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プロローグ
「アネモネの花言葉を知ってるかい?」
彼女は唐突に尋ねた。俺は即答する。
「儚い希望だろ……?」
おぉと彼女は小さく感嘆する。
「さすが、花屋の息子だね。」
俺が花屋の息子だったのはもう随分昔のことだったけど、彼女は出会ったときから変わらず俺のことを花屋と呼んだ。本当は俺の名前を覚えてないだけじゃないかと思うくらい、しつこく花屋と呼んだ。
俺は彼女に尋ねる。
「雪村は、どうしてアネモネの花言葉なんか知ってるんだ?」
「昔、花屋の母さんに教えてもらったんだ。」
その言葉に一気に俺は不機嫌になる。雪村はそれを感じ取ったのか苦笑する。
「花屋は、母さんのこと嫌い?」
「別に、好き嫌いの問題じゃない。ただ…」
俺は母さんを選べないよ。母さんが俺を選んでくれなかったのと同じように……。