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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
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◆5月 撮影旅行.商店街

朱音 15歳

月葉 16歳

 月葉にとっては屋根があってもそれが日を遮るものでないのなら傘をささない理由にならない。

 私と月葉は商店街に来た。公園から5分ほどの距離だから、バスを使わずに歩いた。

 この商店街の一番大きな通りであるここは、透明な屋根で雨風はふせげるのだが、太陽光まではどうしようもない。月葉にとっては何よりも防がねばならないものなのに。



「そろそろ撮りはじめませんか?」


 私たちは何となく歩いてはいるが、商店街に来てからまだカメラを取り出してすらいない。


「もう少しだけだよ~」


 月葉は笑って私に甘える。

 ここは旅行先だ。もちろん行ったことのない未知の場所なので、探索は手探り状態。

 そんな中で、日傘片手に歩き回る月葉は、ずっと目を輝かせている。

 月葉にとって旅行すること、遠出することは滅多にないことで、学校行事である遠足も参加したりしなかったりというほどだったから。

 そんな月葉に今すぐ写真を撮るぞ、なんて言えるはずもない。


「はぁ……。仕方ないですね」


 結局のところ私は月葉が好きなんだ。


「あ、あれ見たい!」


 月葉はそう言ってすぐに、今覗いていたお土産屋さんの向かいにある、バッグが店頭に並んでいる店へと入っていく。

 日傘をたたむのは手慣れているみたいで、折り畳み式なのにてきぱきと。それはもう見事な動き。


「ちょっと待ってくださいよ」


 私は月葉に置いていかれないように、月葉の元へ走る。

 走っても走っても追い付けなくなる前にたくさん話さなくては。

 私も後を追うようにして入った店には、私たちのお揃いで持ってるピンクのバッグのようなチャーミングな物ではなく、ゴシックホラーな雰囲気のものばかりが売られていた。


「つ、月葉ってこういうの好きなんですか……?」

「え? 好きだよ。かわいいじゃん」


 月葉に意外な趣味が……と思ったら、持っているのはヴァンパイアになりきった熊のぬいぐるみ。

 一見すると怖そうだが、その表情は穏やかで優しさすらみえる。かわいいと言うのも頷ける。


「どうかな……欲しくない?」

「え、私ですか? うーん。私なら……」


 と言いながら辺りを見回す。よく見て言ったのちに、私はかっこいいバッグを見つけて月葉に見せた


「このバッグなんてどうですかね。黒を主においたデザインですが、この大きめのファスナーとかちょっと女性っぽさが出てると思いますし、かっこいいかなって思ったんですが……私に似合うでしょうか?」


 私はかっこいいと思ったバッグを肩にかけながら月葉に見せる。

 月葉の返事を笑顔でまった。


「似合わない」


 そ、即答……!?


「そんなにダメですか」


 かっこいいと思ったのに、そんなにダメと言われると少しショック。言われたのが月葉だからなおさら。


「……そうじゃなくて」


 私があからさまに落ち込む表情をしてしまったと自覚したところで、月葉は私をフォローしようと言葉を選ぼうとするのがわかる。


「いや、似合わないなら、そう言ってもらえる方が助かりますし──」


 ちょっと……いや、かなりダメージはありますがこれが私にとって一番よい答えです。


「違うの!」


 私が自己の中で解決を促していると、月葉は大きな声で私の顔を上げさせた。


「な、なに?」


 ちょっと驚いて私はたじろいた。


「私と一緒じゃなくなるのは嫌……。だって、折角のお揃いのこのこのカバン。使ってくれなくなるんじゃないかなって思っちゃって……」


 月葉はピンクのバッグで顔を隠しながら、弱々しい声を放った。


「顔赤くしてるのすごくかわいい」

「い、言うなー! というか見えてないでしょ!」

「声音でわかりますよ」


 きっと顔を真っ赤にして、いるだろう。それくらいには恥ずかしいと思うもの。


「……見ないでよ」

「ずっと繋がっていられる証。そう誓ったでしょう。それにまだ新しいものてすから、そんなすぐに買い換えたりなんてしませんよ」


 この誓いも死ぬほど恥ずかしかったのに、月葉は恥じることに何かの趣を感じるような特殊な性癖でも持っているのでしょうか。この提案も月葉からだったし。


「どうします? 買いますか?」

「これだけ買って次行く」


 月葉は私にどうかなと言って見せたヴァンパイア熊の小さなぬいぐるみだけを買った。

 私のバッグのデザインは小さなピンクの無地である。

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