル。
一応、アズマリアはゲスト的な扱いらしい。
「はい、どうぞどうぞ……正直、見ててもよくわからないので、ワタシの事は気にせず皆さんで楽しんで下さい」
「なんかゴメンね?」
『申し訳ない』
そう答えると画像が変わり、動き出す。どうやらスローや停止をしている間に戦況が動いていたようだ。
先程までの足を止めた戦闘から、移動しながら斬り結ぶ形になっていた。
『おお!! あれは縮地か!?』
「久々に見たかも…」
『縮地…からの一閃、ひええ…背筋が凍る』
『しかし、それに対処する女騎士殿も大したモノですな。上手く剣筋を限定するように動いている』
『見たところ速度ではシズク殿に軍配が上がるが、見切りと防御の技術においては女騎士が上といったところか』
『そうですね、どちらも高い水準まで鍛えていますが…特にそれらが秀でているようですね』
『僕みたいな背中の魔大砲に全振りしてる色モノとは違いますね…』
「レオはレオで、攻城戦とか逆に防衛戦ではスゴい頼りになるんだけどねぇ、対人戦はなぁ…」
『シズク殿はどうやって防御を突破するか? 女騎士殿はどう変幻自在に動く相手を捉えるか? そんな感じになりそうですな』
ヴァルと死霊騎士達は画像を見ながらワイワイと剣術や戦術論について語っていた。
それを見ていたアズマリアは『なんか同期の女友達に聞いた、彼氏の趣味仲間の集まりの場に連れてこられて、一応紹介はされたけど基本ほっとかれてる彼女みたいな感じだな』なんて思ったりしていた。
そんな風に思われているとは知らず、野郎共は楽しそうに観戦している。男は戦い、とりわけ一対一の勝負というモノが大好きなのだ。
「おっ!? 戦況が動きそうかな?」
■■■
縦横無尽に攻めたてるシズクと堅牢堅固とばかりに守るきるケイ。
足を使った高速戦を経た後、両者が選んだのは真逆の戦闘スタイルだった。
『よろしいのですか!? 打たれ放題ですよ』
剣の届かぬ間合いから一瞬で距離を詰め、斬撃を繰り出したかと思えば間合いの外に離脱という一撃離脱を繰り返すシズク。
東洋で縮地と呼ばれる移動術…闘気によって強化された脚力と秘伝の歩法、重心の移動…を用いた戦法は、生前からシズクがよく使っていたモノだ。
かつての戦場において多数を相手取り、一刀毎に血飛沫を散らせたシズク。その血飛沫を花が散る様に見立て、ついた異名が花鬼だ。
そんなシズクの猛攻を凌ぎ、かわし、また防ぐケイ。
「フン…だったら、さっさと仕留めてみるがいい。ご覧の通り私はまだピンピンしているぞ」
シズクの縮地は速いが、その動きはきわめて直進的。
ケイはその軌道を見極め、予想しうる剣撃を時に細剣、時に全身に纏った甲冑を用いて刀の峰や横腹を弾き逸らしていた。こればかりは全身鎧を着ていた強みだ。
さすがに刃の部分に当てられれば斬られる可能性が高いので避けているが。
逆に先程の動き回る高速戦では重石となり余分に体力を奪われていたりもするのだが。
ケイも鍛えているので多少動き回ったくらいで息切れしたりはしないが、シズクのような強敵相手ではそれが勝敗を分ける要素になり得ると思い、足を止めての防戦を選んでいた。
天性の見切りにより徐々にシズクの剣筋に慣れつつあるケイ。
だが、シズクもそれを感じつつあったようだ。
『フム、速度重視の斬撃ではラチがあきませんか……なら…フッ!!』
「なに!?」
それまでの斬撃の軌道を変え、逸らしにきた細剣の方を逆に打ち払うシズク。
体を崩されたケイを尻目に、今回は離脱ではなく跳躍し、大上段に構える。
『想鬼流、三の秘剣、《千年花》!!』
「ッ!?」
見かけはただの大上段からの降り下ろし。
だが、ケイの目には大量の闘気が刃に集中していくのが見えた。
勘が囁く。『アレをまともに受けるのはマズイ』と。
「クッ、大いなりゅ光もて裁きの力となせ!!《聖撃》!!」
とっさの判断で出たのは奇跡《聖撃》。
光が弾け衝撃を生み出す《奇跡》、直接的な攻撃力を持つ珍しい部類の奇跡だ。ちょっと詠唱を噛んでしまったのはご愛敬だ。
それを迫りくる刃でなく、シズクの左肩を狙って放つケイ。
『なっ!?』
跳躍して宙に浮いていたのが仇となり、踏ん張りが利かず体の軸がぶれ、狙いがズレる。
《聖撃》を放ったケイもその場から離脱する。ただの勘だが、離れないとマズいと感じたのだ。
結果、それは正しかった。
『チッ!!』
降り下ろされた刀が本来の対象を失い、空を斬って地面に触れると…衝撃と轟音が爆ぜた。
決闘場の地面が大きく抉れ、土砂が周囲に飛散しケイの鎧にも幾つかの石がぶつかり硬質な音をたてている。
その破壊力たるや、すでに斬撃と言うよりも魔術の域に近い。
見れば、シズクが技を放った箇所は抉れ小さなクレーター状になっていた。その中心で刀を叩きつけた姿勢から立ち上がるシズク。
「………」
『……宙にいる私への対応、お見事でした。
不意をついた《聖撃》……仕合前に言っていた通り大した威力ではありませんでしたが、要は使いどころですね。
攻撃用の《奇跡》を狙いをズラす為に使うとは』
自身の左肩を撫でながらケイを称賛するシズク。
『その後の離脱の思いきりのよさも、良かったですね。
まともに食らえばそこで勝負は決まっていましたし、まともでなくても至近距離で余波を受ければタダでは済まなかったでしょうから』
「…嫌な予感がしたからな」
『ですが、次は外しません。
そうですね…せっかく秘剣を出したのですから、この技で仕留めると宣言しましょう』
言うだけ言うと再度刀を構えるシズク。
「…ほう、ではその秘剣、ワタシが破ってみせよう」
対するケイも剣を構える。その胸中には一つの考えが浮かんでいた。




