百歩と、百一歩の間に。
道端に一つの死があった。その手の平よりも小さな亡き骸は雪解けのアスファルトよりも冷たく横たわっていた。固く永遠に閉じられた目蓋に、反射的に眼を背け足早に通り過ぎた。
仕事へと急ぐ道だから。
百歩進めて、足を止めた。
仕事へと急ぐ道だから?
ぼんやり眺めていた路傍の枯れ草から顔を上げ、行く手を見据えた。三百メートル先には数年前に改装されたJRの駅の巨大な構造物が横たわり、その上を青みがかった灰色の雲がいくつもの塊をなして足早に流れていた。昨日までの大雪を忘れてしまったかのような乾ききった青空がのぞき、十六日午後二時の太陽が、なくなった者も通り過ぎた者も、すべての存在を分け隔てなく照らしつけていた。
実際、できることは限られていた。
けれども、失われた小さき命を目の当たりにして即座に理由をつけて眼を瞑ってしまった。その冷え固まった心の寂しさを、一月の陽射しは赤裸々に照らし出していた。
ゆっくりと来し方に向き直り、百歩前に向けて手を合わせた。ただ風がびゅうびゅうと鳴き、立てた上着の襟を激しく叩いていた。
もう一度、空を見やり、静かに百一歩目を踏み出した。
平成二十九年一月十七日 パン大好き