幼女&異世界
前話のあらすじ
「ここは精神世界です」
→ 第7話終了
あ、これから異世界へ行くそうです
「異世界!」
「ええ、異世界よ。
オタクのあなたなら大喜びするだろうと聞いてたんだけどどうかしら?」
「異世界召喚!
剣と魔法のファンタジー!」
「そうね。大まかに、そういう理解であっているわ。
あなたの世界によくある、ファンタジーな世界よ。
魔物がいて冒険者がいて、人間以外の種族もいるわ」
「魔物っ娘あり、猫耳あり、熊耳も狐耳も犬耳もあり!」
「そ……そう、ね? いたかもしれないわね?」
「つまり、色とりどりの幼女パラダイス!
妄想ではなく、リアル幼女パラダイス!」
おおお、妄想がはかどる!
そんな事を心で叫んだら、なんとなく空間が揺らいじゃった気がして、なんとなくフードおばんに睨まれた気がして、なんとなく自重しました。はい。
「具現化を意図せずとも私の世界に影響を与えるとか、本当に信じられないわね……はぁ。
ともあれ、そういうわけで異世界に行ってもらいたいのよ。いいわよね?」
「……こっちの世界での扱いはどうなるんだ?」
オレ自身が異世界に行くことには異論も抵抗もない。
遠方に住んでいる親には少しだけ申し訳ないが、どうせもう何年も会っていない。
友達はいない。いや、いるんだけど別にかまわないし!
「死んだわけではないし、あなたがもし戻ってきた時に困らないようにうまくやっとくわ。
詳細は言えないから、企業秘密ってことにしておいて」
「そうか、わかった。
……できれば、親が泣かないように頼む」
「了解、そのくらいおやすい御用よ」
良かった。
どうせもう何年も会っていないが、わざわざ泣かせたいとも思わんからな。
「で、異世界に行くとして。
何をすれば良くて、何ができるんだ?」
「して欲しいことは、布教活動よ。
妄想の女神たる私の信者を増やして欲しいの」
そう言って、ずっと被っていたフード&ローブを取り去るおばん。
そこから現れたのは、これまで見たこともないほど美しいおばんだった。
いや、矛盾してるとか言うなし。
美しいことは美しいって分かるよ? でも、それはそれとして、おばんよ?
艶やかに煌く、黒竜の鱗のような黒髪。
鮮やかに彩られた、吸血鬼の瞳のような紅の唇。
双瞳は龍の掴む珠のような金、それらを配した肌は白虎の毛のごとくなめらかな白。
顔と同じ白い肌を包むのは、旅館にある浴衣みたいな感じの、濃紺の和服。
胸元が大きめに開いているのは、そういうつくりなのか、胸がでかすぎて開いてしまうのか。
あんだけでかければ、谷間にデッキ丸ごとしまっておけそうだな。便利だ。
「妄想の、女神?
信者って、信じて何かいいことあるの?」
「あなた達の世界と違って、こっちの世界には普通に神様がいるし、直接信託や力を与えることもあるのよ。
誰もが何らかの神を信奉しているというわけじゃないけど、神が存在することを信じない人は少ないわ」
「なるほどねぇ……
ってことは、いっぱいいる神様の中で、人気がないとかマイナーなわけだ?」
「……むかつくけど、否定はできないわね。
人気がないから力も弱いわけよ。なので、人気を集めたいのね」
「わかった。
わかったけど、具体的にどうやったら信者って増えるんだ?」
「色々あるんじゃない?
あなたが困ってる人を助けて、妄想の女神様のお力ですとか言えばきっと大丈夫よ」
「あばうとだなぁ……」
だがまぁ、神様を信じるとか、いまいちぴんと来ないしな。
自分を助けた人がそう言えば、なんとなく信者になってくれるのかな?
「信者って、具体的に何をするんだ?」
「基本的には、私に対して祈ってくれればいいわね。
お布施とか渡されても神には意味ないし、生贄が欲しいわけでもないし。
総本山とかないからねぇ」
「……つまり、他の神様には総本山があったりでっかい教会があるけど、こっちはなんもないと」
「認めたくないけど、認めてあげるわ」
「認めてあげるっていうか、ただの事実なんだろ!」
本当にマイナー神様らしい。
妄想の女神とか言ってたもんな。
「つまり、基本的に好き勝手やりつつ時々幼女助けをして、妄想の女神様のご加護ですとか言えばいいんだな?」
「そうね、基本的に人助けをしてたまに好きな事をしつつ、全ては美しく気品に溢れる妄想の女神様の優しさとお力ですと言えばいいわね」
若干ニュアンスに違いがある気がするが、オレに分かりやすいように説明してくれてるだけだしな!
好き勝手了解、ついでに幼女助け了解。
「だいたいわかった。
で、妄想の女神の名前は?」
「人間に教える名前は、神々にはないわ。
これは私だけじゃなく他の神々も同じで、なんとかの神様と呼ばれるのよ」
「へぇ、そういうもんなんだ」
「ええ。
名前がついているとしたら、人間が勝手に呼び名をつけたか、神ではない偽者ね」
「了解」
偽の宗教か。実際に神様が力を与えたりするんなら、難しそうだがなぁ。
いや、そうでもないのか? よくわからん。
「異世界に召喚して楽しくやれるなら、マイナーな妄想の女神様のおかげですって言うよ」
「……私は女神だって言ってるのに、さっきからちょいちょい無礼ね」
「お互い様だろ。
オレは信者じゃないし」
「2人きりの時はいいけど、信者を増やす時にそんな態度はやめてちょうだいね」
「へいへい、注意しとくよ」
威厳って、そんなに大事なのかね?
親しみやすい神様路線でもいいと思うんだけどなぁ。
「私の力が増えれば、私から力を受けているあなたもそれだけ強くなれるわ。
それは異世界であなたが生きていく上で、大事なことだからね」
「オレの力、か。
なぁ、なんか特別なスキルとかもらえるんだよな?」
「もちろんよ。
そうでなければ、あなたなんか選んだりしないわ」
あ、ちょっとグサっときた。
どうせオタクだもんね、カードゲームくらいしか取り柄がないもんね。
「あなたに与えるスキルは、その名もずばり、エリート&フォースよ」
「……え?」
言われて、思わず左手の黒鶴を見る。
苦楽を共にしてきた、相棒とも言うべき装備。
「カードゲームのカードを使って、召喚や魔術を行い、敵を倒す。
スキルのレベルが上がれば、より高レベルのカードを扱える。デュエルと同じね」
「お、おぉ……」
まさか、まさか!
つまりあれか、この手で玖瑠栖や華惧夜達を三次元に呼び出せるわけか!
「みなぎってきたーっ!」
「ちょっ、落ち着いて、空間が揺らいじゃう、だめだめ!」
「おっといけない、落ち着こう。オレは紳士だ」
大きく深呼吸する。
はじめて、目の前のおばんがいい匂いすることにも気づいたが、そんなことはどうでもいい。
「変態だけどね……はぁ。
詳しい説明は後に回すけど、あなたのスキルはそんな感じよ。
戦闘中と日常でもルールが異なるのだけど、その辺は後の説明とするわ」
「心得た。
というか早く行きたい、早くスキル使いたい!」
「落ち着きなさいな、まったくもう。
なんでこんな奴が適正なんだか……」
「適正?」
「私の力と、非常に相性がいいのよ。
きっと、あなたの妄想力がずば抜けているのね」
「なるほど。
別に、おばんと相性が良くても嬉しくないんだがなぁ……」
「―――お、ば、ん?」
「うむ。幼女なら心から喝采を挙げるが、老いたおばんと相性が良くても嬉し―――」
オレは、言葉を継ぐことができなかった。
なぜなら、そこに。
近寄るだけで焼け付くほどの怒りを秘めた、恐るべき魔物がいたからだ―――!
「お、ば、ん。
そう、そうなの。
あなた、私のこと、女神である私のこと、そんな風に、思ってたの」
「え、えー……っと?
いやほら、お名前、ないし? ありませんし?」
えっと、なんとも美しい、とろけるような声で、おば……女神様がおっしゃったられた。
「ああ、綺麗だなあ。芸術品のようだ。スタイルもすごくて美人だなあ」
「うふふ、ありがとう。
でも、綺麗で、美人でも、老いた、おばんだからね? ごめんなさいね?」
「い、いやいやいや、あの、美しいものは美しいです!」
「うるさいおんどれ、ひゃっぺん死んでこぉぉぉいっ!!」
視認できぬほど高速で捻られた左のこぶしが、デュエルテーブルを貫通してオレのあごに突き刺さり。
そのままオレは、地から天へと駆け上る流星になった―――
やっと異世界へ旅立ちました。
プロローグはこれにて閉幕、次回からはブレンフォリナに舞台を移して冒険?が始まります。
布教活動をするのか、冒険者として生きるのか。
あるいはロリコン活動をするのか、犯罪者として捕まるのか。
やましぃろりーたのご活躍をお楽しみ下さい。
大半の方に初めまして。
もしいらっしゃったら、ほんっとーに大変長らくお待たせいたしました。
どつき漫才系デュエルファンタジー(未定)、こっそりと開幕です!
多忙とスランプをベースに、デュエルの制約やコンボの組み方のアイデアに悩み苦しみつつ。
ご感想やお気に入りなどをいただけるよう、死なない範囲でどうにか頑張ります。
皆様、どうぞ生暖かく見守ってやって下さいませ。