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1 ハラスメント社員、氏原光一 -2-

「ほら見ろ」

 メッセージ方式のSNS の画面だ。


2:07 りょー

あの、僕、西浦さんと結婚を前提に交際したいんですが!


2:07 氏原光一

何言ってるんスかいきなり!!!


2:07 りょー

すみません深夜に~~、

どうしても我慢できなくなってしまって(汗の絵文字)


2:08 氏原光一

えー……西浦ってあの西浦? うちのバイトの?


2:08 りょー

ですです……



「ほらな?」

 氏原さんはドヤっているが……『りょー』って青柳先生のアカウント? 内容的に青柳先生か。だけどこんなもんを見せられて私にどうしろと。

 あと、これプライヴェートな会話なんじゃ。私も当事者とはいえ、勝手に見せていいの?

 それとどうでもいいけど、深夜なのにどっちも返信が早すぎるんだけど。なんか怖いよ。


「時間も時間ですし、青柳先生寝ぼけてたか酔っぱらってたかしたんじゃあ」

 自分が惚れられているかもしれないというシチュエーションなのに、自分で疑義を提出するのも悲しいけれど。

 深夜テンション間違いなしの時刻だしなあ、額面通りに受け止められないよ。


「え? 酔ってたけど」

 はい?

「昨日、何だか青柳先生の様子が変でさ。打合せしてても何だかボーっとしてて、理由聞いてもはっきりしないし。だからどうしたのか聞き出そうと思って居酒屋連れてってべろべろになるまで飲ませてマンションまで送っていった後で来たメッセージなんだけどそれ」

 氏原……お前こそ青柳先生に何してるんだよ! もっと大切に扱え!


 そして深夜テンション+泥酔。信憑性ゼロじゃん、こんなの。


「足痛いのに来て損した。帰ります」

「待て待て待て。先生本気なんだって。だから俺だって戸惑ってるんだよ」

「いや、どう聞いても氏原さんが飲ませすぎたせいでちょっとタガ外れちゃっただけですよね?」

 何で私なんだという気は少しはするが。いや、考えるまでもなく昨日のアレだな。

 事故の後遺症みたいなものだろう。朝になってから自分の送ったメッセージ見て頭を抱えてるんじゃないだろうか、青柳先生。


「疑り深いなあ。だからモテないんだぞ、西浦。ほら見ろ」

 なぜ私がモテないと決めつける氏原。彼氏いないのはホントだけど。

 そして『見ろ』と突き付けられたのは、さっきの深夜テンションメッセージの続きだった。


2:08 氏原光一

何で西浦? うちの会社にしても、もっと可愛い子いるでしょ。


2:09 りょー

いえあの……可愛いじゃないですか……


2:09 氏原光一

どこが???


2:10 りょー

い、いろいろ……


2:10 氏原光一

いろいろってどこっスか。

もっと具体的に言ってくださいよ。



 氏原……なぜ執拗に私の魅力を否定するのだ。そして青柳先生、弱っ。

 私が可愛いと言うのなら、もう少し情熱的に語ってくれないだろうか。

 blue blue blue のラブソング並みにとまで贅沢は言わないが、酔った勢いにしてももう少し。



2:10 りょー

あの……実は前から気になってて……


2:11 氏原光一

マジっすか! 何でよりによって西浦?


2:11 りょー

あの……お茶出してくれる時、笑顔だし……



 それは笑顔にはなるよ。だって大ファンなんだもん。



2:11 氏原光一

そりゃ笑顔っしょ。だってアイツ、先生のファンだもん。



 氏原ァァァァァ!! お前がファンだってカミングアウトすんなって言ったんじゃん。

 何、自分で勝手にばらしてんだよ。



2:14 りょー

え……それマジですか? マジ? ホントに?

氏原さん俺のことからかってない?


2:14 氏原光一

マジマジマジ。ホント大ファン。アイツの携帯の中、先生の曲しか入ってねーもん。



 勝手にばらすなああっっ。ものすごく恥ずかしいんだけど。



2:14 りょー

マジですか!!! っしゃああああああああっ! 音楽やってて良かったあ!



 ……青柳先生のキャラが崩壊した。これ大丈夫なの? 泥酔中とはいえ大丈夫なの?

 このやりとりしてから十二時間くらい経ってるけど、今、青柳先生首を吊りたくとかなってない? ホントに大丈夫?



2:15 氏原光一

西浦でなくても


2:15 りょー

すげーテンション上がったー! 前からホント気になってたんです

西浦さん、ジーンズ似合うし


2:15 氏原光一

おー! 分かる。いいケツしてるっスよね!



 ……セクハラの相談ダイヤルって何番だったっけ。

 通報案件だなこれは。あと、『西浦でなくても』の続き、何言おうとしてたんだよ氏原。



2:15 りょー

いいですよね……

いつもピタッとしたジーンズだから太ももとかも気になってて……



 どこ見てる青柳(二回目)。

 気になってたってそこかい。笑顔じゃなかったのかよ。そこは熱入れて語らなくていい。


 待って。昨日はキュロットとはいえミニだったし、生足だったからまだ理解しよう。

 しかしジーンズでこんなこと言われたら、私、次からどうすればいいの? 宇宙服でも着ればいいの?


 何でケガしてるのにバイト先に呼びつけられて、オッサンたちの深夜テンション酔っ払いエロトークを見せつけられねばならないんだ。

 セクハラ? 完全にセクハラだねこれ? 訴えたら勝てるね私?

「どうだ。青柳先生本気だろ?」

 何で勝ち誇ってんですかあなたは。何も理解できてないんだけど。アンタらが私のケツをエロい目で見てたってことしか理解できてないんだけど。



「すみません帰ります」

「えっなんでだよ待てよ西浦」

「あと氏原さんのことセクハラで通報します。それとラーメンおごってくれる時に会社のお金を使いこんでいたことも係長に報告しておきますね」

「何で?!」


 むしろ何で理解できないんだ。

 ああ、理解できないからハラスメントの塊なのかこの人。


 青柳先生もどうしてよりによってこの人にあんな話を……私に筒抜けだって知ったら卒倒するよねきっと。

 もしかして引きこもりだから知り合いが他にいないのか?

 引きこもり直そうよ青柳先生。もっと人脈広げた方がいいよ。



「何でだよ態度悪いなー。俺のおかげで憧れのミュージシャンに意識してもらえたのに感謝しねえのかよー」

 ハ ラ ス メ ン ト。

 あと意識してもらえたのは私の尻(または太もも)の力。あんた関係ない。


「青柳先生にはゴメンナサイって言っておいてください」

「何で? ファンなんだろ、好きなんだろ、付き合いたいだろ」

 いや……曲のファンではあるけど。

 青柳先生のこともカッコいいとは思ってたけど(昨日までは)。付き合いたいとまでは別に……。


 先生の方だって、昨日のこととかお酒の勢いでエロ心が爆発しちゃっただけみたいに見えるし。

 私に盛り上がられて粘着されても迷惑だろう。というか氏原さんが話を大きくしてるよね、完全に。


「ふざけんな西浦テメー!」

 何か怒鳴られた。ハラスメント(×3)。


「お前が青柳先生を振るなんて有り得ないだろ! 逆ならともかく。いくら青柳先生が最悪のコミュ障だからって」

 言いたいことは分からないでもないけど、アンタこの話をどこに持って行きたいの?

 私とくっついちゃ困るから呼びだしたんじゃないの?

「俺がくっつけてやったら二人から感謝されると思ったのに何でそんなノリ悪いんだよチクショー」

 あ、ただの自己中だった。

 普通に最悪だわコイツ。


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