入学式3
俺は雪村に話し掛けた。
「よう、久しぶり。」
「……うん。」
雪村はちらりと俺を向いただけですぐに下を向いた。
「さっきは俺の父さんがごめんな。」
「……いいよ。気にしてない。」
「……。」
「……。」
どうしよう会話が続かない。さっきの一件のせいもあり空気がかなり気まずい。
さっきのミカという2年生は手紙に書いてあった友達なんだろうか?
遼太郎という男性は雪村の新しい家族なんだろうか?
聞きたいことは沢山あるが、聞いてもいいことなのか区別がつかない。
あれこれと考えているうちに沈黙はどんどんと長くなる。
もうすぐ式も始まるし、もう黙っていようかという時だった。
「……花屋まだ野球続けてるの?」
「え?ああ、続けるよ。」
雪村が不意打ちのように話し掛けてきたので声が上ずってしまった。それを聞いて雪村はくすりと笑う。
「背がすごく大きくなってるからびっくりした。」
そういえば、最後に会った小学生のときには160cmもなかった。今は175cm位あるので20cm近くでかくなった事になる。
そうかそれですぐに俺とは気付かれなかったのかと納得した。
「雪村は身長あんまり変わってないよな。」
俺の言葉に雪村はむっとする。
「私はほぼほぼ平均身長だ。花屋が大き過ぎるんだよ。」
ははっと俺は笑った。こうして話していると俺の知ってる雪村だ。そう思えて安心した。
「身長といえば、さっきの背の高い先輩は雪村の友達?」
「ミカのこと?そうだよ。」
「先輩の名前、ミカっていうのか?」
「名字が三日月なんだ。だからミカ。」
なるほど、さっきの人は三日月先輩というのか。
「じゃあ、一緒にいた男の人は雪村の新しい家族?」
「そう、遼太郎っていうの。今は遼太郎と遼太郎の恋人と3人で住んでる。」
一瞬、それ家庭環境大丈夫か?と思ったが、さっきの優しそうな男性の姿を思い出した。
「さっき、ちょっと見かけただけだけど遼太郎さん優しそうな人だよな。」
雪村は嬉しそうに強く頷いた。
「遼太郎だけじゃなくて、二人ともすごく優しいんだ。」
年配の校長先生らしき人が壇上に上がり、開式の挨拶を始めた。そろそろ私語は慎んだ方が良さそうだ。
俺たち二人は喋るのを止めて前を向いた。