過去編1
あれは俺たちが小学校五年生の時の事だから、もう五年前になる。
俺がまだ「花屋」だったときだ。
俺たちの小学校にはウサギ小屋があった。グレーのウサギが三匹に白に斑点のあるウサギが一匹。そして一番人気があったのが、まるで絵本に出てくるような真っ白なウサギだった。ウサギ達には決まった名前が無く、皆それぞれ好きな名前で呼んでいたが、真っ白なウサギだけは全校生徒一致で「ユキちゃん」と呼ばれ可愛がられていた。
ある日、ウサギは撲殺された。
あの日の事はよく覚えている。金曜日の夜に学校関係のあらゆるところ、ウサギが殺されたと噂を聞きつけた保護者や教師、非常勤の心理カウンセラーや教育委員会、挙げ句の果てには教頭先生の知り合いだという精神科の医者までが俺の家に電話をかけてきた。
ウサギを殺したのが雪村で、俺と雪村はとても仲の良い幼なじみだったから。
日が完全に沈んだ真っ暗な冬の夜、ウサギの死骸の中で返り血を浴びて眠っていた雪村が見回りの教師によって発見されたらしい。
「私がやりました。」
雪村はその教師にそれだけ伝えると、その後は何を聞かれても黙っているばかりだったらしい。
ウサギの撲殺事件はすぐに学校の、いや、地域中の噂になった。ウサギのユキちゃんを殺した犯人が雪村という名前だっただけに人々の記憶に強くインプットされた。
だけど俺は雪村が犯人ではないと知っていた。
ウサギを殺したのは俺だったから。