◆5月 撮影旅行.宝物
朱音 妹がいる
月葉 姉と弟がいる
私たちの所属している写真部は、とてもゆるゆる。普段の活動は週二回、水曜日と金曜日で、行かなくても怒られたりしない。みんな部室でゆったりしている。
「今日はいつも楽してる分だけ、たくさん写真を撮らなければなりませんからね。体力は必要ですから、休んでください」
私と月葉は、旅館を出て数分歩いたところにある、公園へとやってきた。
緑がたくさんある公園には、遊具で遊ぶ子供やウォーキングをする年配の方を見かける。
到着してすぐに東屋を見つけ、二人で腰かけた。
「なんか、朱音ってやっぱり運動部って感じだよね」
「どこがですか?」
「さっきの言葉とか」
「そうですかね?」
ずっとテニスをしてきたのだから、そう言われても当然だろう。でも、日焼けはもう殆どなくなったな。
「ねえ朱音」
「なんですか?」
月葉は可愛らしく、私の服の裾を引っ張った。
「せっかくの撮影旅行なのに、いきなり休憩でごめんね」
「らしくないですよ。月葉、あなたはいつも図々しいではありませんか」
皮肉のような言い回しで私が放った言葉に、返事はかえされない。
代わりに、月葉の頭が私の腿ももの中にすっぽりと納まる。
「月葉?」
「……図々しい私から一つお願い。このまま少しだけ休んでいいかな?」
月葉の表情を窺うと、私の恥ずかしさは霧散した。
旅路の疲れがたくさん貯まっているようで、その顔色は決して健康的とはいいがたい。月葉は元々色白だけど、今は特に疲れが見られます。
私は無言で頷きました。
「ありがと」
「いいえ。構いませんよ」
月葉は体をもぞもぞさせて、寝心地の良い体勢を探している。仔猫みたいなんて言ったら怒るかな。
月葉は小学生の時に猫にパンチを喰らってから、猫を苦手としているし。
「……ん」
私の腿にほおを擦り合わせるように顔を動かすから、月葉の癖っ毛が私の肌に直に触れる。
漏れそうになる声を聞かれたくなくて、必死で抑える。
「……くすぐったいですよ」
「あ、ごめん。……嫌だった?」
嫌なわけがない。とは言うべきではないと思った。私はすんでのところで引っ込めて、言葉を選び直す。
「くすぐったいのが、いいと思いますか?」
「ごめんごめん」
「わかればいいんです」
本当はいいんなんて、口が裂けても言えない。
結局、月葉は私のおなかに顔を向けて目を閉じた。
旅館を出るときに比べ、陽はその姿を大きな雲によってたくさん隠している。
少しの間、ただただぼーっと空を見上げて時間を過ごした。
「月葉、そろそろ行きましょうか?」
出来るだけさりげなく、私は月葉の髪を撫でた。
「日差しも弱くなったので歩きやすそうですし……、月葉?」
私が言葉を収めると、月葉の落ち着いた呼吸がきこえてきた。これは睡眠のそれ。
もう一度空を眺める。
この空は私の乱れた思考を鎮めてくれるから。
鎮まった思考回路を動かせというのも無理な話。私は思考ではなく身体に行動を任せる。
自分のカメラを取り出して、この旅行二度目の写真に月葉の寝顔を収めた。
これはきらきらしたもの。私だけの特別なもの。大切な宝物を失うのは嫌。
だからしっかりとこの小さな手を握っておく。離れる日がきてもこの温もりだけは残るように。
しばらく甘々