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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
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▲7月.澄んだ景色に見えるもの

澄 朱音の妹

  ミディアム(ウェーブ)

 茹だるような暑さ。こんな時でも、学生である以上は、先生の話を聞かねばならない。

 スカートの裾をパタパタとしたいところだけど、周りの目がある。迂闊に手を動かすことはできない。

 一番前の左角の席。先生の死角とよく言われるが、実際のところどうなんだろうと疑っている。

 短パンは履いているし、問題は無いように思うこともある。でも、なんだかみっともないじゃないかと踏み留まる。そもそも短パンを履いているから暑いのだけど、まあそれは仕方のないことだ。

 それもひとまず今日までの話。なんせ、明日からは夏休みだ。


「澄、家族旅行は京都にしましょう!」


 家に帰ると、お姉ちゃんと私とで、家族旅行での行くとこ争い……。私たち家族の間では、夏休み前の恒例行事と化していた。

 私とお姉ちゃんは、趣味が全然合わないのだ。だから毎年ぶつかる。

 物理的にぶつかることも昔はあったが、ここ最近では、どちらがより素晴らしい場所であるかを言い争う、ということをしていた。

 でも今年はしない。


「京都は、歴史的建造物がたくさんあるんですよ。でも、澄にはこれを言っても弱いと思ったので、別の説得材料を用意しました!」


 自信満々に背中を反らせて、大きな胸元をこれでもかと、言わんとするように強調するのが、私の姉である朱音だ。

 小さな花のような美しい笑顔を咲かせながら、


「……す、澄? どうかしましたか?」


 いつもなら、ここで私は言い返していた。

 私たちは去年まで、こんな滑稽な勝負をしていたんだと思うと、笑えてくる。


「奇遇だねお姉ちゃ。私も京都行きたいよ」

「……本当ですか?」


 やっぱり疑われちゃった。それも仕方のないこと。

 毎年戦って、私が勝ったり、お姉ちゃんが勝ったり……。私が勝った時は、私はその場所を思い切り楽しんでいたんだけど、お姉ちゃんが勝った時、旅行先でお姉ちゃんは、いつも私に気を使っていた。

 だから今年はお姉ちゃんにたくさん楽しんでもらいたい。


「本当だよ。行きたい場所があって……。それにしても私とお姉ちゃの意見が合うなんて珍しいね」


 だから、小さな嘘をつく。


 これはお姉ちゃんに対するわがまま。家族で行く場所を決める権利を譲った、なんて綺麗な話じゃない。

 いつまでも私のもとにあって欲しいと思う。私の命を捧げてでも、救いたいと思う。ただの愛情が私の心を削る。壊れまいと足掻いても、必死になって取り繕っても、この気持ちは揺らがない。


「そうですね。それなら、後で観光する場所を一緒に決めましょうか」

「あとで? 今からじゃダメなの?」

「澄が汗だくになっていますし。まずお風呂ですね」


 確かに今日の暑さはほんとにつらい。頭を動かしていることも原因の一つではあるが、それだけが暑さの原因ではなさそうだ。


「エアコンは?」


 リビングがサウナのように……とは言わないが、とても過ごしやすい場所ではなくなっていた。


「私も帰ってきたばかりで、涼しくなるのにはもう少し時間がかかるかと」


 お姉ちゃんの額にも、ハンカチかなにかで拭き取った後の汗の筋があることに気がついた。


「そうだね。なら一緒に入ろっか」

「一緒にですか? そうですね。私も早く入りたいですし」


 月葉ちゃんとの時は、恥ずかしがってたって聞いたのに。

 でも、姉妹だからこそ話してもらえることもあるのだから。それに満足すればいい。


「話なら聞くよ」

「ありがとう、澄」


 お姉ちゃんの額から滴り落ちる雫には嘘偽りがなくて、ただその運命を恨みたくなった。

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