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25 女騎士の戦闘

※ケイ視点です


 う~む、見事に乗せられてしまったな…

 東洋風の屋敷、武家屋敷と呼ばれる建物に向かいながらあらためて反省する。


 ヴァルゲインと呼ばれる青年の挑発と誘導にまんまと嵌まってしまった。


 私、ケイ=アンガートの悪い癖だ。物事の解決法に単純なものや短く済むものがあるとついそちらを選んでしまう。まあ、強引、力業は私の性にも合っているので今後も治りはしないだろう。実際今までなんとかなっているし、今回も正面突破してやるだけだ。


「それにしても、趣味で建てたと言っていたが…ずいぶん本格的な造りだな。門構えも見事なモノだ」


 縁あって東洋の文化や風習について調べた事があるので、この建物が外観を真似ただけでないのがわかる。


「釘を使わない組み木のみの建築方法か?」


『よくご存じですね』


「!?」


 独り言に返事が返ってくるとは思っていなかった。そちらを見れば東洋の着物、胴着と袴に身を包んだ女が立っていた。


 長い髪を頭の上の方で一つにまとめた…ポニーテールというんだったか…妙に青白い顔をしている女だ。


 殺気等は感じなかったが、ここは敵地。自然と剣の柄を握ってしまう。


「なんだ貴様は、ここに巣くう死霊騎士とやらの一党か?」


『そうです…お客人をご案内する役をおおせつかっております。こちらへいらした、という事は事情は理解しているとみてよろしいのですか?』


「ああ、決闘に応じよう」


 青白い顔に加え、聞いていると不安を掻き立てられるような声音。アンデッドに共通する恐怖を喚起させる声、間違いなさそうだ。


 ある程度の力量を持つ手練れには効かないが一般人や駆け出しの冒険者等はこれを聞くとパニックになる恐れがある。当然私には効かないが。


『どうぞ、こちらへ』


 どうやらここで()り合う気はないらしく、背中を向けてこちらを先導していく。


 一瞬罠かもと思ったのだが今さらだ。罠ならそれでいい、食い破って正面突破してやる。


 屋敷の正面玄関ではなく、庭の方へ案内される。途中、決闘場と書かれた看板もあったのできっとそちらに案内されているのだろう。


 ただ案内されるだけというのもなんなので、前を進む女に話しかけてみた。


 情報収集の一端だ。


「おい、貴様もアンデッドで間違いないのだな?」


『はい、わたしも死霊騎士という存在で間違いありません』


「やはりそうか。

 だが、以前私が倒した死霊騎士というのは瘴気を纏ったシャレコウベに鎧、おまけに火の玉を周囲に浮かせていたのだが…」


 目の前の女は少し青白い事を除けばほぼ人と変わらぬ姿だ。どういう事かと疑問に思っていると、


『…そのお相手は成りたてかそれに近い状態だったのかもしれません。ある程度成長した死霊騎士は魔力で肉付けして、外見を生前に近づける事が出来ます。逆も可能ですよ………このように』


「!?…!!」


 そう言って女が振り返ると顔の肉がおぼろ気になり、シャレコウベが透けて見えるようになり、やがて完全にむき出しのシャレコウベになった。


 正直、ビビったが顔には出さない…出なかったはずだ。


『こんな具合です』


 あ、よかった。元に戻った。


『あくまで強い死霊騎士はこういうことが出来る、というだけですのでお客人の相手が出来なかったのか、出来るがしなかったかはわかりませんが』


 おや? 慰められてるのか挑発されているのか。


 暗にその程度の相手を倒したからと調子に乗るなと言われた気がする。


「ほう、それは挑発か?」


『…そのようなことは。気に障ったなら謝罪いたしますけども』


「…ふん、まあいいさ。

 ところで、その外見は自由に変えられるモノなのか?」


『いえ、基本生前の姿ですね。

 年齢のところは肉体的な最盛期を基準にしているようで……男性の年齢層は幅広いですが、女性の死霊騎士はほぼ十代、もしくは二十代前半です』


 貴女もわかるでしょ? と言われている気がする。


「……ああ、うん」


『わたしも剣の道に生きたつもりでしたが、気付けば蝶よ花よともてはやされた年齢の姿をとっていました。わたしも女、という事なのかもしれませんね。ちなみに享年は……詳しくは申しませんが二十…四以上でした』


「そうでし……い、いや、そうか」


 歳上と聞いて思わず敬語が出そうになってしまったが、相手は魔物。へりくだる事はできない。

 あと、二十四歳以上といわれても振り幅が大きすぎないだろうか? なんとなく女の年齢に対するこだわりみたいなモノを感じた。


『ちなみに服装は魔力で出したモノではなく、通常の衣類を着ています。わたしのこの格好は故郷の伝統的な稽古着ですね。

 さきほど死霊騎士と名乗りましたが、生前の出自を考えると死霊侍とか死霊武士の方がしっくりきますね』


「む…その出で立ちといい、やはり東洋の出なのか?」


『はい、遥か昔に剣の師と共に海を渡って来ました。師共々、力及ばずこの地に骸をさらしましたが…』


「そ、そうか…」


 当時を思い出すように静かに目を閉じる死霊騎士…死霊武士の女。

 いかんな、相手は魔物だというのに。その人と変わらぬ姿を見るといらぬ感傷にとらわれてしまいそうになる。


「そ、そうだ!! これを聞いておきたいんだが、貴様らは吸血鬼と関わっ…」


『あちらが決闘場になります』


 話題を変えようとしたのだが、それは途中で遮られた。そして思わぬものが目に飛び込んでくる。


「むっ!? あれは陣幕を張ったのか? まるで初代剣聖の逸話に出てくる天覧試合のようだ!!」


『………本当によくご存じですね』


「ああ!! 私は初代剣聖に憧れて剣士を目指したからな!!」


 高潔にして苛烈、剣に生き剣に死した英雄。


 彼が書いた『五論の書』は私の聖書(バイブル)だ。


『………』


 む? なんだ、妙に憐れんだ目で見られているような気がするが。


『…どうぞ、中へお進みください』


「あ、ああ」


 何か言いたげに見えたが、とりあえず陣幕の中に入る。


 するとそこには左右に別れ整列した死霊騎士の群と、空けられたその先に鎮座する男がいた。


『よく来たなぁ!! 女騎士ぃ!!』


 荒々しい口調の蓬髪垢面のむさ苦しい男、それがその男の印象だ。


 死霊騎士達が見慣れた騎士鎧や軽鎧等に対して、さきほどの女と同じく胴着と袴姿である。

 

 この男も死霊騎士ならこれが生前の姿なのだろう。


「…貴様がこの一党の頭か?」


『クカカカカ!! そうよ!! この死霊騎士どもを率いてんのぁ、この儂だ!!』


「そ、そうか」


 整列する死霊騎士を見たときは王の謁見の間のようにも思えたのだが、この男の言動を見ていると山賊の頭のようだな。


『さてぇ、早速だが勝負を始めるとするか!! 女騎士も話は聞いてんだろ!? 一対一の立ち会いだぁ!! 

 おめぇら、場所を空けろぉ!!』


 ウオオオオオオォォォォォ!!!!!!


「!?」


 整列していた死霊騎士が端に散るように離れ、中央に空間を作る。どうやらこれが決闘の場ということらしい。


「ちょ、ちょっと待て!? 単純に疑問になんだが、そもそも貴様らの目的はなんだ!?」


 下がっていこうとする男に慌てて尋ねる。他にも吸血鬼との関係も聞いておかなければ。


『ああん!? 面倒くせぇ女だな、決闘を申し込まれたら素直に受けりゃあいいと思うんだがな……まあいい。

 儂ら死霊騎士ってのはいわば武人の怨霊だ。武人の本懐ってなぁなんだ? 戦いの中で死ぬことじゃねえのか!? 武士道とは死ぬことと見つけたりって言葉を知らねえか?』


「むっ…」


 少し解ってしまう自分がいる。


『要はここにいる連中は、元は恨みつらみでアンデッドになったが、その対象ももういねぇ。その手で殺ったか自然に死んじまったんでな。だからもうこの世にも大して未練はねぇのよ。

 だが、ただ朽ちるんじゃあ納得いかねぇ、戦ってよぉ、自分の持ってるもん全部出しきってよぉ、それでも及ばず討ち果たされてぇって思ってんのよ。敗北を知りてぇってなぁ!!

 自分らでも馬鹿なこと言ってるって解ってっけど、そうじゃなきゃ納得できねぇって連中だ。

 だから戦え!! それが理由で目的だぁ!!』


「………」


 不思議だ。無茶苦茶を言っているのにもかかわらず共感できてしまう。


 自然と理解した。私はこの者たちと同類だ。戦いの中に生きる者なのだと。


「…よかろう。他にも色々と聞きたいことはあったが、それは後回しだ。全員叩き伏せてから聞くことにしよう」


 自然と口が笑みの形を作る。


『ほおぉ、いいねぇ…戦場に向かうときゃ笑うのが作法ってもんだ。

 おい!! シズク!! 客人に立ち合いのルールってヤツを説明してやんな!!』


 男がそう言うと、ここまで案内してきた女が歩み寄ってくる。何やらさきほどまでは持っていなかった木箱を抱えているようだ。


『…はい。

 お客人、今この場には百八人の死霊騎士がおります。それぞれに番号が割り振られており、こちらの箱にも同数の木札がございますので一枚ずつお引きいただきます』


「…なるほど、それで番号の者と一対一で仕合か。順繰りに仕合って全員に勝ったら私の勝ちという事か?」


 だとすると少々キツい。かなりの連戦になるが…一度吐いた唾は呑めんか、などと考えていたのだが…


『おおむねその通りですが、お客人はお疲れになったら休憩してもかまいませんし、一度出直していただいてもかまいませんよ。我らはアンデッドですのでいつまでもここで待ちます。

 心が折れない限り挑んで来てください。一日一回の仕合でもかまいませんから』


 ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる女死霊武士…シズクと呼ばれていたな。穏やかに見えたが、コイツもこっち側の住人のようだな。


「お気遣いどうも。ところで、貴女にも番号が割り振られているんだろう? 何番だ?」


『おや…気になりますか? 十七番です。

 ちなみに番号が少ない者ほど強い、という風になっていますのでご参考に…さきほどの頭領の男は一番です。

 とは言え、下位の者にも隠し玉があるかもしれませんのでご注意を』


「上等だ。全員私の剣で天に還してやろう」


 ニヤリと笑い返しながら、木箱に手を突っ込み、札を取る。


 そこには九十八と記されていた。


『九十八番です』


『オウ!!』


 シズクが読み上げると一体の死霊騎士が進み出てくる。


 こう言ってはなんだが、特に変わったところのないオーソドックスな死霊騎士だ。得物もそれなりに良質な剣と盾、鎧兜という出で立ち。兜の奥はぼんやりと魔力による肉付けがされているようで、時おりシャレコウベが透けて見える。


 この中ではだいぶ格下のようだが、最初の相手としては無難なところか。


『双方、名乗りを!!』


 シズクがそのまま進行役を行うようで少し離れた場所から声を張り上げた。


『元ザイア王国騎士シェット=カインズ、お相手つかまつる』


「聖騎士ケイ=アンガート、推して参る」


 騎士の名乗りを上げてから愛剣を構え、相手も同様に構える。


『始め!!』


 シズクの合図を契機に私は相手に斬りかかった。




「セイッ!!」


『グオ…』


 結果、最初の仕合に私は勝利した。内容的には圧勝と言っていいだろう。


 相手の死霊騎士は正統派の剣術使いだったが明らかに私よりも格下だった。それでも守りを中心に粘りを見せ健闘し、最後の一太刀をその身に受けるまで勝負を諦めていない姿勢には感服だ。


 一息ついてから、新たに木箱から札をひく。


『次、八十番』


『調子に乗るでないわ、貴様が倒したのは我等の中でも最弱の部類。我はそうはいかんぞ』


 巨漢な死霊騎士が進み出てくる。番号もさきほどより少ない。気を引き締めて相対する。


『マイト王国の暴風車ベルーガとは我の事!! 我が鉄球に吹き飛ばされるがいい!!』


 相手の得物はモーニングスターと呼ばれる鉄球付きの錫杖…というか明らかに鉄球がメインだな。鎖に繋がれた鉄球をブンブンと振り回し、間合いを潰してくる。


「聖騎士ケイ=アンガート、ゆくぞ!!」


『クッ、ヌグッ、なっ!? グワアアアアアアァ…』


 鉄球を振り回して近づけないようにしているが、一度その内径と鎖の下方に入ってしまえばそれほど驚異はない。


 回転を見切った私は素早く相手の間合いに入り込み、斬り上げて決着した。


 正直、先の九十八番の死霊騎士よりも呆気ない手応えだったが、一撃の破壊力に特化した闘い方の死霊騎士だったのだろう。


 札の順位というのは様々な点を加味して付けられているのかもしれないな。


「まだまだいけるぞ、次!!」


『次、百八番』


 おお、今回ひいた札は一番下か。

 重武装な死霊騎士が前に進み出る。装いからして重装歩兵というやつだろう。


『次、死霊重騎士レオパルドいきます!! グオゴゴゴ!!』


 背中に背負った大砲が気になるのだが…


「…残念だが、出直してこい…ノースフェンシング!!」


『ギャアーッ!!』


 最下位というだけあって、残念ながら隙だらけの突進だったので胸を一突きで終了だ。

 ちなみに『ノースフェンシング』とは北の国の流派の突き技だ。


 その後も私は快勝を続けた。ひいた木札の番号は六十番台以下だったので、その辺りの相手ならば油断しなければ危なげなく勝利出来るようだ。


 唯一危なかったのが、十戦目の六十七番の死霊騎士だろうか?


 冒険者風の装備をしており、腕もそれなりだったのだがその手に持った剣が問題だった。


 土の魔剣らしく、魔力を込めながら斬りつけると地面からも土の刃が飛び出して、挟み撃ちにされるという代物だった。初見の際には背中に喰らってしまった。


 地面に向かって振らなければ発動しないので、振り下ろしの斬撃に注意さえすればいいのだが、最初の一撃の影響でだいぶ苦戦させられてしまったな。


 だが、不思議とその苦戦や痛みを楽しんで高揚しているいる自分がいたな。少々羽目を外し過ぎてしまったかもしれない。


 相手をグリグリと踏みつけたのはやり過ぎだったかな?


「フッ、フフッ…弱い、弱いぞ!! これで十人抜きだ!! 次はどいつだ!? 少しは私を楽しませてくれるんだろうな!?

 フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 ………冷静に思い返すとちょっとヤバイ絵面だな。ここに他人がいなくてよかった。死霊騎士になら見られてもいいだろう。


 ちょっと反省しつつ次の木札をひく。


『次…ようやく上位陣をひきましたね……十七番です』


 これまで進行役を務めていた女死霊騎士シズクが前に出る。その腰には異国の剣、『刀』を帯びていた。


『想鬼流、花鬼(はなおに)のシズク。お相手いたします』


 


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