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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
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◆5月 撮影旅行.オムライス

 私の目の前にいる女の子。

 彼女はそれはもう魅力的で、人を惹き付けるような魅惑があって、だけど身体に疾患を抱えていて、それでも明るくて、クラスでもいつもたくさんの人に囲まれていて……。

 私には無いものを、たくさん持っている気がする。

 月葉のことを好きになったことは、果たして幸せへと繋がっていくのかとか、私の好意が月葉の負担になってしまわないかとか、この好きに対しての不安が無いわけではない。

 中学で私たちはあまり交流をもたなかったから、私はずっと彼女に寄り添ってきたわけではない。故に、月葉のことは、まだ知らないことが思っている以上にあるのかもしれない。


「お待たせしましたー。こちらデミグラスのオムライスとホワイトソースのオムライスです」


 私の前にデミグラスのかかったオムライスを店員さんが運んで置いてくれた。

 私は小さな声でいただきますと言ってから、スプーンに手をつける。デミグラスソースがたっぷりかかった、とろけるような卵をそっと口に入れた。

 美味しい。

 でも私の興味はすぐに月葉に移ってしまう。


「おいしいですね」


 すぐに月葉を見てしまう。

 私の茶色っぽいデミグラスとは違う、ホワイトソースのかかったオムライス。

 スプーンによって月葉の口の中へと運ばれる。ホワイトソースが見えなくなるとスプーンだけが戻ってくる。

 それだけのことなのに。月葉の艶々した唇がゆっくりと揺れて、その動きにさえ魅了されてしまいそうになる。


「ねえ朱音」

「ど、どうかしましたか!?」


 凝視していたのがばれたのかと思い、ヒヤッとして声を一瞬詰まらせた。


「私の食べる?」


 どうやら凝視していたのはばれていたみたい。唇ではなくて、オムライスの方だと思ったようだけど。

 クレープに続きこれに「はい」と言えば、また私が、食い意地を張っている女というレッテルが、月葉の中でより強く貼られることになる気がする。

 まあいっか。


「いいんですか?」

「うん」

「ありがとうございます」


 ここで私の思考は一転。これは一つのチャンスという考えが芽生える。

 行われる可能性があるものは大きく分けて三つ。


一、月葉がスプーンで私の皿へ平行移動

二、私が自分で月葉のオムライスを食べる(間接キス)

三、月葉が私の口へ運ぶ(間接キス+あーん)


 三がベストであることは明確。でも難しいだろう。

 ならば唯一、私の方から行動できるものをするまで。

 私は自分のスプーンを月葉のオムライスへと伸ばし、スプーンで軽くすくう。

 もちろんのことだけど、月葉が食べ進めている方から。

 味は見たままのホワイトソースだった。でもそれ以上にテンションがあがっていたのは言うまでもないこと。


「美味しいですね」

「う、うん。そうでしょ」


 私は満面の笑みを浮かべたつもりだったが、月葉は浮かない顔。


「大丈夫ですか?」


 私の言葉をきいても大丈夫と力なく言うばかり。


「私のを食べて元気出してください」


 私が月葉の前に私のデミグラスソースのかかったオムライスをスプーンにすくって差し出した。

 たべさせてあげるっていうつもりはなかった。私のスプーンを渡して食べて貰うつもりだっただけ。

 なのに月葉はすぐに反応し、私が持つ私のスプーンにはむって食いついた。

 いわゆるところのあーん成立である。

 大きな栗色の瞳をこちらに向けながら食べる姿が、なんとも愛らしい。

 私は無意識のうちに、月葉の頭に手を乗せていた。


「月葉はかわいいですね」


 言葉は意外とその状況に陥れば、すっと出てくるものなんだなと、私は初めてそう感じた。

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