24 女騎士の葛藤
「死霊騎士だと!?」
「そうなのです、あー…正確には死霊騎士達の集団なのですが。
領地のとある屋敷を占拠して要求を突き付けてきたのですよ」
「要求……とは?」
「曰く『強者との一対一、尋常なる仕合を求ム』との事です。
要は生きている強者と闘いたいとの事でしたね」
「ほう…」
それまで困惑しながら聞いていたケイだったが、強者と聞いてピクッっと反応する。
「私の兵達を様子見で一度向かわせたのですが、歯が立たずに帰ってきてしまいました。
そこで貴女の剣の腕を見込んでお願いしたいのです」
「う~む…ちょっと待ってくれ」
そこまで聞いて考え込むケイ。腕を組んでの迷っていますポーズだ。
「ふぅ…」
一息ついて頭に考えを巡らせる。
ここまでの交渉で明らかにヴァルのペースに乗せられてしまっている。罠かもしれない。
そう自覚しているケイだったが、警戒して逃すには惜しすぎる条件であった。
自領に招いてくれて、吸血鬼に係わりのありそうなアンデッドの居場所もわかっている。更には自分の剣の腕もかってくれる。多少おだてられているのも承知していたがそれも悪くない気もしてしまっているのだった。
「くっ…」
オラシアの街での聞き込みや推測等にみられるように彼女の頭の回転は悪くない。むしろ良い方なのだが、元来武人であるケイは基本単純な結論を好む。
迷った末に出た結論は、
「……わかりました、その依頼、受けましょう」
罠なら食い破ってやればいいとの結論に至った。
「ありがとうございます♪」
笑顔で応じるヴァル。
それを見ていたアズマリアとミザリーが後に語った感想は、
『『ゾンビハンターがゾンビになるのを見たようでした』』
一言一句綺麗に唱和したのだった。
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「あの屋敷がそうなのですね?」
「はい、私の手の者によればかなりの数、百体はくだらない程の死霊騎士が確認されています」
深い森の中にたたずむ東洋風の屋敷、それを遠目に確認するケイとヴァル。
ヴァルの依頼を受けることになったケイは馬車に同乗し、街の北の森に連れてこられていた。
「…にしてもなぜこんな森の中にあのような屋敷が?」
「祖父の趣味でして。領地の森の中に幾つか変わった建築物があるのですよ」
東洋風の屋敷、現地では武家屋敷と呼ばれる木と紙と石で出来た建物である。ヴァルの領地にある七つの別荘のうちの一つだ。
「そ、そうなのか…まあ、ともかく中に入って調べてくるとしよう」
「お一人で大丈夫ですか? よろしければ私も…」
「心配無用、我が剣は魔物などに遅れをとりはしない」
そう言って一人で武家屋敷に向かっていくケイ。
全身鎧に兜、特注品らしいミスリルの細剣に盾という装備である。
だというのに不思議なことに歩く際にはほぼ無音だ。普通なら鎧や盾の金属同士がガチャガチャと鳴ってもおかしくない筈なのだが…
「予想以上…かも」
その様子を見て強さを推し測るヴァル。人に紛れて冒険者を行っていた時の経験則から、ケイがかなりの腕なのではと予想する。
彼女が門をくぐるのを見届けると近くに停めてあった馬車に戻るヴァル。
馬車の中にはアズマリアとミザリーといういつもの面子だ。
「あの、大丈夫なんですか? 一人で行かせちゃって…」
「ああ、大丈夫大丈夫。中の連中にはやり過ぎないように念押ししてあるから……それも無用かもだけど」
馬車内の長椅子に腰かけると同時に変装魔術を解き、金髪碧眼の青年が銀髪赤眼の吸血鬼本来の姿へと戻る。それに伴い口調もざっくばらんな軽めのモノに戻った。
「馬車で待っている間にミザリーさんから聞きましたけど……要は死霊騎士さん達がヴァル様に反乱を起こしたんですか?」
「随分物騒な話になってるね…」
「大筋は間違っていないかと」
「いやいや、間違ってるよ…別に反乱てほど大袈裟なもんじゃないからな」
相変わらずの主従の関係を見て苦笑するアズマリア。
笑われたことに気付きヴァルがコホンと咳払いをして居住まいを正す。
「ホントに反乱じゃないからね? 俺、圧政とかしない話のわかる領主だから!?
今回のはちょっとした意見の食い違いというか、価値観の違いというか…死生観の違いかな?」
「はあ、死生観…ですか?」
「そ、どう生きてどう死ぬか?みたいなモノへのこだわり。
例のスケルトンさん達の浄化が成功してから死霊騎士さん達にも同じ様に話を持っていったんだよね。こう、『安らかに次の生の準備に入らないかい?』ってな感じで」
元々アズマリアへのアンデッド浄化は、多すぎるスケルトン等の部下を減らしていきたいというヴァルの意向によるモノだ。
どうやらその削減枠は死霊騎士達にも向いたらしい。
「あ、もちろん強引にじゃないよ!? あくまで希望者を募っただけ。全員を解雇、というか浄化する訳じゃないからね。
パワハラ案件じゃないよ!?」
「はあ…」
ヴァルの説明に生返事で返すアズマリア。相変わらずいまいち理解できない単語が入るので仕方がないのであるが。
「で、そしたらさ、死霊騎士さん達…
『天に召されるのは構わない。だが、我等は闘争に生きた者。安寧の眠りよりも闘いの果てに敗北し朽ちる事を望む………あ、主殿のような圧倒的強者はダメです。頑張ったら勝てるかも、とか逆に油断したら負けるぐらいのちょうどいいぐらいの猛者を所望します。あと出来れば例の女神官ちゃんみたいな美少女とか美女だと嬉しいです』
って言い出してね…どう思うよ?」
「な、なんか後半の落差がヒドイですけど…そこを除けば男の子には響きそうな気もします。
けど…正直なところ……面倒臭そうですね。なんだかイロエ君を思い出しました」
「ワタクシもアズマリア様と同意見です。武闘派の方々の言うことは正直理解できません」
残念ながら目の前の女性達には死霊騎士達の想いは届かなかったようだ。
聞く人が聞けば男のロマンあふれる申し出ではあるのだが。
「と、まあそんな感じで最近は死霊騎士さん達に付きっきりだったんだよね。
ちょうどいい相手を見つけようにも、基本死霊騎士さん達って強くてね。前にも言ったかもだけど生前が元々戦えるような人がなりやすいから。
苦肉の策でミザリーのメイド隊に相手してもらおうとかしたんだけど…」
「『新鮮さがない』などと、たわけた事をわめきましたので頭蓋骨を粉砕してやりました。
坊っちゃま、あの者は二度と近付けないでいただけますか。二度と」
体から憤怒のオーラが浮かび上がりヴァルを威圧する。その余波を受けたアズマリアもすくみ上がった。どうやらミザリーの年齢案件に抵触してしまったらしい。
ちなみに頭蓋骨を粉砕したなら本来なら近付くどころか二度と立てないと思うのだが、そこはアンデッドならではの不死性の賜物だ。
「…一応当主と呼んでいただければ、はい…その件は了解しています。浄化候補の一番にしてありますので…」
ちょっとビビりながら報告を行うヴァル。
どうやら一時的な思い出し怒りのようですぐに憤怒の炎は鎮火した。
「で、まあアンデッド同士でやり合ってもダメみたいなのが図らずも判明してね。どうしようかと思ってたところに君のコウモリ念話ですよ!!
いや~、なんか吸血鬼だけど天の采配に感謝しちゃいそうだったよ」
「そ、そうですか…」
どうやらケイはヴァルの求めていた条件に合致した人材のようだ。
「吸血鬼に繋がりそうな情報を欲しがってて、それなりに剣の腕もあって、うら若く…すいませんミザリーさん睨まないで…美人で戦闘狂の気のある女騎士で剣聖候補。
まさに今回の騒動にピッタリの人材!! アズマリア君!! ナイス紹介!!」
「紹介しちゃってよかった…のかな?」
そんな気はなかったのだが、なんだか生け贄に差し出したみたいで気のひけるアズマリアであった。
「さて、こうしてくっちゃべってないでそろそろ彼女の様子を見に行こうか。依頼主としてはその仕事ぶりを確認しておかないとね。さーて、どんなんなってるかな?」
「え? 見に行くんですか…いいのかな?」
「君も行くんだよ。負けた死霊騎士さんを浄化するのは君の仕事なんだから」
「あ、はい」
そう言われてはついていくしかないと馬車を出るアズマリア。ミザリーは馬車に残るらしい。
ヴァルの後ろについていくと勝手知ったる我が屋敷とばかりに先導していく。
変わった造りの門をくぐると、杭と板で作られた看板があり『決闘場→』と読める。更に文字で屋敷の外縁を歩いて行くよう指示されていた。
「この先の庭で勝負してるはずだから、ついてきてね」
「は、はい」
屋敷沿いに歩くとやがて白い布が見えてくる。どうやら四方を布で囲って空間を作っているらしく、中からは金属音やなにかが激突するような音が聞こえてきている。
「確か『ジンマク』って呼ばれる布だね。東洋の戦士『サムライ』が偉い人の前で戦う時は布で区切った舞台を作るんだってさ。『テンランジアイ』だったかな?」
ヴァル自身うろ覚えの知識のようで、ところどころ棒読みの単語があるようだ。。
「お屋敷が東洋風だからそれに合わせたんですか?」
「いや、発案は俺じゃないんだ。死霊騎士の中に…」
ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!
ヴァルの台詞の最中、陣幕の中から歓声とも怒号ともとれる大音量が発せられ耳をつんざいた。
「キャッ!?」
「おっとぉ…なんかあったみたいだね」
そう言って陣幕の布をめくり中の様子を伺うヴァル。陣幕は一枚布でなく何枚かを重ねて張られているようだ。そのヴァルに便乗してアズマリアも中の様子を覗きこむ。
陣幕の中は周囲を布で囲まれた即席の決闘場があり、その中心には見知った人物、女騎士ケイが剣を掲げて勝鬨をあげていた。
「フッ、フフッ…弱い、弱いぞ!! これで十人抜きだ!! 次はどいつだ!? 少しは私を楽しませてくれるんだろうな!?
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
おそらく戦闘による高揚なのだろう。呼気は荒く、兜の下の頬は上気して赤みを差し、目は爛々とした光を宿し凄味をましている。
戦場に身を置く者ならば、その凄惨なれど美しい姿に戦女神等という字をつけたかもしれない。
だが、それも日常に身を置く者、要はアズマリアからすればただのイッちゃってる人でしかなかった。
「うわあ……」
敗者である死霊騎士を踏みつけてグリグリする様には軽くドン引きである。
「うんうん、見事な戦闘狂っぷりだね。楽しんでくれているようでなにより」
この惨状を作り出した張本人は和やかに笑っていた。




