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20 女騎士の尋問


「何がバレるのだと聞いている、答えよ」


 突如見知らぬ全身鎧(フルプレート)姿の人物に声をかけられ硬直するアズマリア。兜の隙間から見える切れ長の目に睨まれさらにすくんでしまう。


 その間にも見知らぬ騎士はズカズカと歩み寄って来ていた。金属部分が擦れてガシャガシャと音がする。


「ちょ…」


「何だその袋は? ちょっと見せてみろ」


 抵抗する間もなく魔石の入った袋をひったくられ、中身を確認される。


「これは、魔石か……しかも色からして闇属性…この娘で当たりか…」


 後半はボソッと言っておりアズマリアの耳には届かなかったようだ。


「ちょっと、返して下さい!! それワタシのですよ!!」


「その前に質問答えてもらおう。

 この魔石はどこで手に入れた!? 先ほど言っていたバレるとはなんの事だ?」


 やっている事はひったくりだというのに威圧的な態度だ。

 カチンときたアズマリアは掴みかかろうと一歩踏み出した。


「……動くな」


 相手の騎士も不穏な気配を感じたのだろう。

 ヒュッ!! と目の前の騎士の腕が僅かに動いたかと思えば腰に差してあった細剣(レイピア)がアズマリアに突き付けられていた。

 淀みのない滑らかな動きだ。


 アズマリアも冒険者、自身は扱えなくとも幾人か剣を得物にする者達を知っている。それらの見知った者達とは次元の違う動き。

 相対する人物が尋常ならざる相手だと気付いた。


「あわわわわ…」


 突き付けられた剣先に否が応にも死を意識させられる。

 先程までの日常が急に遠くなったようだ。


「早く答えろ。さもなくば…」


 殺す。そんな台詞が脳裏に浮かぶ。

 いやいや、もっと悲惨な事になるかもしれない。金目のモノを奪われて、若く瑞々しい身体を蹂躙されて、その上でなるべく長く最大限苦痛を与えるようにして、その様を楽しみながら拷問され、いずれ殺されるのかもしれない。

 負の想像がとどまるところを知らず勝手に奈落の底へ落ちていくアズマリア。


 元々少し思い込みの激しいところがある彼女だ。そうでなければクッキーの幻覚を見たりはしないだろう。

 自分で自分を追い込んでいくアズマリア。ある意味自給自足の精神に溢れている。


「う…」


 そんな彼女から溢れたのは、


「う?」


「うわあああ~~~~~~ん!!」


 口から溢れたのは悲鳴で目から溢れたのは涙であった。

 恥も外聞も策略もない、純然たる感情の爆発だ。


「あ~~ん!! 殺される!! 奪われる!! 犯される!! 拷問される~!!

 きっと加虐趣味があって相手を痛めつけないと興奮できない性質(たち)なんだ!! それで殺した相手を防腐処理して人形にして死体をコレクションしてそれを眺めては悦に浸る猟奇趣味の持ち主なんだ!!

 愛人疑惑をかけられて、その上こんな通り魔に襲われるなんて~!!」


 脇道とは言え大通りから大して離れていない場所である。

 突如響き渡った悲鳴と大声に何事かと様子見する人々も当然いる。ある者は大通りから脇道を覗き、ある者は住居の窓から脇道を覗き見る。


 剣を突き付けている騎士と突き付けられる神官、どっちが加害者で被害者かは明白だ。


「ひ、人聞きの悪いことを大声で叫ぶな!! そもそも私は女だ!! 乱暴などしない!!」


 複数の視線の圧力を受けて言い訳をする騎士。鎧兜で分かりづらいが女性であったらしい。

 剣で脅している状況は変わらないのだが、これで少なくとも強姦魔の汚名は晴れる筈である。


「きっと百合的な性的倒錯者だ~~!! うわあ~ん!!」


「なぜそんな知識を知っている!? ちょ、ちょっと

コラ、回りから見られてるから!? 

 ご、誤解だ!! 私は通り魔ではない!! 性的倒錯者でもない!! ちょっと、お願い泣き止んで!!」


 泣く(アズマリア)には勝てぬと剣をしまい、魔石の入った袋も返却してなだめすかそうとする女騎士。

 結局見知らぬ誰かが衛兵に通報したらしく、その場に衛兵が駆け付けるまでグダグダな展開が続いたのであった。



■■■



「…その、こういった事は困りますので…お立場があるのも理解出来ますが、武器を使って他者を脅すなどといった事は控えて下さいね…」


「わ、わかっている…本気ではなかった」


「………殺気の有る無しなんて一般人には判別出来ませんよ。貴女レベルの強者同士には通じるのでしょうが…」


「…う、うむ、そうか…」


 道端で衛兵に道理を諭される女騎士。いささかバツが悪そうだ。


「くれぐれも注意して下さい。また同じような事があれば投獄……は無いにしても武具の没収ぐらいはしないといけなくなります」


「そ、そうだな。すまなかった」

 

 会話の内容からして立場的には女騎士の方が高いのか衛兵もあまり強くは言えないようだ。


「それはこちらのお相手に言ってあげて下さい。

 あー、えっとアズマリアさんだっけ? 今回は穏便に済ませるって事にしてくれませんかね……」


「う、グスッ…いや、絶対許したくない…」


 若干幼児退行気味な返答のアズマリア。


 衛兵が間に入ったとはいえ、一度爆発させた感情はそう簡単に元には戻らない。少し冷静になったように見えるものの、内心は恐怖やら怒りやら恥ずかしさやらが渦巻き本人にも制御不能状態である。

 特に事の発端である女騎士には強い拒絶反応が出てしまっている。


「………」


 女騎士を非難するようにジト目を向ける衛兵。


「…わかっている、私が悪かった。謝罪する」


 近付いて来る際に兜を外し脇に抱える女騎士。

 謝罪の際に顔を隠していては失礼だと思っての事だろう。


 切れ長の目にブロンドの髪を頭の後ろにまとめている美女、それが女騎士の素顔だった。

 『凛々しい』、そんな言葉が似合いそうである。


 アズマリアと並んで立ってみると頭一つ分背が高い女騎士。その頭がアズマリアの目の前まで下がる。腰からほぼ直角に上体を折り曲げているのだ。


「う…」


 正直これにはアズマリアも面食らった。

 騎士の格好をしているからにはそれなりに身分の高い人物だと思っていたからだ。衛兵の態度からもそれが伺えた。

 そんな人物が素直に頭を下げた事に驚いてしまったのだ。


「…わかりました、謝罪は受け取ります。許します。

 じゃあ、これで…」


 なんとなく高貴な人物に頭を下げさせておくことに罪悪感を覚え、この件は水に流す事にしたアズマリア。

 正直まだ心中は穏やかではないのだが一度口に出してしまった以上は仕方ない。ベビーウルフに噛まれたと思ってさっさと忘れることにした。


「待ってくれ。私は君に聞きたい事があるのだ。少しでいいから話す時間をくれないか?」


「…ワタシは話したくありません。お断りします」


 聞きたいこととは先の威圧的な質問の事だろう。

 初対面に最悪の印象を与えられたアズマリアは意固地になってそれを拒否する。

 そして本人は渦巻く感情にとらわれて気付いていないが、先の質問に答えるのは不味い。


「そこをなんとか!!」


「あの~、私からもお願いできないですかね? こちらの方、貴女とも無関係じゃないんで…」


 まだ残っていた衛兵がトントンと左胸を指差しながら言ってくる。


「? ………あ!」


 最初は意味がわからなかったが衛兵、自分、女騎士の順にその部分を見てその示すところがわかった。女騎士の鎧の左胸にはアズマリアが属する教会の意匠(シンボル)が刻み込まれていたのである。


 つまり彼女は単なる騎士ではなく、教会から認められた聖騎士であるということだ。

 一般的な神官と聖騎士では権限的に後者に軍配が上がる。なのでそれを盾にすれば強権的な交渉も可能であろう。


「どうか、頼む!!」


 だが、それをせずに頭を上げ下げして頼んでくる目の前の女騎士。


 ホントに悪いと思ってくれているのかも…と、ほだされてしまうアズマリア。


 結局のところ、お人好しな彼女は話を聞く事を了承してしまうのであった。

 せめてもの抵抗として、食事を奢って貰うことを条件に。


「おお、もちろんだ♪」


 ニカッっと笑う女騎士を見て、直情的なだけでそれほど悪い人じゃないのかもと思うアズマリアだった。


 衛兵から解放され、そのまま大通りに戻って手頃な飲食店を探す二人。時間的にはだいぶ早い夕食になってしまいそうだ。


「ここでよかろう」


 女騎士が示したレストランはそこそこの高級店だった。

 孤児院育ちのアズマリアには縁の無い場所だ。


 きっと裕福な人達が普段使いしたり、市民だと子供の誕生日とか結婚記念日とかに使われてるんじゃないかな、と想像する。


「個室を頼む。店のオススメがあればそれを二つ。食前酒だけ先に用意してくれ」


 こういった店での対応に慣れているのか女騎士がパパッと決めていく。


 対応に出た店員もその意を汲んで案内し、すぐに個室に通され席につき目の前にはシュワシュワと泡の出ている飲み物が置かれていた。料理の準備のため店員は退出しており女騎士とアズマリアの二人きりだ。


 出来れば良いお肉が食べたかったなぁ、と思うアズマリアだったがそこは黙っておく。


「さて…あらためてだが、先程はすまなかった。

 私はある目的の為にこの街に来たのだが、気が急いてしまってな。あのように強引な行動をとってしまった。

 君に恐怖を与えてしまった事は本当にすまないと思っている」


 椅子に座った姿勢で頭を下げる女騎士。 


「はあ…まあ、その件は先程」


 女騎士からあらためて謝罪の言葉を聞かされるアズマリア。

 その真剣な顔や声音から正真正銘悪かったと思っていると思える。


「ついカッとなってやってしまった。今は反省している」


「………」


 不思議と今の二文が付け加えられると、あまり反省してないんじゃないかな?と思ってしまったアズマリア。


「あの、謝罪は受け取りましたので…

 あと、よければ騎士様の素性等を教えていただけると…」


 聖騎士という身分は分かっているものの、それ以外はほぼ何も知らない相手だ。他に分かっているのは剣の腕が尋常でなさそうというぐらいであろうか。


「おお!! そうか、そういえば言っていなかったな。

 私の名はケイ、ケイ=アンガートだ。見ての通り聖騎士の身分を授かっており……今代の剣聖候補でもある」


「は!?」


 思わぬ言葉に驚きを隠せないアズマリア。

 だが、続く言葉にさらなる驚きを与えられる事になる。


「そして、この街に来た目的は吸血鬼退治だ」


 



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