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私は彼女に恋をした  作者: まどるか
15/30

■6月.お泊まり

 最後に朱音の家を訪れたのは、小学生の時だ。その頃は毎日、お互いの家に行ったり、二人でお買い物とかしたり。そんな日々は遠いものとなってしまった。だから今日のお泊まりはめいいっぱい楽しむ。昨日はそのために早く寝た。


「ごちそうさまでした。ごはん、ありがとうございます」

「ええ、いいのよ。月葉ちゃんが来てくれて嬉しい」


 朱音のお母さんはいつもこうして笑顔で私を迎い入れてくれる。私のこの気持ちをもし知られてしまったらどうなってしまうのだろう。知られるような失敗はしないから不安を持つことはないけどね。


「昨日ね、久しぶりに月葉ちゃんが来てくれる~って、はしゃいでいたのよ」

「ちょっと、お母さん・・・・・・」


 右隣に座る朱音は赤面を浮かべる。この顔をずっと見ていたい。


「月葉、どうかしましたか?」


 見すぎてた。なんでもないよって適当にごまかす。


「いつもよりも念入りに掃除もしてー、着る服の相談も────」

「お母さん! それは言わない約束だったよね!?」


 私もそわそわしながら昨日を過ごしたから、朱音も似たような気持ちを抱いてくれていたと思うとなんだか嬉しいな。


「大丈夫だよ」


 私はちょんと、朱音の肩を叩いた。朱音はキョトンとした顔をしながら小首をかしげた。


「月葉、どうしましたか?」

「朱音がクールぶってるけどクールじゃないことくらい私は知ってるからね」

「そ、そういうことは言わないでください!」


 最近になって知ったけれど朱音はすぐに顔を赤くする。その姿がかわいいから私はいじりたくなってしまう。これは仕方ないことだと割り切ってもらいたい。


「ふふふ。昔みたいに今でも変わらず仲がいいのね。朱音は中学の時も、月葉ちゃん月葉ちゃんって言うばかりでね、まるで恋してるみたいだったわ~」


 惜しいです、お母様。恋しているのは私です。


「恋って・・・・・・やめてって言いましたよね?」


 朱音の瞳は、全てを凍らせるような冷たい陰の降りたものだったに違いない。朱音のお母さんのおびえた表情と朱音の声のトーンがそれを物語っていた。

 私は朱音に目を向けることができない。わかっていることでもきっぱりと拒絶されたみたいで、それは私の精神にグサッとくるものだった。


「あ、そう。澄が帰ってくる前にお風呂済ませといてくれる? 疲れて帰ってくるだろうから」


 朱音のお母さんは朱音にごめんと謝りながらもその話から逃げるかのように話した。

 澄ちゃんは朱音の妹だ。

 小学生だった頃は何度も遊んだが、今ではすっかり過去の事。


「なら、月葉が先にどうぞ。私は後でも構わないので」

「いやいや、一緒に入ってきてよー。澄が帰ってきたらすぐにお風呂入らせてあげたいし~」

「はい?」


 私はもう家で入ってきたので、という言葉をぐっと飲みこんで私の脳は働き始めた。

 これはチャンスだ。朱音は恥ずかしがりでいつも一緒に入ってくれない。特別意識しているわけではないようだが、裸のつきあいというものをあまり良いものと認識しているようには見えない。

 だが、いつもはマイナス方向に振れた針が、澄ちゃんの帰宅に合わせるというプラスの要素が含まれた結果、今はプラスの方向に振れているのではないか。なんにしろ、この機会は逃すわけにはいかない。


「つ、月葉は嫌ですよね。私と一緒に入るのなんて、ってなんで脱ごうとしてるの!?」

「あ、いやごめん。焦り過ぎたね。では一緒に入ってきます。あ、これは持っていきますね」


 食べ終えた後の食器を重ねて、二人で運べるようにした。


「あら、色々とありがとうね」

「いえいえ。泊まらせて頂く身ですから~」


 色々とお礼をしたいのはこちらの方だ。ついでに色々したいが、欲はださないに限る。その食器を運び終えて、朱音は言った。


「本当に一緒に入るのですか?」

「うん、嫌なの?」


 私は図らずも寂しそうな声を出してしまった。朱音はこういうのに弱いのは知っている。


「い、一緒に入りましょうか」

「やった♪」


 私は朱音の手を引いてお風呂に向かった。もっと近い関係なら、腕組んだりとか出来るのかな? それとも、別にしてもいいのかな。どのあたりまでがスキンシップとして大丈夫なのかとたまに考える。

 きっと朱音は拒んだりしないけど、内心どうなっているのかまではわからないから。

 私はこれ以上は望まないし、望めない。

 でも驚いた。私にはたくさん欲があるみたい。

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