入学式1
雪村から手紙の返事が来ないまま、俺は受験を終え無事に青葉学園に合格し入学式を迎えた。
数日前に入寮も済ませたが、実家からは父さんが入学式を見に来てくれた。
中学までは学ランだったが、青葉学園は男女共にブレザーの制服なので俺の慣れないネクタイの結び目はよれよれだった。それをみかねて父さんがきゅっと綺麗に結び直してくれた。
校門前にでかでかと掲げられた「入学式」と書かれた看板の前で後で写真を一緒に撮ろうと約束した。
4月の初めで桜の花はもうほとんど散っていて、昨日雨が降ったせいか学校のエントランスには緑が濃く匂っていた。
入学式は体育館で行われ、新入生はクラス別に並び、その後でそれぞれの教室に向かうらしい。新入生とその保護者が迷子にならないように上級生が案内にまわっていた。
体育館の行く途中の中庭である3人が立ち止まっているのが見えた。
一人は制服の胸のバッチに『2』と書かれているのでおそらくこの学校の2年生。女子にしてはやたら背の高い。
もう一人は保護者らしき中年の男性。
最後の一人はおそらく新入生の女子。糊の効いたパリッとした新しい制服を着ているが、顔はうつむいている。
どうやら新入生の女子が体育館に入るのを躊躇し、それを他の二人がなだめているようだった。
俺の父さんはそれを見て、入学式からつまずくようならあの子は先が思いやられるなと言った。別に異論はないのだけれど、何故だか無神経なその言葉に異様に腹が立った。
「せっかく、ここまで来たんだから中入ろうぜ。入学式なんて寝ていりゃ終わるんだから。」
背の高い2年生女子は新入生女子の顔を覗き込みながら言った。
「……担任の先生に挨拶だけいかないか?それも無理ならもう帰ろうか?」
保護者の男性は優しい口調で問いかけた。
新入生女子は数秒間沈黙し、首を縦に振った。どうやら式に出るという意思表示らしい。
保護者の男性はほっとした表情をし、2年生女子はよしと新入生の肩を抱いた。
「根性あるじゃないか。さっすが雪村!あたしの後輩なだけあるな。」
「……雪村?」
一瞬、全身の血液が冷えて固まった気がした。
俺が名前を呼ぶと、その新入生はうつむいていた顔を上げた。そこには懐かしい面影が残っていた。