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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
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■3年前 恋はうしろ向き

3年前つまり、中学一年生の月葉と朱音。



朱音 テニス部

月葉 帰宅部

 触れたいと思った。欲しいものがわからなくなった私にそのことの喜びを与えてくれた。

 これは中学生になってまだ半年も経たない頃のこと。


「おはよう……」

「おはよ。朱音は今日も部活?」


 今はおはようなんて時間じゃない。それでもこの挨拶をしてしまうのはきっと癖だ。

 放課後、私は帰路についていた。昨日、本を借りたばかりだから図書室に用はない。

 途中、下駄箱でスリッパと靴を入れ換えている時朱音に声をかけられた。


「そうだよ。もうすぐ大会なの。月葉は身体大丈夫?」


 私のことを心配するその姿勢も変わらない。


「うん。最近はわりと大丈夫。それよりさ、朱音って一年生でレギュラーなんでしょ。すごいなー」


 私は手に靴を持ったまま返事を探す。


「うん、ありがと。沙羅先輩が私を引っ張ってくれてるから結構気楽にやってるよ」


 なんだか浮かない表情をしていたけれど、少し元気が戻ったようだ。久しぶりに笑顔を見られた。

 でもそれさえどこか暗い。

 朱音と話すのも二ヶ月振りくらいか。今まで毎日のように一緒にいたから、こうして話していることの方が普通に感じる。

 私のお姉ちゃんから話は聞いたりしてる。私も、こんな身体でなければ、朱音とお姉ちゃんと一緒にテニスを楽しんだりできたのかもしれない。

 考えても無駄とわかっていても、何度でも思ってしまうものだ。


「そっか。ならよかったよ」


 私は手に持った靴を下に放った。バンというかパンというか、擬音にするにはどうするか悩むような音が鳴り響く。

 周りに人はいない。係の仕事で少しだけ帰るのが遅くなったせいだろう。部活をやっている人たちはもうアップを終えて練習に励んでいる頃だ。


「で、部活は行かなくてもいいの?」

「……」


 朱音は身につけた体操服の裾を下に引っ張りながら、顔を赤くした。


「どうしたの?」

「最近、話せてなかったから。……久しぶりに会えたし、もっと話したいなって」

「だよね……」


 嘘じゃない。話したいと思うのは。だけど、私の声は尻すぼみになる。


「だけど、部活は行かなきゃだよね」

「そうだよ。ほら部活行った行った」

「でさ、今度の日曜とか空いてない? 私その日なら一日空いてて──」

「ごめんね、その日は空いてないの。そろそろ帰らないと」


 朱音を思う気持ちを大きくし過ぎないように。私はこうするしかなかったのだ。


「そっか。また遊ぼうね」


 笑顔が苦しい。目の前から彼女が消えたら、絶対泣いてしまうけど今は目を瞑りたくなる。

 家に帰っても久しぶりに朱音と交わした言葉を反芻する。あの言葉でよかったか。なにか間違えていないか。どこまでいっても辛いだけなのに。私はまた考える。

 雨戸で仕切られた窓からは一切の光は漏れない。ベッドに横になって目を閉じる。昨日借りた本を早いとこ読んでおきたいけど一度閉じた目はなかなか開かない。だから、頭だけが動いてしまうのだ。


 伝えたら、朱音はそばにいてくれるかな

 悲しむ顔は見たくないな

 朱音に受け入れられるかな

 泣かないでくれるよね

 だって朱音は強い子だよ

 かっこいい私の王子様だもの

 かわいい私のお姫様だもの

 だけど我慢とか求めてない

 して欲しいなんて思わない

 それでは意味ないもの

 朱音の幸せより大事なことなんてないから


 次は何を話そうか、なんて考える自分を振りきらなければ。

 だから決めた。私は彼女になるべく近づかない。思い出は綺麗なままがいいから。

 お祭りで、五百円もするわたあめを分けあった時のように、なんてことないゲームではしゃいだあの時のように。笑い合った日々のまま額縁の中に飾ろう。


 目を開けば頭にはいる情報が増えて思考が疎かになる。まあそれでいい。寧ろそうしたかった。

 本を読みたいんだ。宿題と勉強はさっさと終わらせよう。シャーペンを持てば半分終わったようなもの。

 一問解いて、もう一問解いて。これだけ簡単に答えがぱっぱと出てきてくれたら私は苦労しないのに。そんな、誰もが思い浮かべそうなことを口にして勉強を終わらせた。

 でもついに私は本を読まないで寝てしまった。

 夢は何も見なかった。

次は現代へ戻ります

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