入学式2
「……花屋?もしかして花屋なの?」
雪村は俺の顔を見て困惑しているようだった。
俺が雪村に近づこうとするより前に父さんが手で俺の動きを制止した。
「まさかお前、あの雪村か?しつこく家に手紙を送りつけて何のつもりだ。これ以上うちの息子に関わらないでくれ!」
父さんの言葉に雪村はびくんと震えた。
俺はやばいと感じて父さんの肩をつかんだ。
「やめてくれよ父さん。あれは雪村のせいじゃないんだ。」
父さんは俺の目を睨んだ。
「お前はどこまでお人好しなんだ。こんな人間にもう関わるんじゃない。」
全身の血液が沸騰して泡立つのを感じた。この真実など何も知らずに無神経な言葉を発する男の首を絞めて黙らせたくなった。
だが、父さんの口を塞いだのは俺ではなく背の高い2年生女子だった。
「おいおい、おっさん。せっかくの晴れの日に公衆の面前で人を罵倒するとかどういうつもりだよ。」
2年生女子はずかずかと俺の父さんの前に来て言った。
「なんだと、君はこの子が何をしたのか知っているのか?」
2年生女子は父さんの言葉を聞いてはっ声を出して笑った。
「雪村が昔、何したかって?どうでもいいね!
あたしは今の雪村が気にいって一緒にいるんだよ!」
父さんはそれを聞いて押し黙り、雪村の保護者は小さく拍手をした。
「ミカ、もういいよ。早く体育館入ろう。」
雪村は保護者の男性の陰に隠れて少し恥ずかしそうに言った。ミカと呼ばれた2年生女子はふんと鼻を鳴らす。
「わかった。体育館行こうぜ。雪村は体育館の前側に椅子が置いてあるから、自分のクラスの所に座れ。遼太郎さんは後ろに保護者席に座ったらいいよ。」
2年生女子は上級生らしく雪村と遼太郎と呼ばれた保護者男性に指示した。
「俺たちも中に入るぞ。」
父さんが不機嫌そうに言った。俺は返事もせずに体育館に入り父さんと別れた。
体育館に入ると新入生席の後ろの方にぽつんと一人で座っている雪村を見つける。どうやら雪村と俺は同じクラスのようだ。
こんな人間にもう関わるんじゃない。そう怒鳴った父さんの言葉が一瞬頭をよぎったが、構わずに俺は雪村の隣の席に座った。