第2話 山田旅立つ
第1話に引き続いて第2話も読んでくれているそこのあなた、ありがとう。
1話読んでないけど2話に来ちゃった。 てへぺろ(・ω<)という人は1話も読んでくるとありがたい。
さて、前回は俺こと桃太郎の生まれた時のエピソードだけで終わっちまった。
しかし、俺の生い立ちについては詳しいことはいいだろう。
すくすくと成長し、相撲の強い好青年に育ち今に至るというポイントだけ抑えてくれれば十分だ。
今回は旅立ちの話だ。
俺の旅立ちの理由は知っているな。 そう、鬼だ。
具体的に何をやったのか俺は知らないんだが。
世間的には悪とされている鬼を懲らしめるため、俺は今から旅に出る。
ちなみに、鬼や天狗については昔外国人の存在に慣れていなかった日本人が、白人や黒人を見たのを起源とする説もあるが、この物語の中では鬼はあくまで鬼なのでそこのところをよろしく頼む。
この物語にオチを付けるかはわからんが、少なくとも鬼と思っていたのは実は外国人でしたなんていうオチにはしないぞ。
ところで桃太郎の鬼退治といえば俺は新桃太郎伝説という昔のゲームを思い出すんだが、知っている人はいるだろうか。 このゲームは悪役が素晴らしい。 最近の悪役というのは、憎みきれない奴が多い気がするのだが、このゲームのカルラというキャラクターは違う。 徹底的に悪を貫いている。 人間はもちろん、仲間の鬼に対しても騙す、殺すを平気でする。 もし実際の世界にこいつがいたら最低のクソ野郎だが、物語の悪役としては俺は100点を送りたいね。 最近の若者は触ったことがないかもしれないが、スーパーファミコンで発売されたソフトなので気になった人は是非プレイしてみてくれ。
バッテリーバックアップの電池には気をつけるんだぞ。
俺のゲームの宣伝はこれぐらいにしておいていよいよ出発だ。
旅支度は婆さんがいろいろ整えてくれて、今の俺は全身mont-bellだ。 俺としてはTHE NORTH FACEも捨てがたいんだが、ここは婆さんのセンスを信じることにした。 mont-bellは日本発祥ブランドだしな、日本一と書かれたのぼりをよく持たされる俺としてはこれは外せないとも思った。
婆さんにはテントも持って行けと言われたのだが、さすがに大荷物になるので断った。 婆さん、俺は鬼退治に行くのであってキャンプに行くわけじゃないぞ。 テントがなくても鬼ヶ島にもルートインや東横インぐらいあるだろう。
婆さんの話が出たので、ついでに婆さんと爺さんが今どうなっているのかも話しておこうか。
十七年前に四十代だった二人も、今は六十近く。 読者諸君の生きる時代においても爺さん、婆さんと呼ばれても不思議ではない年齢になった。
婆さんは六十近いとは思えない外見をしている。 俺と婆さんが街を歩いていると姉弟と間違われることもあるぐらいだ。 二十代前半と行っても全然通用する若々しさだ。 むしろ年齢を追うごとに若くなっている気さえする。 そのうちどこぞのキスショットさんのようなロリババアにでもなるんじゃないかと不安になるぜ。 鬼や妖怪なのは実はあの人なのでないだろうか……。
そんな若々しい婆さんだが美容にはかなり気を使っていて、一時期夕飯が週七でモツ鍋になった時期があったのだが、その後ネットで効果がないという記事を読んだらしく(´・ω・`)となっていた。 ――かわいいぜ、婆さん。
ちなみにモノローグでは『婆さん』と呼んでいるが、実際には『姉さん』と呼んでいる。 いや、正確にはそう呼ばされている。 以前喧嘩した時に当て付けで『婆さん』と呼ぼうとしたことがあるんだが、『婆さ』と言ったところで包丁が飛んできた。 十七年前俺を産んでくれたダマスカス鋼のあいつである。 素晴らしい切れ味で俺の前髪を見事にぱっつんにしてくれやがった。 危なくあだ名がイザークになるところだった。
一方の爺さんはというと、今は長期の海外出張に行っている。 いろんな地を点々としているのか良く変な土産を送ってくるのが困りものだ。 すでに爺さんの土産だけで一つの部屋を占領しつつある。 一体何の仕事をしているのやら。
さてと、長くなっちまったがそろそろ出発しよう。
準備を整えた俺は玄関に向かい、婆さんが用意してくれたトレッキングシューズに履き替える。
……だから婆さん。 俺は登山に行くんじゃないんだぜ。
履いたことのないトレッキングシューズに若干苦戦しつつもなんとか履き終えた俺は、見送りに玄関まで出てきてくれた婆さんに声を掛けた。
「じゃあ姉さん、俺鬼退治に行ってくるよ」
「うん、桃ちゃん。 頑張ってきてね。 これ少ないけどお小遣い。 それときびだんご、おやつに食べてね」
どこぞのRPGの王様とは違って、お小遣いとして1両(貨幣の価値は年代で増減するので今の価値で10万円ぐらいだと思ってくれ)も用意してくれた。 それに婆さん特性の黍団子だ。 こいつが旨い。 子供の頃の俺だったら街で知らないおっさんに「俺の腰にある黍団子あげるから付いておいで」と声をかけられたら付いて行ってしまうぐらい旨い。 そのやみつきになる味は初期のコカ・コーラみたいに麻薬の類でも入っているんじゃないかと不安になるぐらいだ。
ところで黍団子といえば最近は岡山で「吉備団子」としても売られているがこれは「黍」と岡山あたりの旧国名「吉備」の音が同じことに掛けたダジャレみたいなものだ。
本来は「黍団子」が正しいので間違えないでくれよ。 黍ってのは穀物の一種で麦や米の仲間みないなもんだ。 他にはトウモロコシも仲間だったりするな。 トウモロコシを唐黍と呼ぶのは聞いたことがある人もいるんじゃないか。
余談が長くなったが、俺は婆さんが用意してくれたお金と黍団子を受け取ると、リュックサックにしっかりとしまった。
「ありがとう。 ば、姉さん」
「ん、いまなんて?」
「な、なんでもないよ姉さん。 それよりも俺、絶対鬼たちを懲らしめてみせるから」
「……ねぇ桃ちゃん。 出発の時にこんなこというのも何なんだけど、鬼の人たちってどんな悪いことしたの?」
「えっ!? さぁ、俺もよく知らない」
「……桃ちゃん、真実はちゃんと自分で見極めなきゃダメよ。 他の人が言ってたからじゃなくて、自分の目で見て、耳で聞いて本質を見るのよ。 善きを助け、悪しきを挫くのはいいことだけど、絶対に貴方自身が悪になってはダメ」
世間(ネット)の噂だけを鵜呑みにして鬼が悪だと決めつけていた俺は、この言葉を聞いて本当に鬼が悪なのかを自分自身で判断しようと思った。 普段はのほほんとしているくせに、婆さんは突然『真面目モード』に入ることがある。 その時の婆さんの言葉には年を重ねたなりの重みがある。 小さいころには爺さんや婆さんが実の親ではないことをからかわれたりもしたが、俺がひねくれずにまっすぐ育つことができたのは二人のおかげだ。
「う、うん。 わかったよ」
「ハンカチとちり紙は持った?」
「大丈夫」
「知らない人にきびだんご貰っても、ついていっちゃだめよ?」
「わかってるよ」
――それはこれからお供になる奴らに言ってくれ。
「行ってきます!!」
俺はそう告げると鬼退治への一歩を踏み出した。
振り向くと婆さんが一生懸命手を振って別れを惜しんでいるのが見えた。
その様子に俺の目にもジワリと涙が浮かぶ。 永遠の別れではない。 だが一時の別れだとしても、かくも別れは切ないものか。 涙を振り切って俺は前を向いた。
その時、婆さんの叫びが聞こえてきた。 なんとか俺に届けようという悲痛な声だ。
やっぱり、悲しいのは俺だけではないのだ。 婆さんも俺と同じ思いで悲しみを叫んでくれたことに、俺は不謹慎にも喜びを感じながら耳を傾けた。
「お土産は、オリーブオイルでお願いねーー!!」
……小豆島は鬼ヶ島じゃないよ、婆さん。
つづく!!
小豆島の名産はオリーブなんです。
瀬戸内は地中海気候に似た気候なので質の良いオリーブが取れるらしいですよ。
ラノベといえば両親が海外出張かと思ったけど、
どっちかというとラノベよりもギャルゲですかね。