妄想&幼女
だだっ広い空間。
目の前には、デュエルには向かない丸テーブル。向かいとこちらに椅子。
それ以外、周囲には何もない。家具も壁も、人気も。
おかしい、ついさっきまで……
えっと、決勝で勝って? 優勝して、表彰……された、よな? 賞品ももらったような。
「ようこそ、山城 竜太さん。
いえ、やましぃろりーたさん、の方がいいかしら?」
「やましい事など何一つないし!」
反射的に叫んでから、目の前の相手―――怪しいローブ&フードのおばん|(推定)を見る。
「ここはどこで、何が起きてるんだ?」
「ここは……そうねぇ。
まずは座ってちょうだい、説明するから」
言われて、素直に腰を下ろす。
何が起きてるのかよく分からない。さっぱり分からない。
でも、直感が告げている。
面白い事が起きた、と。
「これからの説明は、私の言葉ではなく、できるだけあなたが理解しやすい言葉で説明するわ。
私の説明が本質と若干ズレている場合はあるけれど、理解しやすさを優先するのでそこは勘弁してちょうだいね」
「わかった」
分かりやすい説明のために、用語とか変えるわけか。
決闘者としてはよくある話だ。『このカードの強さは3ゴブリンだな』みたいな説明。
「まずここは、精神世界。物質も時間も作用しない、魂と思考だけの空間よ」
「……異世界?」
「違うわ。
一番近いものは、決闘中のあなたの妄想世界かしら?」
「どっきーん!」
な、ななな、なんでこいつ、オレの妄想世界を知ってるんだし!?
「基本的に、ここで起きたことは現実に作用しないけれど。
その分、妄想次第でなんでもできるわ」
なんでも! 妄想次第で!
それを聞いた瞬間、オレは反射的に全力で
「幼女☆召喚!」
「ちょっ、いきなり変なことしないで!」
オレの魂の叫びに、空間が揺らめき―――
すぐに掻き消された。
「あのねぇ、ここは私の精神世界なの!
人の精神世界に無理やり妄想具現化するとか、あなた非常識にも程があるわよ!」
「幼女のためなら、常識など不必要!
オレは負けない、決闘者として全ての障害を跳ね除け勝利する!」
幼女幼女幼女!
「美衣音、魅莉亜と真璃亜、玖瑠栖、華惧夜、瑠々菜、紗沙那!
オレに力を、今こそ実体化してオレとパラダイスなひと時をぉっ!!」
止まっていた空間が、再びいくつも揺らめきだす。
「ちょっと、やめてってば!」
「ぬおぉぉぉ、オレは負けない、負けないんだぁぁっ!」
押し込める力を跳ね返し、揺らめきが大きくなる。
少しずつ、ぼんやりと愛する幼女達の輪郭となり―――
「待って、エネルギーには限界があるの、そんなことされたら精神体のあなたも危険なの! 駄目!」
フードおばんの絶叫で、揺らめきも何もかも、視界の全てが闇に包まれた。
「ぜ、ぜぇ、ぜぇ……はぁ……
な、なんでそんなことばっかりするのよぉぉっ!」
闇の中で、おばんが絶叫した。
「危険があろうと躊躇しない。己の心を偽らない」
「躊躇しなさい!
あなた本当に危険だったのよ、この世界そんなに強度ないんだからね。
なんで人の話を聞かないでいきなり無茶苦茶するのよ! しかも私の妄想強度を瞬間的にでも上回るとか、人間じゃないわよ!」
姿が見えない闇の中だが、なんとなくツバが飛んできた気がする。
オレはそれをとりあえず気にしないことにして、胸を張って答えた。
「カードを信じ、愛し、心を託して共に戦う。
オレが、オレ達が、決闘者だからだ!」
「そんな決闘者いりません!」
「……なんだよう、いらないとか言うなし……」
あ、ちょっとグサっときた。
「はぁ……疲れるわ。
いい? 空間を戻すけど、妄想具現化はもうしないでね?
次にしたら、何の説明もせずに話を打ち切ってこの世界から叩き出すからね?」
「くぅ……承知した。今は妄想チャレンジはしない。
もう一度する時は宣言してからする」
「宣言してからじゃなくて、私の許可を取ってからにしてちょうだい!」
「……わかった」
ばれたか。ちょっと悔しい。
でも、こんだけ大変そうな姿を見ると、ちょっとだけ悪いことしたのかもしれないなーって思ったし、まずは説明を聞こう。
「ふう……これでようやく話を進められるわ」
おばんの言葉に、戻る視界。
変わらぬ何もない空間……と思いきや、今日?のトーナメントで使っていた、待機用の決闘スペースになっていた。
「ついでに、余計な妄想されないように、空間も変えておいたわ。
この方があなたには馴染みやすいでしょうしね」
「ああ、落ち着くな。ありがとう」
我が戦場に帰ってきた気がするね。
なんとなく黒鶴を締めなおし、居住まいを正した。
「さて、話を進めるわ。
ここが妄想世界という話はしたわね。
ここで話をした後、あなたにはブレンフォリナ―――異世界へ渡ってもらいたいの」