◆6月.お泊まり わかってしまうこと
澄 朱音の妹 学習塾に通っている
お風呂をあがっても、まだ私の身体はあたたかくて、なかなか服を着られない。
月葉が全身に衣を纏いきって、かつドライヤーもかけ終わってもまだ、私はショーツ以外何も身に付けていなかった。
私が遅かったのもあるけど、月葉が速すぎたというのも原因。着替えるのからドライヤーまで月葉はぱっぱと終わらせてしまった。
私は月葉の一挙手一投足に気にしすぎて着替えることがなおさら遅くなってしまっている。
お互いに対する意識が別の形ででてしまったのかな、なんて自惚れてみたりもする程には、私の頭は浮ついている。
「着替え終わったし、先に出てるね」
華麗な早業を見せた月葉は、平然とした態度でそう言った。私が思うような
「はい、それなら私の部屋で待っていてください。水は冷蔵庫から勝手に出してもらっても構いませんので」
「了解っ!」
月葉は私の方をちらと見てから脱衣所の扉をそっと開けて、誰もいないことを確認してから大きく開けて出ていった。ほとんど裸の私に配慮してだろう。自分の家だし、普段は裸でウロウロしたりするときもあるから、私は気にしないけど。
まあでも、こんなさりげない優しさも、私が月葉に惚れた理由のひとつなんだよね。
月葉が出てからは、いつも通りとまではいかずとも、普段に近いペースで着替えられた。
ドライヤーをかけるときの音はとてもうるさくて、一人っきりのこの空間で、余計に私を孤立させる。
だからこそ見えてくるものもあるから、私は月葉よりも長い髪を乾かす間に、考え事をするのだ。
たぶんだけど、月葉は私に隠し事をしている。
私が知ったらなにかが崩れてしまうのかもしれないけれど、言って欲しいという気持ちもある。だから私は今日、映画のときに尋ねようとした。
尋ねようとした、けどやめた。
崩れてしまうのが恐ろしくて私には手が出せなかった。
いっそのこと杞憂であったらいいのに。
なにもなければいい。なにも悪いことがなければ。私にも、月葉にも。
それがわからない間は、その心は決まらない。
私の長い髪を乾かすのには、やはり時間がかかってしまった。月葉より10分ほどおくれて脱衣所を出た。
リビングに入ると、私の妹の澄が帰ってきていた。
「あ、お姉ちゃ。ただいま」
「あ、澄。おかえり。……あれっ? お母さんは?」
「なんか、コンビニ行ったよ。プリン買ってくるって。私も欲しいって言っておいたけど、お姉ちゃも欲しかった?」
「いや、私は大丈夫。その、太っちゃうし……」
母も妹も太りにくい体質で、非常に羨ましく思う。私はすぐ体重が増えるから、気をつかってばかりいるのがちょうど良い。
「……さっすが、恋する乙女は違うねー」
「そ、そういう問題ではないし!」
棒読み。からかってるようにしか聞こえない。
「そう? まあいいけど。あ、いくら月葉ちゃんが隣に寝てるからって襲っちゃだめだよ」
「襲わない!」
まったく、何を言い出すのこの子は。母の影響をもろに受けた子の末路なのか。
私も一歩違えばこんな感じに……
「だけどさあ、考えてみてよ。大好きな人がだよ? 無防備にも服をはだけさせて、同じ布団で寝ているんだよ?」
「……変態」
「いやいやぁ、誉めてもなにもでないよ」
どこから突っ込んでいいのやら。
「でもさあ、変な気持ちになるなってのも無理な話じゃない?」
「……」
服がはだけた月葉、同じ布団で。「いい……よ?」なんて言われて……。
「一度考えておいて良かったでしょ?」
「まあ……はい。これである程度の耐性はできた、かも?」
結局は私もあの母の娘で、この子の姉。血には抗えないのかもしれないな。
「それはよかった。月葉ちゃんに嫌われたらお姉ちゃ、いきる意味とは……って言いかねないからこわいよ」
「いくらなんでもそこまでは……」
「いやいや、全然あるから」
「む……」
ここで否定できない時点で私の負け。私には少なからず心当たりがある。
「じゃあ私はお風呂入ってくるね。……お風呂で既に変なことしてないよね?」
「してない!」




