表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

夢の中で



私は気がつくと、何もない暗闇の中にいた。さっきまでそばにいた白髪の男もいない。


何も見えない暗闇を、そろりそろりと歩き出す。不思議なことにこれだけ暗闇なのに、自分は薄く、ぼんやりと輝いている。とりあえずそれで自分が存在していることが分かり、ホッとする。


足を踏み出すその先が、崖なのか、地面なのかも分からずにとにかくゆっくりとゆっくりと歩く。




「だっ…だれか…いません、か…」




自分の口から出た声は、笑ってしまうほど震えきって、小さな声だ。


もう一度気を取り直して、息を吸う。



「あのッ…!!誰かッ!!…ブヘッ!?」



人が勇気を出している最中に、何かが頭に命中した。失礼な。でも何かの手掛かりになるかもしれないと思い、慌ててしゃがみ込む。


「うわぁっ綺麗」



私に当たったのは、控え目だが綺麗な花や草の形が装飾された、小振りな透明な丸い宝石のネックレスだった。装飾は銀色に輝き、私の事を誘った。


それを手に取り、まじまじと見つめる。



「綺麗だけど…どうしようこれ」



だれかの落とし物だろうか。ん!?落とし物と言うことは誰か人がいるってことじゃないかな!?


私は希望で胸が一杯になり、もう一度声を張り上げる。



「誰かぁあああああ!!ネックレス!!落とされた方!!いませんかぁあああああああああ!!」



しかし辺りはシーンと静まり、私以外の音は何も聞こえない。私の声がこだまし、この暗闇がどこまで続くかも分からない。


少しゾッとする。するとそれがどんどん体を侵食し、心臓の鼓動が気持ち悪いほど強くなった。手汗もじんわりと広がる。



「………もうやだぁ…おうち帰りたぁあい」



随分と情けない声が口から出てきた。しかし私も限界である。いきなり訳のわからない場所に連れてこられて、乱闘に巻き込まれ、危うく殺されかけ、次に目が覚めたら真っ暗闇だ。冗談じゃない。


暖かい布団に入りたい。よくうちに訪れる野良猫を撫でたい。暖かい白味噌のしめじの入った味噌汁が飲みたい。



「ふっ…うぅっ……うっ…うぇええええん!!誰かぁあああああああああッ!!おうち帰りたいよぉおおおおお」



ああ、こんな死に方は嫌だ。死にたくない。せめて誰かいるところで死にたい。



「うぁああああん!!うぅっ…うぇ?」



大声で叫び泣きしていると、手に持つネックレスの宝石が強く光だした。


手を開くといっそう輝きを増し、辺りの暗闇を切り裂いていく。



「眩しッ…」



目を覆い、ネックレスを離さないようにチェーンの部分をぎゅっと握りしめる。


すると足元がいきなりふっと無くなり、私は落下していった。

ぞわっと毛が逆立ち、チョビりそうになる。



「ギャァアアアアアアアアアア!!!!死ぬぅううううううううううう!!!!!?」





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「うぁああああああああ!!ウギャッいだいっ!!うをぉおおおおおおおお!!」



またもや落とされた。お尻がじんじんと痛む。



「しっ死んでない?…生きてる?」



自分の顔をペタペタ触り、つねったりしてみる。生きてるらしい。


ホッと力が抜け、その場に座り込む。目を開くと足元には青々と茂った草が生えている。



「えっ」



慌てて立ち上がり、回りを見渡す。



「うわぁっ!!すっご!!…」



どこまでも続く草原。見たことがない黄金に輝く美しい群れをなした小鳥。花も見たことがない形をしている。そして、彼方遠くにそびえる美しい城。


優しい風が頬をなで、私は放心してしまう。



「そうか、これ夢か」



口に出してやっと納得する。夢でなければ説明がつかない。



「いいえ、夢ではありません。」



人の声がし、パッと振り向くと、そこには白銀の長い髪をなびかせ、今まで見たことがないような美しいいでたちをした女性が立っていた。

着ている服も、昔絵本で読んだお姫様が着ている様なもので、しかし余計な飾りがついていなくてシンプルなもの。簡単に言えば白いドレスを着ている。私の言葉が乏しいばかりに、うまく表現することが出来ない。とにかく美しい。



「挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくしはシャルミアと申します。コトネ、私があなたをこの世界に呼びました」



「あなたが!?…どうしてくれるんですか!!私危うく殺されかけたんですよ!?」



一瞬話がぶっ飛びすぎて固まるが、ハタと思い出す。私この人のせいでこんなことになってるのだ。

怒りが沸々沸き起こる。



「戦いに巻き込まれたり、あちこち怪我したり、殺されかけたり!!何が目的!?元の場所に返して!!」



悲鳴に似たヒステリックな叫びが、美しい草原に吸い込まれる。

するとシャルミアは蒼い綺麗な瞳を伏せ、ごめんなさいとだけ呟く。



なんだ、これ私悪くないのに私が悪いみたいな雰囲気じゃない?

だから美人って嫌だ。なんでも許してもらえると思ったら大間違いだ。



「顔を上げてください。こんなことになったのは理由があるはずですよね?なんですか?」



あらまぁ随分と優しい声音でシャルミアと名乗る女性を慰める。

私はミーハーの気があるらしい。


私はいつの間にか怒りが同情に変わり、話を聞こうとしていた。




「コトネ…ありがとうございます。実は…貴女にこの世界を救ってほしいのです」


「ハ?」




間を入れずに、間抜けな声が出る。



「今この国では色々なおかしなことが起こっているのです。魔物の突然変異、狂暴化。突如現れる新しいダンジョン。そしてなにより…貴女もその目で見ればわかるでしょう」



シャルミアは小声で何か呟くと、ふわりとその場に浮かび上がった。そのままどんどん上昇する。



えっ?



「うか!!?浮かんで!!…えっ!?ギャァアアアアアアアアアア!!」



気がつくと私もシャルミアを追うように飛んでいた。


足が地面から遠く離れている。



これ、落ちたら死ぬんじゃ?


ぞわぞわっと嫌な悪寒が広がる。



「やだっ!!下ろして!!シャルミア!!下ろして!!」



するとシャルミアは振り返り、満面の笑みを向けた。



「コトネ、やっと私の名前を呼んでくれましたね!」


「そんなことより下ろして!!」


「………見えました。コトネ、あれです」



これ以上いっても無駄だと悟り、なるべく下を見ないようにしながらシャルミアが指差す方向を見る。



(うわぁっ…ラスボス臭が…)



指差す先には先程見た美しい風景とはうって真逆の禍々しいもの。黒紫の雲が広がり、中では稲光が時折光る。木々は赤紫に変色し、川も黒い。その奥には大きな山がそびえ、その山頂が一番雲の色が濃く、そこに何かがあることが明確に分かる。


なんとなく分かるが、一応聞いてみる。



「あの山頂、なにかあるんですか?」



シャルミアは悲し気な顔をしながら山を見つめる。



「あそこには、遥か昔に建てられたこの国の始まりと呼ばれている『始まりと終焉の城』があります。」



あそこら辺はこの国一美しい森と川だったんです。



ぽそりと呟く。



恐ろしいほど昔やったRPGに似た展開になってきた。

冷や汗がたらりと伝う。



「あの城があんな風になってしまったのを目で確かめた瞬間、世界が終わる…そんな予感がしました。そこで王家に伝わる勇者召喚をしたのです。そしたらコトネ、貴女が喚ばれました。選ばれたのです!お願いですどうか、この国をお救いください!!」



「あの、待ってトントン拍子に話が進みすぎてあれって言うか…私じゃあ何もできないし…ほら!女だし!…それに私、自分の世界に帰りたい」



「こちらの勝手なのも承知の上です!どうか…勇者コトネ、我々と共に戦ってください…」



シャルミアが深々と頭を下げる。



(えっえぇ~~~~)



すごく迷惑なお話だ。きっとしばらく元の世界には戻れないだろう。でも嘘でもこんな重い話うん分かりましたとは言えない。


どうしよう。



するとシャルミアはいきなり慌てた顔に変わった。



「どうしよう。魔力が…」


「えっ?………ウソ!!」



私の体はぐわりと傾き、急降下を始めた。



「いやぁあぁあああああああああ!!」



雲を切って切ってどんどん落ちて行く。


段々と地面が近づく。




遥か上の方でシャルミアが「大丈夫!夢だけど夢じゃないから!!落ちても夢だから死なないけど、今話したことは夢じゃないから~~」なんてのんきな声が聞こえる。



某国民的アニメ映画のような事を言われたが、夢は夢で現実は現実で何が現実?訳がわからない。



スピードを増す体に流れを任せ、衝撃を覚悟し目をぎゅっと瞑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ