聖幼女&不死鳥
『この土壇場でようやくレベルアップを果たした山城選手、しかし萱幹選手が言う通り状況は非常に厳しいと言わざるを得ません!
いまだにユニット数も、マスターの体力も大きく引き離されております。
この絶望的な状況から、奇跡の逆転劇などありえるのか? がんばれ!』
……初めてあの司会から応援されたし。ちょっと嬉しいし。
いやいや、素に戻ってる場合じゃないのだ。
敵の陣営も崩し、リザーブカードも削り。
全ての舞台は整ったのだ、奇跡ではなく我が手と我が娘で逆転劇を演じてみせよう!
「リザーブカード『幼女達のおやつタイム』発動、自身のマナを2点チャージする!」
『幼女達のおやつタイム』は、レベル4のリザーブカードで効果はマナ2点のチャージ。
リザーブカードにためておいた2点分のおやつをいつでも好きな時に取り出せるわけだ。
さらにオレは、次のリザーブカードを表に返して叫ぶ。
「リザーブカード『幼女達の身体測定』発動!」
『こっ……これはまた、ひじょーにろりこんと言いますか、変態的と言いますか……』
「黙るがいい。
幼女の背伸びにより、このターンは扱えるマナ上限+1だ」
『幼女達の身体測定』は、相手が使った『暗黒魔術の泉』と同じ上限アップのカードだ。
マナチャージ効果はないが、生贄など必要としない。
愛らしい幼女の背伸びする姿(しかもブルマ)に、心置きなく上限が育ってしまうがいい!
『こほん。山城選手、この土壇場でマナ上限が一時的に6まで達しました。
さすがは変態紳士、やましぃろりぃたさが全開です!』
「ふん、今更無駄なあがきを。
どれだけステータスの高いユニットを召喚しようとも、ゾンビの壁は破れまい。お前の命はあと2ターンだ!」
相手の言葉を、笑い返してやる。
「ふははは、甘いな。
ステータスの高いユニットではない。オレが呼ぶのは―――」
手札から、一枚のユニットカード―――すなわち、一人の幼女を選んで翳す。
「どれほど素敵で愛らしい幼女であるかだ!
『聖幼女 真璃亜』召喚!」
天に翳したカードを、フィールドへ叩きつけ……たりはしない。丁寧に、天使の羽が地に落ちるようにふわりとフィールドに降り立たせる。
柔らかな光の中で穏やかに微笑む、天使のごとき金髪の聖幼女。
「リザーブカード『光の幼女のおままごと』を用いて光の儀式状態に移行、特殊能力『溢れる幼女の慈愛』を発動する。
能力の妨害やレジストなど、対抗はあるかね?」
「ばっ……ばかな、ばかなばかなばかな!
ばかな、なぜその能力を持ったカードがここで出てくるんだ!」
「なぜ? 知れたことだな。
そんなことも分からない奴に、決闘者を名乗って欲しくないものだ」
笑い飛ばし、宣言する。
「対抗がないので、特殊能力『溢れる幼女の慈愛』を発動する。
戦場にいる全ての種族:アンデッドのユニットはあらゆる特殊能力を失い、永続的に攻撃力、防御力、体力1の種族:人間のユニットとなる」
邪眼の魅莉亜の姉(という設定)、聖幼女 真璃亜。
ランク6ながら攻撃力が1しかない、光の幼女。
全てのアンデッドを浄化する、対アンデッドの最強幼女だ。
『こ……、これはすさまじいカードが来ましたぁー!
山城選手、この土壇場でなんという奇跡の大逆転でしょう!
萱幹選手の暗黒法王とゾンビ軍団が、全てただのレベル1ユニットになりました!』
超強力な『溢れる幼女の慈愛』だが、使用制限が厳しい。
真璃亜自身がランクアップ不可のレベル6ユニットというのもあるが、能力の発動のためには儀式状態への移行が必要となる。
ようするに、能力発動のためにはもう一枚必要なカードを引いて、事前に準備しておく必要があると理解してくれ。
『さらに、戦場から全てのアンデッドがいなくなったことで、萱幹選手のフィールドカード『死者の楽園』が墓地へ送られます!』
「ふ、ふん、もう維持など必要ない、フィールドカードなどもはや不要だ!
体力差は絶対的なのだ、貴様の攻撃で我がゾンビを倒せるのはその邪眼のなんちゃらの1体のみ。
次のターンの我が攻撃を貴様は防げず、本体がダメージを受けて終了。
よしんば防げたとしても、毎ターン増殖し続けるゾンビ軍団を防ぐ手立てはあるまい!」
『今のままでは萱幹選手の言う通りです。
全てのアンデッドを弱体化して死者の楽園を破壊しましたが、まだ最後の砦とも言うべき地下墓地への階段が残っています。
奇跡の一手を繰りだしたのに、このまま物量で押し切られてしまうのでしょうか!』
確かに、どれほど弱いユニットであっても、数がいればマスターへの攻撃が通り脅威となるだろう。
マスター自身の強さはレベルに比例するとは言え、攻撃をされれば必ず1ダメージは食らう。
「どれほどレベルが高くとも、残り体力と同じ数のユニットの攻撃を受ければマスターは倒れる」
「その通りだ!
そのユニット一体で、このターンで俺様を倒せない限りお前は敗北するのだ!」
「……ふ、ふふ……ふはは、ははははは!」
「なっ、何がおかしい!」
笑うオレに、うろたえる対戦相手。
「オレは勝つと言っただろう。
我が愛しい娘たちと、墓場で眠ることも許されない哀れな死者の軍勢とに誓ってな!」
もう一枚のリザーブカードを、開く。
「リザーブカード『闇の幼女のお姫様ごっこ』発動。闇の儀式状態へ移行する!」
光の幼女のおままごとの対となる、闇の儀式状態カード(もちろんオリジナル)。
これにより、このターン中は光と闇の儀式状態となる。
「闇の儀式状態により『黒い邪眼の幼女王 魅莉亜』第二の特殊能力『幼女の邪眼が世界を選ぶ』発動!
デッキから好きなカードを一枚選び出し、即座にカードを使用する!」
『あーっと、ここで闇の儀式状態にまでなり、特殊能力発動です!
萱幹選手、対抗はありますか?』
苦々しい表情で、小さく首を振る対戦相手。
オレはスタッフの確認後、自分のデッキを手に取り目当てのカードを探した。
ちなみに、魅莉亜の第一の特殊能力は、敵のリザーブカードによる対抗措置のレジストだ。
出番がなかったので、ここで紹介だけしておいたぞ。
そういうわけで、デッキからカードを一枚抜き出し、スタッフにデッキをシャッフルしてもらう。
「さあ、見るがいい。これが我が手に宿る最強の力だ!」
選び出したユニットカードをフィールドに呼出し、叫ぶ!
「光と闇の儀式の下、我は汝を召喚する。
神話の内より来たれ、極光翼の不死鳥!!」
「な……なあああ!」
『こ、これはこれは、これはすごーい! すさまじい!
まさか、伝説級の上、レアリティ:神話級のカードですーっ!!』
『極光翼の不死鳥』
80枚のカードで構成されたオレのデッキの中で、たった一枚の、オリジナルではないカードである。
おやっさんから受け継いだ、オレの魂のカード。
もちろん、可愛い幼女たちもオレの魂のカードだ。極光翼の不死鳥とは別の意味で。
「光と闇の儀式状態中のため、特殊能力『光と闇の狭間』により、コストが2軽減されてマナコスト6で召喚される。
召喚時の特殊能力『再誕の極光』により、全プレイヤーの墓地から、全てのユニットカードをフィールドに特殊召喚する!」
戦いに倒れた幼女達が、不死鳥の翼から降り注ぐオーロラの光を浴びて蘇る。
熊ぐるみの玖瑠栖が、うさみみの華惧夜が、重装幼女兵団が。
狼に跨った瑠々菜が、くのいちの紗沙那が、猫又の美衣音が。
みんなが、光の下に蘇る。
もちろん、エリート&フォースはカードゲームであり、ルールに従うわけなので。
墓地にある他のカードもフィールドに特殊召喚されるわけで。
ランクアップカードである美衣音が全部で3人居たりとか、ちょっと気まずい部分もある。気にしたら負け。
脳内の妄想ワールドでは、みんな一人ずつだ!
『すごいすごい、これはすごーい!
マイソロジーカードの効果で、山城選手の墓地で眠っていた幼女達がぞろぞろと蘇ってきます!
圧巻です! ちょっとキモいです!』
「キモくない、パラダイスだ!」
『対する萱幹選手は、序盤に召喚していた低レベルユニットが少しと、あとは特殊能力で倒されたゾンビナイト、死霊兵団のみですね。
なんという大逆転、ユニット数においても山城選手が一気に上回ったー!』
「ふざけるな!
俺様が勝っていたんだ、ふざけるな!!」
対戦相手が立ち上がってキレ出したのを、慌てて両脇からスタッフが抑える。
「このターン攻撃できるユニットは魅莉亜一人だけしかいない。
だから、攻撃を行わずにターンエンドだ」
オレの声をマイクが拾い、会場内に音声が流れる。
「何がターンエンドだ、ふざけるな!
神話カードとかイカサマだろう、ふざけるな!」
対戦相手の声は、マイクには拾われず会場内には届かない。
『さあ、奇跡を見せたやましぃろりゅーた選手。
輝ける変態の極光に、萱幹選手のさらなる逆転はありえるのか!?』
「輝ける変態ってなんだし!」
思わず素で叫んだオレの声が会場内に届けられてしまい、笑いが漏れる。
輝ける変態かっこわらいって感じの失笑が。
つ、つらい……!
『萱幹選手、あなたのターンです。フェイズを進めて下さい』
司会の声が、おそらくこのブース内のみに響く。
いかんいかん、決着がつくまでは決闘者だ。意識を集中させる。
対戦相手が、戦場を一瞥し。
カードを、引き。
濃密な死の気配が漂う、地下墓地。
いくつもの墓が暴かれ、そこから眠りを呼び覚まされた死者たちは、しかしもう聖幼女の聖なる力で安らかな成仏を果たした。
墓地の中心に最後までわだかまる闇と、一握りの死者たち、困ったようにたたずむ5人の人間。
そして、憎しみに彩られた暗黒のマスター。
血だらけの身体を魅莉亜と真璃亜の姉妹に支えられながら、オレは彼らの眼前に立つ。
すぐ後ろには愛する幼女達が並び。
オーロラの翼を広げた不死鳥が、オレの頭上で聖なる光を降らせる。
暗黒のマスターが、両手を振り上げて、絶叫し―――
「くそっ、投了だ、こんなイカサマなゲームやっていられるか!」
この世への、あるいは我が娘たちへの呪詛を吐こうとしたところで。
せめてもの慈悲だろう。
オレは、腰の剣を真一文字に振り抜いて、聞き苦しい言葉を断った。
「―――お前は、なぜ、と問うたな」
歓声に包まれる中で、小さく呟く。
「なぜ、ここでそのカードが、と」
対戦相手が何事かわめき叫ぼうとするのを、スタッフが留める。
「それはとても簡単な、オレ達が誰でも知っていることだ」
オレを睨む憎しみに染まった眼差しに、なぜか少しだけもの悲しさを感じつつ。
「カードを信じ、愛し、心を託して共に戦う。
オレが、オレ達が、決闘者だからだ!」