予感
見てやってくだされ。
正午12:30分にキーンコーン…と鐘の音が。昼休みの鐘だろう。
鐘が鳴ったのは、亜夢高等学校。この学校には、とある噂が全学年に広まっていた。
_3年A組。
がやがやと騒がしい昼休みの教室。弁当や購買の食べ物を食べてる人達。そんな中、とある噂の話をする人も少なくはない。
「ねぇ…俺夢見たくなくて寝れない…」
「そんな子供みたいなこと言うなって」
寝れないと言った琢磨に、その言葉に返した和也。机と机を向かい合わせて座っている。
「あんなこと聞いたら寝れねーだろうがよ」
「んなもん信じられるかっての」
「お前はお化けもUFOも信じないつまらないやつだな」
弁当の中に入っていた卵焼きを口に頬張りながら言った。
「後半何て言ったの。っていうか食べながら喋んなや」
笑いながら言うと、琢磨は「ごめんごめん」と軽く謝る。
「つまんないやつだなって言ったんだよ」
「悪かったな」
「ほんっとに。これでお前が夢見たら馬鹿にできないからな~」
「見ないし」
しれっとした表情で箸を進める。
「とか言っちゃって~?」
和也が琢磨の足を蹴って黙らせる。
「蹴んなよ、痛いなぁ」
「お前が悪い。夢見て死んだらこの世の人間何人死ぬんだよ」
「いやいや~、夢見て必ず死ぬ訳じゃないしさ。運次第?」
「はぁ~?」
信じる者と信じない者とでの噛み合わない話を淡々と続ける。
「ただいまー」
午後6:00頃。部活が早く終わり、何事もなく家へ。
リビングへ足を進め、自分の特等席とも呼べる場所へ座る。
実を言うと和也はとある夢の噂の詳細を知らないのだ。ひょんなことで夢の話になって、改めて気になり出したものだから、少々家へ帰るのが待ち遠しかったよう。
近くにあったタブレット端末で調べることに。どう検索をかけたら良いのかわからず、とりあえず『夢で死ぬ』と検索してみた。
すると沢山ヒットし、トップには気になる一文が。
「ある朝主人が血を口から垂らしながら寝てい……で切れてるし」
思わず声に出して読んでしまった。
気になるものはとことん追求。その一文をタップした。
「うっわ…」
開いた所を間違えたと思うほどの長文がびっしりと書かれていた。太字で書かれているタイトルがさっき和也が読んだ文だろう。「ある朝主人が血を口から垂らしながら寝ていました。」と。
(垂らしながら死んでましたでいいと思うんだけどな…)
タイトルに文句を言い付ける。確かに、死んでいたのだからそう言うのもありなのかもしれない。
(よし…)
和也は、長い文章を読むことに。
_普段通り過ごして、普段通り床に着きました。何の変化もなく、主人は明日も仕事を頑張るぞと張り切ってそのまま眠りについたのです。私は主人の隣で寝ていました。主人はいびきも寝相も何もかも悪くなく、静かに寝るので今日もいつも通りだと思っていたのですが…私が起きたときには悲惨な状況になっていました。
これって、まさか悪夢ですか?
…という文だ。
(っていうほど長くなかったな)
ただ単に思い込んでいただけなのか。
和也は続いて回答を見ることに。
_寝てる間に血を出すなど考えられませんよね。それはれっきとした悪夢でしょう。見る悪夢によって死に方も変わります。貴女のご主人が見たのは吐血するような事をした夢…考えられるのは消化器官が損傷する行為か、その他の損傷か。消化器官は口と繋がっていますから。喧嘩でもしたのでしょうか。けど、動かずにずっと寝てるのも不思議なものですね。
(何が死に方だバカヤロー)
そもそも本人の夢を見たこともないのにそう判断するのもおかしいだろと和也は思う。何を根拠に死に方はいくつもあると言っているのか、どうすれば夢で死ねば本人も死ぬのか。無呼吸症候群くらいではないだろうか、寝てる間に死ぬのは。
「はぁ…」
ますます気になる。…が、まだ信じがたい。
どういう仕組みなのか。わかるものなら死者など出てないのだろう。
和也は一旦タブレット端末の電源を切り、ソファの上に放り投げた。
夢のことが気になって、学校へ行く途中ずっと考えていた。
教室へ入ろうと足を踏み入れたら「ガンッ」という音が。開いてると思っていたドアが開いていなかったのだ。
これで和也は考え事して尚且つ下向いてたらこうなるのだなと実感。
改め直してドアを手動で開けると、
「あっ、和也!ちょっといいか」
「え?」
思いがけない人から声をかけられた。その人は琢磨と仲が良く、携帯で会話を沢山する程の仲だとか。
「昨日さ、琢磨に電話したんだよね、けど出なくて。寝たのかと思って次の日ライン送ったんだよ。けど返事来なくて。今8時20分じゃん?琢磨はもう来てる頃なのに、来てないから…何かあったのかと思って、和也が知ってたりするのかとも思って聞いてみたんだけど…」
「え、俺あまり琢磨と携帯で会話しないからな。わからないな、ごめん」
「いや、いいんだよ。アイツが休むのも珍しすぎて聞いてみたんだ。こっちこそごめんな、ありがとう」
そうして席に着いた。
(確かに琢磨は皆勤狙うとか言って休まなかったな…)
推薦で就職するんだ~とかしれっと言っていたのを覚えていた。
そして、和也の脳裏に何かが浮かんだ。朝っぱらから気にしすぎてたからかもしれないが、悪夢の事を。
可能性は0ではないはずだ。0%と100%はこの世に無いと言うくらいなのだから、限りなく0に近くてもあるだろう。
「まさか…」
8:28になり、先生が入ってきた。朝のSHRは8:30に始まるので、そろそろだ。
「先生~、珍しく琢磨いませんよ」
「馬鹿なのに風邪引いたのかな」
「あ…琢磨な……」
先生は少し顔をしかめた。
(ん…?)
和也は先生の顔をじっと見る。
「琢磨は…不幸があってもう学校には……」
「えっ!?」
クラス中が沸く。
「それって…死んだ………って……」
「嘘でしょ!?アイツがなんでよ!」
「冗談が過ぎるって」
先生は少しためてから、
「嘘じゃあないんだ」
先生は下を向く。クラスメイトも泣き崩れたり、まだ信じていない者まで。どうしようもなく叫ぶ者も少なからずいる。
もちろん、和也も絶望。突然すぎて言葉も出ないくらい。今にでも涙が流れ落ちそうだ。
「何ですか…何で琢磨が死ななきゃいけないんですか!あいつ何をやらかして……」
「突然死なのかわからないが、朝起こしても起きなかったらしく…」
先生も喋るのがやっとのようだ。
「起こしても起きないって、それ…」
「もしかして悪夢って言いたいのか?そうは言わせねーし」
出たぞ悪夢。和也は内心でそう呟く。
「詳細は後々伝えるらしいから、な。今日は授業に集中しろ」
できるはずもないが、こればかりは仕方がない。皆はだるそうにSHRを終える。
「俺今日頭悪くなるわ…」
「またまた…」
和也の隣の席の知り合いがそう言ってきた。
「俺ショック死するわ…」
「ちょっと…」
目が死んでいるように見える。声も一段と低く、少し顔色も悪い。
「6時間とか地獄じゃんか」
「仕方ねーよ、もう…」
和也もやる気などさらさら無く、相手の気持ちが痛いほどわかる。
「1時間目何だっけ…」
「えーと、国語?」
「ただいま」
和也は家へゆっくりと帰ってきた。
「かず兄、勉強教えて」
「は…?ふざけんな、後にしろよ」
「何で!誰も教えてくれないんだもん、教えてよ!」
「そんな余裕あったら快く教えてるわ…」
和也は妹を退け、階段を登っていく。妹はムスーっと頬を膨らませ、リビングへ戻った。
和也は自室へ籠り、ベッドへ倒れ込んだ。
仰向けになり、すぐさま琢磨の顔が脳裏に浮かんだ。とてつもなく信じられない。身近な人が死ぬなんて有り得ない。
いつしか和也の目からは涙がこぼれていた。やはり泣かないなんてできなかった。和也はそのまま泣き崩れた。
なんで、なんで死んだんだ。何を悪いことしたんだ。死ぬ権利なんて琢磨にあったのか。
次々と琢磨に対する想いが出てくる。人が死ぬとこんなにも悲しいのだと実感する。
「なんで………」
泣き疲れたのか、そのまま瞼が閉じられていった。
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