過去編3
ウサギ撲殺事件があってから雪村はほとんど学校に登校せずに転校してしまった。
当然といえば当然だ。
クラスメイトや教師からは白い目でみられるし、まだ分別のついていない下級生からは「ユキちゃんを返せ」と石を投げられたりした。
雪村の保護者だった人はすぐに雪村を手放した。
俺は後で知ったのだが、俺が雪村の両親だと思っていたのは雪村の叔父夫婦にあたる人で、雪村の本当の両親は雪村がまだ小さい頃に事故で亡くなっていたらしい。
雪村は叔父の家から他の親戚の家へと引き取られた。
俺は雪村から沢山のものを奪ってしまったのが申し訳なくて、まともに顔が見れなかった。
だけど、当の本人はけろりとしていて
「花屋、家がちゃんと決まったら絶対手紙書くから。だから花屋も返事頂戴よ!」
そう俺に強く念押しした。
俺は雪村のおかげで救われたと思う。
小さな町だったから母親に捨てられたばかりの俺がウサギを殺したとばれたら雪村以上に非難されていただろう。
また、雪村がウサギ撲殺事件を起こしたという噂のおかげで、俺の母親が男と駆け落ちした。なんて噂はほとんど問題にならなかった。
俺は二重の意味で雪村に救われた。
雪村は冬休みが始まる直前に引っ越した。俺達は学校に行っている時間だったから誰も見送りに行かなかった。たぶん、わざとそういう時間を選んだんだと思う。
雪村が引っ越した日、郵便ポストに四つ折りの白い紙が入っていた。雪村の字だと見た瞬間にわかった。
『花屋元気でね。手紙書くよ。ちゃんと約束守ってね!』
俺は手紙の返事を書くなんて一方的に言われただけで約束なんかしてないのに。
短文で要点だけを書いているのが雪村らしくて少し笑った。そして急に寂しくなった。
母さんは自分の意思で家を出ていった。
だけど雪村は俺がウサギを殺さなければ、ずっとこの町にいられたんだ。
「雪村、ごめんな。」
雪村の手紙に向かって謝った。そういえば俺は雪村にちゃんと謝っていなかった。雪村は俺を助けてくれたのにありがとうとも言ってなかった。
「雪村、本当にごめん。」
自然と涙が溢れてきた。何度も何度も服の袖で涙を拭った。雪村の手紙だけは汚さぬようにと手の中で折った。それでも涙は止まらなかった。