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22 吸血鬼の念話


『ふーん、なるほどね、つまり俺は君に売られたって事でいいのかな?』


「ち、違いますよ? ワタシじゃ絶対ボロが出ちゃうと思ったんで、適切な対応が出来る方に譲ったんですよ? 適材適所ですよ?」


『へいへい、こちとら口八丁な吸血鬼でございますんでね。まあ、委託先のケアもこっちの仕事かな?』


 高級レストランでの惨劇から少し先、アズマリアは自室の窓際でコウモリと会話していた。

 端から見れば動物とおしゃべりする思春期のイタい行動か頭がお花畑な人間に思えるが、コウモリも実際に返答しているので今回はセーフだ。


『でも、それでその女騎士さんは納得したの? そのまま君を問い詰めた方が早そうだけど!?』


「えっと…少し考え込んでましたけど、『ふむ、確かに直接会えるならその方がてっとり早いか。察知されて逃げられたら面倒だ…悪なら即斬殺だ…フフフ』って言ってました…」


『おいおい、物騒なんだけど…そんな危険人物と俺を引き合わせようだなんて、君の良心は痛まないの?』


「ヴァル様ならなんとかなる。ワタシはそう信じてます」


 コウモリに祈るように手を合わせるアズマリア。

 このコウモリはヴァルの使い魔で、主人と一部意識を共有している。なので連絡用にとアズマリアの下宿の軒下に居付かせているのである。

 一月毎の浄化依頼の際もこれで連絡して日取りを決めて迎えに来てもらっていた。


 今回は非常事態の為、緊急連絡を行っているところだ。


 ちなみに普段は大人しく軒下にぶら下がっており、夕方になると一時的にどこかへ出掛けている。おそらく、餌でも捕っているのだろう。


『…根拠のない信頼は盲信だよ………とは言え、話を聞く限りだとその女騎士、ケイだっけ!? 結構な武人肌な人物に思えるけど、どうかな?』


「武人…肌ですか? それってどういう…」


『う~ん、世俗の権力とか金銭欲とかにあんまり興味が無いというか…今回だと剣聖の名誉とかも絡んじゃうけど、剣を極める事が最優先みたいな考え方の人かどうか、みたいな?』


「そうですねぇ…剣聖の名前というよりは実力が認められなかった事に憤っていた感じで……あ!? そういえば途中、『戦うの大好き♪ 快・感♡』って感じの笑い方してました!! 

 親子連れが見たら絶対『見ちゃいけません!!』て子供が言われる笑顔です!!」


『熱弁するね…でもそれなら、上手くすればこっちの問題の解決にも使えそうかな?』


 ボソッとつぶやいたヴァル。

 

「? 何か言いました?」


『ん~、何でもない。まあ、とにかく事情はわかったから、一月後の依頼の時に一緒に連れて来ていいよ。こっちでなんとかするから』


「あのぉ…出来ればもう少し早くなんとかなりませんか? ケイさん、ワタシを見失う訳にはいかないって付かず離れずで監視してくるんですよ…さすがに隣の部屋とかじゃないですけど、今も同じ宿に泊まってるんです…」


『…わかった、じゃあ一週間後でいいかい?』


「すいません…お願いします…」





 とりあえず緊急性の高い報告を済ませたアズマリア。


 使い魔による通信はここで終わってもいいはずなのだが、なにぶん慣れていない事の為終了のタイミングが掴めていない。なんとなく会話を続けなければ気まずい気がしてしまい会話を続けるのだった。


「……そう言えば今回のお仕事でお屋敷に出向いた時にはヴァル様にお会いできませんでしたね」


『そうだね、まあ一応領主だから色々仕事あるんだよ? え、なに、俺に会いたかった?』


「それは別に」


 スンッといった感じに真顔でコウモリに答えるアズマリア。


「あ、そうです!! ワタシがヴァル様の『愛人』扱いの噂、なんとかして欲しいんですよ!!」


 この提案も恥ずかしさからくるものと言うよりは、世間体の悪さからである。

 年頃の少女にしては色恋に興味が向かないアズマリア。


『ああ、ミザリーから聞いてる。そっちも代案があるから、今度話すよ。

 ホントなら数ヵ月で収まる噂なんだけど…』


「なんでですか? これからも通い続けるんじゃ結局…」


『前に俺達(アンデッド)の存在がバレないように色々してるって言ったでしょ? 

 その一つに、ここ一帯の土地…地脈を行使した持続的な隠蔽魔術があんのよ。要はここいらの街とか村で吸血鬼の噂とか話を聞いても印象に残り難くて忘れやすくしてんの。

 地脈の管理者ならではの荒業だけどね』


「へぇ~。そうなんですか」


 地脈の概念を完全には理解していないものの、なんかスゴい魔術で街全体を覆ってるんだろうな的な理解をするアズマリア。


『そうなんですよ。

 今回の噂には吸血鬼の部分は入ってないけど、一応俺に関わる事だからね。徐々に下火になっていくはずなんだよ』


 便利だな~と思いつつ、それって結構危なげなんじゃないかしら?と思ったアズマリアだったが、その思考を先回りするようにヴァルが言ってくる。


『まあ、そこまで強力な事は出来ないんだけどね。ごくごく弱~い隠蔽や思考の誘導まで精々だよ。こうして直接吸血鬼と会っちゃえば効果はないし。住民総アンデッド化とか洗脳とか攻撃とかはまず無理だから安心してね。

 爺殿の更に数代前、かな~り昔のご先祖様が一命を擲って構築した地脈の行使権でさ、あくまで行使権を持つ者を守るためにしか使えないの。

 平和的だよ。専守防衛だね』


「…そういえば、ケイさんも吸血鬼の話を聞くのに苦労したみたいな事言ってましたね…あれ? でもじゃあなんでケイさんには効いてないんですか?」


『いーい質問ですね。

 長く住んでいる人には重ねがけの要領でよく効くんだけど、外から来た人には効果が薄いんだ。だから今回とか前回の勇者なんかには効果が出なかったんだよ。

 これを魔力の持続と浸透の……』


 ウンヌンカンヌンと魔術について語るヴァル。

 なにやら専門的な単語も使って説明しているのだが、魔術については門外乙女なアズマリアには理解できないのでただただ退屈であった。

 こうして長念話になってしまうのがいつもの事であり、アズマリアが『それじゃあそろそろこの辺で…』を覚えるまで続くのであった。



■■■



 翌日、宿の食堂で待ち構えていたケイに一週間後の仕事の際に紹介する事をあらためて告げる。

 もちろん昨晩コウモリを通じて相談した事は言わずに、あくまでアズマリアが一晩悩んだ体だ。


「その、約束ですので紹介するまでは協力しますけど…そこから先はケイさんと依頼主次第ですよ?」


「ああ、それでいいとも♪ 最初の繋ぎを取り持ってくれるだけで十分だ」


 そうして一週間後の約束を正式に取り付けた訳だが、


「…あの、どうしてついてくるんですか?」


「気にしないでくれ」


 どうやら監視の目を緩める気は無いらしく、約束までの一週間なにかと理由をつけてつきまとうケイ。買い物に散歩にと、振り返れば奴がいる状態である。


 気の休まらないアズマリアだったが、悪いことばかりでも無かった。


 教会のお務めに清掃活動や各催事の準備等がある。ちなみにこれらは新人神官の義務的なお務めであり基本無償。

 ぶっちゃけ不評な仕事だが、ケイはそういった事にも協力的であり手際もよかったのだ。


「これでも教会に属する聖騎士だからね、一通りはこなせるよ」


 との事である。


 他にも冒険者ギルドの依頼だ。

 相変わらず《治癒(ヒール)》系統の使えないアズマリアはパーティーへの参加が出来ていない。ヴァルの依頼によって懐的な事情は改善されているのだが、だからといってそれ以外の時間をボンヤリと過ごすのも性に合わない。

 なのでいつもの薬草詰みを行っていたのであるが、


「せっかくだから森の奥へ行ってみよう。なあに、ゴブリンやオーク程度なら私が斬り伏せるさ」


 と、腕を引かれいつもの草原よりも危険な森の奥に連れていかれたりした。

 剣聖候補と言うだけあって森の魔物相手には危なげなく勝利しており、その間アズマリアは草原よりも多くの薬草採取に成功していた。

 擬似的なパーティーとして機能していたのである。


 しかも、その際に得た素材や魔石も折半してくれ、アズマリアの普段の収入もアップしていた。


「……やはりたまには人型の肉と骨を斬らんとな、ククク…」


 ちょっと心の安定によろしくない台詞もあったが、そこは耳をふさいで聞かなかった事にすればおおむね問題なしであった。


 アズマリアにとっては気苦労がありつつも実りも多い一週間がそうして過ぎていく。


「さて、明日はいよいよ疑惑の貴族様と対面だ。楽しみだよ…フフフフフ…」


「は、はあ」


 一週間、曲がりなりにも共に過ごせばそれなりに仲も深まる。二人で夕食をとりながら過ごす約束の日の前夜。


 大丈夫ですよね?と思いながら夜を過ごすアズマリアであった。


 




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