理由①
視点 月葉
朱音↔月葉(幼馴染み)
奈由菜
あの日、告白された日から、なんか、アプローチがすごい。
振ったはずなのに、なんか、部活が終わりになるといっつもどこかに誘われる。
「今日は一緒にお出かけでもどうですか?」
次の日も、
「映画のチケットがあるのですが一緒にどうですか?」
またその次の日も、
「今日は月葉の家行ってもいいですか? 見せたいものもありますし」
朱音は昨日に引き続き、俗に言うデートというものに私を何度も誘う。
「ねえ」
私はたまらず尋ねる。
「うち来るのはいいけど、二人っきりになるよ。えっと、ヘンなこと考えたりしないよね?」
「そんなこと考えませんよ」
朱音はそう言った後、なぜかうーんと、考え込む姿勢になる。
「どうしたの?」
「いや、やっぱり無理かもしれません」
私も無理だ。朱音もわたしのことが好きと知った今では昔と状況が違う。
「なーんて、冗談ですよ。何年も一緒にいる仲じゃないですか」
……なんてフェイント。うっかり心のなかで暴露しちゃったじゃないか。
朱音は冗談だったかもしれないけど、私からしたら冗談じゃない。
相手に拒まれないとわかった今なら。……やばい。
「ええと、今日は無理。えっと、先約があるの」
だから私は断る口実作りに逃げた。
「先約ですか?」
「そうそう。だよねー、奈由菜!」
私は誰でもいいから助けを求めたかった。
んで、同じ部活で、ちょうどすぐそこにいた、きっと暇であろう人が奈由菜だ。
今日は部活の集まりがあってそれはすぐ終わったけど。
後日に予定されている撮影旅行についての打ち合わせ的なものだったけど、特に話は進まず途中で何人かは帰ったし。
「んー? 月葉ちゃん、なんか読んだー?」
「今日一緒に買いに行こうとしてたものがあるんだよねー。ね?」
「え?」
奈由菜ははじめ状況がまったく飲み込めなかったようだがが、私がジーっと視線を送り続けるとなんとなく察したのか思い出したように奈由菜は立ち上がった。
「そうなの~。今日は月葉ちゃんと話したいことがあってねー」
「そうだったんですか。それなら仕方ないですね」
朱音が視線をそらした隙に私はウインクでありがとうと奈由菜に言った。そしたらウインクがちゃんと帰ってくる。
「朱音ちゃんの取っちゃってごめんね~」
「だから、月葉は私のってわけじゃないです!」
まあ、ここ数日過ごして朱音が元気であることがわかった。それはまず嬉しいこと。
「じゃあね朱音」
いつもは一緒に帰るけど、今日は奈由菜と話すと言って断ったんだから、帰れない。
背中を見送るのは当たり前のように感じる。
「ありがとう奈由菜。助かったよ」
「……そう。まあ、私はちょうど話したいことあったし」
いつも元気、それが彼女のイメージであり取り柄のひとつ。
でも今目の前にいる奈由菜の姿に元気はまるで見受けられない。
明らかに雰囲気が違う。
「どうしたの……?」
静寂染まる部室に初めて目を向ける。さっきまでいっぱいだったのがいきなり空っぽになって驚いているのだ。
抜け落ちたのは、朱音の存在と奈由菜の元気さ。
加えて私の……
「なんで断ったの」
奈由菜の目は泣いていた。大きな黄色の瞳から、大粒の涙がゴロゴロと溢れてくる。
私はどうしたらいいのかわからなくて、でも何を問われているのかは理解できて、それでも奈由菜の気持ちはわからなくって。
私は言葉を失う。
「あ、えっと…………」
「なんで告白を断ったのかって聞いてるの! 朱音ちゃんが勇気を出したあの告白を……」
大粒の涙はきれいな肌を伝って落ちていく。
そして小さな滴がひとつ、私の頬を通りすぎた。




