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疑いの目


三人の目が怪しく光る。これはカマをかけられているのだろうか。


少し考えた後、お手本の笑顔でけらけらと笑う。



「まさか~私旅商人の娘で…」



「この服は?見たことのない形状のものだった。」



ラッドがベッド脇に置いていた麻袋から、綺麗に洗濯された私のパジャマを取り出した。



「それはこの国の遥か西の方角にある地域の布で作った服です。しっかりしていて丈夫でしょ?」



「了承もなく申し訳無いけど成分を調べさせてもらったわ。これこの世界に無いものよ。ご飯の後にでもと思ってたのだけれど…どうせならはっきりさせておきましょ。あなた何者?」



「………」



一難去ってまた一難とはこの事らしい。どうしよう。私は少しボーとする頭をフル回転させる。


下手に私はこの世界の者じゃないですと言ってはいけない気がする。大体こういう展開は、密入国者として捕まってしまう。それは避けたい。無難にその場をやり過ごして、夜、詮索される前に逃げた方が身のためかもしれない。


身の世話をしてくれてありがたいが、私だって自分の命は惜しい。騙されてくれるか分からないが、元演劇部員の力を発揮しよう。


私はなにも言わず、下を向いた。表情を探られないためである。




「私…本当は分からないんです……気がついたらあの場所にいて、自分がどこの人間か、何をしていたのかサッパリです…」



ラッドが息を飲むのが聞こえる。



「ブラディア、もしかして……」




「覚えてないんです……すいません、助けてくださってありがとうございます。ですが、命だけはッ…」



「ラッド、鵜呑みにしないで。この子の演技かもしれないじゃない!」




ブレアがピシャリと言い放つ。


きっ厳しい…女の感、働きすぎ。



ブレアがツカツカと歩み寄り、私の顔を覗き込むように問いかける。



「それは本当の事なの?嘘ではないの?…この国では領族に対する民間の嘘は極刑に値するわよ?」



極刑とか死亡じゃないですか…


私はドキドキしながら、震える声で訴える。



「誓って嘘ではないです。どうかお願いです!信じてください…」



それに実際嘘でもない。

本当に何も分からないのだから。



「本当に?私の目を見て言って。同じことをもう一度」



私こう言ってはあれだが、信用無さすぎ。少し悲しい。


私は渋々顔を上げる。


ブレアがギョッと目を見開いた。



「ちょっちょっと何で泣いてるの!?」



「お願いです…しんじでぐだざいっ!!」



下を向いて涙を溜めている途中で、なぜかマジ泣きになってしまった。鼻水も詰まっている。


ここまでやれば、信憑性はすごいだろう。


ブレアがおどおどと私の背中に手を置く。



「やっやめて!私が悪かったわ、疑ってごめんなさい」



ブレアがついに折れた。


目標は達成したのに涙が止まらない。



「ウウッ……」



「だーかーらー!ごめんて!そうだ、ご飯にしよう!持ってくるからちょっと待ってて!」



ブレアはバタバタと駆けて、部屋から飛び出した。ラッドとゴルディスは驚いた顔でブレアが飛び出したあとを見つめた。



「ブレア…女の涙に弱すぎ…」


「同感だ」



二人は深く溜め息を吐き、私を見る。


私は嫌な胸のドキドキを抑えながら、巻いてくれたばかりの包帯を撫でる。


ラッドは腕も巻いちゃおうねと私の腕をとった。優しい目で私に笑いかける。



「ブレアは悪いやつじゃないんだ、ごめんな?君の正体が分からない限り、俺たちも本当の意味ではまだ安心できないし」



なだめるように私に言い聞かせて、包帯を腕にくぐらせる。私はその言葉に耳を傾けた。


ゴルディスは窓辺に寄り掛かって、目を閉じている。



「でも、ブレアは人を見る目がある。引き下がったって事は、君は危険な人ではないのかもな」



はい、終わりとラッドは腕から手を離し、にこりと笑う。



「ありがとうございます…すいません、何も分からなくて。あと…」




ゴルディスとラッドに向き合い、深く頭を下げる。




「助けていただいてありがとうございます。こんな身の世話までしていただいて…感謝してもしきれません。ゴルディスさん、あの時私を助けてくださりありがとうございました。」



「やめてやめて!本当にそういうの求めてないし!俺たちが好きでやったんだから君が気にやむことは…」



ラッドが慌てて私の肩を揺らす。



「痛ッ…」



突然肩を揺すられ傷がズキリと痛む。



「あっ、ごめん!!」



「いッいえ!気にしないでください!」



「いや、病人に手をあげるなんて…うっかりしてたじゃすまされない…」



「だから大丈夫ですってば!」



二人で一悶着起こしていると、ゴルディスがこちらに近づいてきた。



「ラッド、その辺にしないか…ブラディア、謝らなければいけないのは私の方なのだ。本当にすまなかった」



ガバッと勢いよく頭を下げられ、私は硬直する。ラッドも一瞬何が起こったのか分からず固まっていたが、直ぐにそれは解け、慌ててゴルディスに詰め寄った。



「ゴルディス!!お前という地位があるやつが、そんな簡単に頭を下げて良いものじゃッ…」



「ラッド、そんな問題じゃないんだ。俺は民間人が居ると分かっていながら、保護を後回しにし、犯人捕獲を最優先で動き、乱闘の中に一人か弱い女性を放っておいたんだ。これだけでも軍人として許されることではない。それなのに、俺は…あなたに怖い思いをさせておきながら、尚且つ大怪我をさせてしまった。もしかしたら、還らぬ人となっていたのかもしれない。」



ゴルディスは震える手を押さえながら、深く下げた頭を上げようとはしない。ラッドは口を真っ直ぐに結び、静かに聞いていた。


ゴルディスは続ける。



「謝罪してもしきれない位なのだ。先ほど民間人の領族に対する嘘は極刑に値するとブレアは言っていた。しかし、領族の騎士団の責務は第一、民間人の保護なのだ。それを怠ったものは極刑に値する。俺は殺されても仕方のない立場だ」



私は何て答えれば良いか分からず、ゴルディスの綺麗な白髪を見つめた。



「ブラディア、俺にどうか罰を与えてくれ!!何でもしよう。あなたの望むことなら俺はなんでもして見せよう。自害しろなんて命令も容易い。あなたの思うままに俺を罰してくれ」



そうか、私はあの闘いの中、最初からいるって気づかれてたのか。こちらが死ぬ思いをしながら隠れている間に、本来なら真っ先に助けてくれるのを後回しにしたわけだ。


ラッドは真顔でその話を聞いていたが、聞き終わると同時に私に難しい笑顔を向けた。



「ブラディア…君には本当に申し訳ない事をしたみたいだ…申し訳ない。しかし、どうかゴルディスの事を許してやってはくれないだろうか」



「ラッド!お前は黙ってろ!これは私の問題だ!!」



ラッドに噛みつくようにゴルディスは吠えた。



「あの…私…」



「ブラディア、どうか重い罰を!!」



「やめろゴルディス!!いい加減にしろ!!ブラディア、騎士団は命令には背けないという命がある。君が死ねと言えば、ゴルディスは死ぬしかない。その代わり私が君に一生つかえよう。雑用なり何なり押し付ければ良い。喜んで引き受けよう」



「ラッド!!お前こそいい加減にしろ!!何度言ったら分かるんだ!!」



等の本人を目の前にしながら大声で大喧嘩を始める二人。私からしてみれば二人ともいい加減にしろ!!って感じだが、命を助けてもらったことには変わりない。


私は大きく咳払いをし、二人を静める。すると途端にパタリと物音ひとつしなくなった。



「命を助けて頂いたことには感謝してます。しかし、私も今のお話を聞いて少しながら腹が立っています。そこで、命令を幾つかします」



ゴルディスは床に膝まづき、胸に拳を当てた。



「なんなりと…」



ラッドはああ、神様と手を胸に当て、祈りを捧げる始末。



私はそれを尻目に見ながら、淡々と述べる。



「まず、一つすいません、私は察しの通りこの世界の人間じゃないです。なので、ブレアさんが戻ってきたら、この世界について詳しく教えてください」



ゴルディスとラッドはバッと顔を上げ、私を見つめた。私はごめんなさいと笑い、一旦放置し続ける。



「二つ、厚かましいお願いですが、この国の者である証みたいなの貰えませんか?住民票みたいなの…」



「三つ、就職先を一緒に探していただけませんか?私一人だとどうも不安で…」



「四つ、私を鍛錬してください。この世界ではダンジョンで戦わないといけないのでしょ?一人で戦えるまで稽古してもらいたいです。もちろんお金は働いたら払いますお願いできますか?」



ラッドは唖然と私を見つめ、ゴルディスは膝まづいたまま動かない。



「私も領族のあなたに嘘をつきました。これでおあいこでいいですか?」



「…御意」



「ブラディアちゃんッ…ありがとう!!君を悪いやつと疑って悪かった!!ああ、こんなに心が広い方がいるのか!!神よ、今日をありがとう!!」



若干二人の温度差が違うが、それは無視しよう。そんなことよりブレアさん、ご飯まだかな。



「ブラディア、あなたの本当の名をまだ聞いていない。名はなんと申される」



命令に不服そうな顔を隠しながら、私の名前を聞く。


深緑の綺麗な瞳に心を波打たせながら、ぽそりと言う。



「琴音…」



ゴルディスはコトネ、と呟くと決意を新たにした顔で私を見上げた。



「私、騎士団第六軍隊長、ゴルディスは、命を達成するまであなたを主君としてつかえます。あなたの剣となり盾となりましょう。コトネ、どうかよろしく頼む」



そんななんとも言えないこそばゆい空気の中、ブレアが侍女を連れてバーンッと扉を開け入ってきた。



「ブラディア~、今日のお昼はバッカル鳥の玉子粥とカルメのフルーツジュースよー!!…ってなにこれどうしたの」



「あっあ…ゴルディス様がッ…!!私…失礼いたします!!」



侍女は押してきたカートから手を離し、わなわなと震えながら部屋を飛び出した。


ブレアは扉を閉め、カートを押してベッドの側に置いた。



「ブラディア、あなたすごいわね。私がいない間に二人も信者つくって」



「そんなつもりはなかったんだけど…」




考えてるより、この人を付き人にしてしまったことは大きな事らしい。


手早く穏便に済ませようと思ってたのに、すでに事が大きくなってきてる。私は小さく溜め息をついた。












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