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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
7/30

■5月 撮影旅行.ホワイトソース

朱音 好きな教科は英語

月葉 好きな教科は現代文

 朱音をチラッと窺うと、デミグラスソースのかかったオムライスを上品に口へと運んでいる。

 私は好きなデミグラスソースではなくて、普段は好んで食べないホワイトソースを注文した。全ては今からの行動の実行のため。


「私の食べる?」


 同じオムライスでは使えない手。このためにホワイトソースを選んだ。

 好みが被っているときこういうのが不便だ。


「いいんですか?ありがとうございます」


 間接キスとあーんを同時に得るために。そして、あーんされたらあーんを返すのが普通。テレビでやってたし。

 朱音のスプーンで朱音のを食べたい。

 私はそんな欲望を頭の中で並べていく。それが増えれば増えるほど、思考は疎かになってしまう。

 その失敗は頭の動きが遅れた結果からだろう。私が次の言葉を出そうとした時には朱音はスプーンで私のオムライスをすくい口へと運んでいた。


「美味しいですね」

「う、うん。そうでしょ」


 朱音は満面の笑みを浮かべている。そんな顔を見たらいつもは私も自然に笑えるのに、私はひどく落ち込んだ。

(あーんしてそのあとあーんし返してもらうつもりだったのに。つもりだったのに。……だったのに)

 頭でそれを、何度も反芻する。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」


 私が勝手にやって勝手に失敗したことを悟られたくはない。私は精一杯の声でそう言った。

 すると朱音はなんの戸惑いもなしに、


「私のを食べて元気出してください」


 という言葉を発しながら、朱音が私の前にデミグラスソースのかかったオムライスをスプーンにすくって差し出してきた。

 私はもうこれ以上のチャンスはないと思い、頭の悪いお馬鹿な魚のように朱音のオムライスに食いついた。

 好きな味のオムライスがまだ口に残っているなかで、朱音はそっと私の頭に手を乗せてきた。


「月葉はかわいいですね」


 私は恥ずかしかった。顔が熱くなって、多分耳まで真っ赤になっていて、この熱が朱音の手に伝わってしまうと思うと余計に恥ずかしくなる。

 何もかもが一瞬過ぎて、オーバーヒートしてしまいそうな顔を私は両手で覆う。ひじをテーブルにつけ、同時にため息をついた。

 私の計画は見事に崩壊したが、望んだ結果にはなった。

 この言葉を好きな人から面と向かって言われるとこんなに嬉しいものだと言うことを初めて知った。

前の話の別視点です。

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