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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
3/30

◆5月 撮影旅行.宝物

朱音 妹がいる

月葉 姉と弟がいる

 私たちの所属している写真部は、とてもゆるゆる。普段の活動は週二回、水曜日と金曜日で、行かなくても怒られたりしない。みんな部室でゆったりしている。


「今日はいつも楽してる分だけ、たくさん写真を撮らなければなりませんからね。体力は必要ですから、休んでください」


 私と月葉は、旅館を出て数分歩いたところにある、公園へとやってきた。

 緑がたくさんある公園には、遊具で遊ぶ子供やウォーキングをする年配の方を見かける。

 到着してすぐに東屋を見つけ、二人で腰かけた。


「なんか、朱音ってやっぱり運動部って感じだよね」

「どこがですか?」

「さっきの言葉とか」

「そうですかね?」


 ずっとテニスをしてきたのだから、そう言われても当然だろう。でも、日焼けはもう殆どなくなったな。


「ねえ朱音」

「なんですか?」


 月葉は可愛らしく、私の服の裾を引っ張った。


「せっかくの撮影旅行なのに、いきなり休憩でごめんね」

「らしくないですよ。月葉、あなたはいつも図々しいではありませんか」


 皮肉のような言い回しで私が放った言葉に、返事はかえされない。

 代わりに、月葉の頭が私の腿ももの中にすっぽりと納まる。


「月葉?」

「……図々しい私から一つお願い。このまま少しだけ休んでいいかな?」


 月葉の表情を窺うと、私の恥ずかしさは霧散した。

 旅路の疲れがたくさん貯まっているようで、その顔色は決して健康的とはいいがたい。月葉は元々色白だけど、今は特に疲れが見られます。

 私は無言で頷きました。


「ありがと」

「いいえ。構いませんよ」


 月葉は体をもぞもぞさせて、寝心地の良い体勢を探している。仔猫みたいなんて言ったら怒るかな。

 月葉は小学生の時に猫にパンチを喰らってから、猫を苦手としているし。


「……ん」


 私の腿にほおを擦り合わせるように顔を動かすから、月葉の癖っ毛が私の肌に直に触れる。

 漏れそうになる声を聞かれたくなくて、必死で抑える。


「……くすぐったいですよ」

「あ、ごめん。……嫌だった?」


 嫌なわけがない。とは言うべきではないと思った。私はすんでのところで引っ込めて、言葉を選び直す。


「くすぐったいのが、いいと思いますか?」

「ごめんごめん」

「わかればいいんです」


 本当はいいんなんて、口が裂けても言えない。

 結局、月葉は私のおなかに顔を向けて目を閉じた。

 旅館を出るときに比べ、陽はその姿を大きな雲によってたくさん隠している。

 少しの間、ただただぼーっと空を見上げて時間を過ごした。


「月葉、そろそろ行きましょうか?」


 出来るだけさりげなく、私は月葉の髪を撫でた。


「日差しも弱くなったので歩きやすそうですし……、月葉?」


 私が言葉を収めると、月葉の落ち着いた呼吸がきこえてきた。これは睡眠のそれ。

 もう一度空を眺める。

 この空は私の乱れた思考を鎮めてくれるから。

 鎮まった思考回路を動かせというのも無理な話。私は思考ではなく身体に行動を任せる。

 自分のカメラを取り出して、この旅行二度目の写真に月葉の寝顔を収めた。

 これはきらきらしたもの。私だけの特別なもの。大切な宝物を失うのは嫌。

 だからしっかりとこの小さな手を握っておく。離れる日がきてもこの温もりだけは残るように。

しばらく甘々

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