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1 ハラスメント社員、氏原光一 -3-

「おい西浦。お前、付き合ってる男はいるのか」

「いないですけど」

「だよな」

 ウルサイ。


「じゃあ今までに付き合った男の人数を言ってみろ」

「それは……」

「言ってみろ」

「ゼロです……」

「だよな」

 はいセクハラお代わりキター。


「どうせ告白されたこととかもねーんだろ?」

 失礼な。

「それっぽいことならありますよ」

「嘘つけ」

 なぜ決めつける。


「本当ですよ」

「よし、じゃあ言ってみ? いつ誰に告白された」

「えっと」

 目を泳がせる私。

「こ、高校の時……バレンタインデーに後輩が廊下で待っていて、憧れてますチョコレート受け取って下さいと……」


「西浦、女子校って言ってなかったか」

「ですね」

「お前そっちの人なのか」

「別にそういうわけでは」

「はいノーカン」


「ちゅ、中学の時、付き合ってもいいと思うクラスメート投票第一位に」

「中高一貫の女子校って言ってなかったか」

「ですね」

(もし男だったら)付き合ってもいいと思うクラスメート投票でした。

「はいノーカンー」

 くっそー。この言い方、むやみに腹立つな。


 じゃあ、これならどうだ!

「高一の夏休み、幼なじみの男子に一発でいいからやらせてくれと土下座されました!」

「ふーん。で、ヤッたの?」

「やるわけないじゃないですか。女なら誰でもいいみたいな話だったし。腹パンして帰れって言いましたよ」

「はいノーカンー」

 あ、墓穴掘った。



「ほら、何にもねーじゃん」

 と氏原さんに言われるのは大変悔しいが、言い返せない。

 確かに私は昔からそういう立ち位置である。可愛くて女の子らしい小夜ちゃんとは真逆の場所、そこが私に用意されたポジションなのだ。


 保育園や小学校では男子ばかりとつるみ、生傷が絶えず虫を手づかみしスカートとか一切はかずに大人からは男子と間違えられる。

 女子からは変質者情報が出た時に一緒に帰ってとお願いされ、男子からは好きな女の子のことをこっそり相談される。

 高学年になって周りが色気づき始めた時、さすがにこれではまずいと自覚し女子校に進学することを選択。女子力を磨こうと決心する。

 しかしその時の私は知らなかった。女子校とは女子力が磨かれるところではないということを。


 男子がいない空間で、女子校の生徒たちは自立し一人で生きていく力をつけることを求められる。

 つまり女子らしくなるというよりは男らしくなる。

 そして私の男らしい個性はそこでさらに磨かれ、教師から『西浦は女子校に一人はいるスター枠だよなー』と言われる存在に。


 ここでいうスターとは、可愛いアイドルとかそういう存在ではない。某少女歌劇団の男役スター的な存在のことである。

 いや本物の男役スターの人はカッコいいと思うけどね? リアルで『それっぽい位置』に立ち続ける個性だっていうのはどうなのかと自分で思うわけである。


 髪伸ばしてスカートはいてたのに、毎年女の子たちからたっぷりバレンタインチョコレートをもらって私の十代は終わった。

 大学でこそは巻き返そう、女らしい人生を手に入れようと共学に進学したけど、ここまで恋の気配なし。

 挙句の果てのコレである。


 氏原さんごときに見下されても言い返せない屈辱は果てしないが、そもそもこんなザ・ハラスメント正社員のセクハラをツッコみしつつ相手してしまっている時点で女子として間違っている気がしなくもない。

 たとえば小夜ちゃんだったら……小夜ちゃんだったら……小夜ちゃんにこんなセクハラしやがったら私が黙ってないぞこらぁ!



「何ていうかさあ、西浦は生物学的には女かもしれないけど、根本的に女じゃねーんだよな」

「放っておいてくださいセクハラです氏原さん」

「そんなお前と結婚したいって青柳先生が言ってるんだぞ? これを逃したらもうお前にチャンスなんかねーぞ?」

「セクハラ(×∞)です氏原さん」

「先生さ、多分昨夜お前で抜いてるって。こんなことお前の人生でもうねーぞ?」

「私は根本的に女じゃないかもしれませんが生物学的には女なので、そういう発言はやめてもらえませんか」

 あと、それ私だけじゃなく青柳先生にもセクハラだと思う。


「まあとりあえず、お前はフリーだって青柳先生に言っておくな」

 メッセージを送ろうとする氏原さん。待って待って待って。

「あの、この件については触らない方がいいのでは」

「何で。男いないんだから別にいいだろ」

 それは事実なんだけど、何もなかったことにして流してあげた方が青柳先生的にも嬉しいのではないだろうか。


「お前のおっぱい揉みたいとまで先生言ってるのに」

 そんなことまで言ってたのか。最後まで見なくて良かった。いや聞かされたら同じか。

 ていうかバラすなよ氏原、かわいそうだろう。

 ……にしても触ったのにさらに揉みたいのか。普通にオッサンだな青柳先生。


「とにかく、氏原さんは関係ないんですから口を出さないでください」

 私はきっぱりと言った。

「関係なくねーだろ。俺は相談されたから力になろうと」

「それは相談じゃなくて酔っ払いのたわごとだから流してあげるのが大人の優しさです」


「何だよ可愛くねーなー。せっかく俺が骨折ってやってるのに」

「氏原さんのやってることは誰も幸せにしません」

「そういう態度だからお前、男できねーんだよ」

「本気でセクハラ通報しますからね?」


 ホント、無駄な時間を使ったよ。

 私は痛む膝をさすりながら、家に帰る途中で氏原の悪行全てをメッセで係長にぶちまけようと決心していた。


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