決勝戦&決闘者
左手で目元を覆い、右手で左手の黒鶴に触れ。
深呼吸一つ。
「決闘者山城 竜太、いざ参る!」
デュエルモード、スイッチON。
自分の中の意識を、温和で気のいいオタクから、絶対的な戦士―――決闘者へと切り替える。
さあ、我が力を見せてやろう!
『1ターン目、山城選手は2枚のレベル1ユニットを召喚して終了ですね。
しかしさすがのやましぃろりーた、ただのレベル1カードさえがちがちの幼女です。変態です』
小うるさい司会であるな。我が愛しの娘達に文句を付けるなど、許せぬ。
このターンで呼んだのは二人。
レベル1ユニット 『熊ぐるみ幼女 玖瑠栖』と『うさ耳気分の幼女 華惧夜』
りんごを手にこちらを見上げる、熊の着ぐるみを着た玖瑠栖。両手を頭の上に当て、うさみみぴょんぴょんしてる華惧夜。
二人ともとても愛らしい自慢の娘である。ただしレベルはまだ1。
『後攻の萱幹選手も同じく2体召喚、バトルはなしでした』
対戦相手はザコゾンビを2体呼んで終了。
バトルを自分から仕掛ければ、次の相手のターンからマナが増えることになる。相手は待ちか……
「マナチャージフェイズ、キープコストフェイズ、ドローフェイズ!」
自分のターン。声に出してフェイズを確認しつつ、カード2枚を引く。
―――1ターンに引くカード枚数が2枚なのだぞ。2枚引くのが普通なのだぞ。
解説はさておき、内容はまずまずであるな。レベル1カードもないし、こちらから攻める!
『山城選手のバトルフェイズ、お互いのユニット2枚ずつが相打ちで墓地へ送られます。
このバトルでそれぞれ経験値2点、両者ともレベル2となります』
玖瑠栖、華惧夜、ありがとう。
マナとしてはターン開始時の2点しかないが、レベル2になったのでレベル2のカードが扱える。
今度はレベル2幼女 『邪眼を封じた幼女 魅莉亜』を召喚して終了である。
ちなみに魅莉亜は、おでこに×字の大きな包帯テープを貼った、ちょっと涙目の黒髪幼女だ。
『2ターン目後攻、萱幹選手はレベル2とレベル1のゾンビ2体を召喚。召喚直後なのでバトルは行えず終了です』
わらわらと数の多いゾンビだな。
こんな汚い奴らなど、我が可愛い娘たちが全て駆逐してくれる!
『3ターン目、山城選手は攻撃せずにレベル2ユニットを2体召喚してエンドです』
ゾンビなど駆逐してくれる……体制が整ったらな!
『対する萱幹選手は、2レベルのゾンビドッグのみでバトルを行います。
受ける山城選手の幼女と相打ち、お互いに経験値2を獲得。
追加のユニットを召喚して終了です』
お互いの攻防、レベルアップ。
予め伏せて場に出し、任意のタイミングで発動できるリザーブカードにより互いの計算にわずかな狂いを出しつつも、確実にターンは進む。
我が幼女達も、臭く汚いゾンビ相手に文句も言わず、果敢な戦いを見せてくれる。
しかし、8ターン目。
『キターっ!
ユニットを生贄に捧げての『暗黒魔術の泉』2枚から、萱幹選手の『死者の楽園』発動!
レアリティ『レジェンド』の、超希少で超強力なカードです!
速攻で決まった地下墓地の皇王の必勝戦術に、変態はどう立ち向かうのでしょうか!』
「おいこら、普通にオレを変態呼ばわりしてるんじゃねぇし!」
聞こえないと知りつつ、無礼な司会にツッコミを入れる。
っと、いかんいかん。デュエルモードから素に戻ってる。意識を維持せねば。
それはそれとして、この段階で早くも死者の楽園とは、これは確かに厳しい展開ではあるな。
死者の楽園は、高レベルのフィールドカードだ。
一度出したら、毎ターン維持コストを支払い続ける限り効果が持続する。
効果は、バトルの結果で種族:アンデッドのユニットの体力が0になった場合、倒されず墓地に送られず、ターン終了のタイミングでカードが破棄されるというもの。
簡単に言うと、オレの側はバトルで敵ユニットを倒しても経験値が得られなくなったということだ。
レベルは、毎ターン使えるマナの量と、一度に使えるマナの量の上限に影響する。
ターンごとのマナの量はレベルの2倍、一度に使える上限はレベルと同じ値まで。
つまり4レベルなら、8点のマナを使ってレベル4のカードを2枚とか、レベル1・3・4で3枚とか使えることになる。
本来こんな早い段階で使えるカードではないのだが、それを可能にしたのがリザーブカードの『暗黒魔術の泉』。
ユニット1体を生贄にすることで、1ターンだけ使えるマナ上限を+1し、マナを1点チャージする。
これが2枚。上限が+2されることで、序盤での使用を可能としたわけだ。
向こうとしては、非常に理想的な引きと言えるだろう。
「くっくっく、完璧だ。
これで貴様の勝ち目はなくなったな!」
「その程度で、我が娘たちに勝ったつもりでいるとはな」
「負け犬が何か吠えているようだ。
きゃんきゃんうるさい小娘どもを、我が軍勢が踏みにじってくれよう!」
「……我が娘を、踏みにじる……だと?」
「ああそうさ。小汚い幼女と変態を、高貴なる俺様と死の軍勢でことごとく踏みにじってやろう!」
我が、可愛い娘たちを、おのれ―――許せん!
『続く萱幹選手の攻撃で、お互いのユニットが相打ちます!
しかし山城選手には経験値が入らない、これは苦しい展開だ』
確かに苦しい展開だ。
だが、必ず打ち破る手はある、打ち破ってみせる!
互いにユニットを出しては、撃破し撃破されつつ。
リザーブカードを増やし、なんとか敵の攻撃を凌いでいく。
敵は死者の楽園の維持コストを払っているが、レベルがオレより1つ高くなったためユニットのステータスの差が苦しい。
こちらとしては、なんとか1レベル分の差を埋めて、死者の楽園を攻略せねばなるまい。
自分のレベル(というか使えるマナ上限)以上のカードを使う方法はいくつかある。
相手の使った『暗黒魔術の泉』もそうだし、他にも上限拡張のカードは何種類か存在する。
また、上限を拡張せずとも、特殊な方法で上限以上の娘を呼ぶ方法だってあるのだ!
『おっと、ここで山城選手のユニットのランクアップ召喚だ!
猫なんとかの幼女が、なんとか幼女……レベル6ユニットにランクアップ!』
司会はそろそろ無視しよう。うん。
レベル4のまま止まったオレに対し、敵のレベルは5。
まずは現状を持ちこたえる一手として、ランクアップ召喚を行う。
レベル4『猫耳幼女 美衣音』を、同じ美衣音シリーズの手札を捨ててレベル6『猫又幼女 美衣音』にランクアップ!
可愛いお尻から2本の尻尾を生やした美衣音が、ちょっと色っぽい表情でオレを見上げている。そそる。
『さらに防御用の軍勢カードを召喚し、鉄壁の布陣。
山城選手、経験値が苦しいながらも図……勢いに乗っています!』
おい、図に乗ってるって言おうとしただろ!
いや違う、司会は無視だ。うん。
美衣音と、一緒に召喚した『重装幼女兵団』でアンデッドの攻撃を防ぎ、数を減らしていく。
こちらのユニットが倒れない限り、敵に経験値は入らない。条件は同じだ。
防御力の強化と、リザーブカードによる回復をあわせて反撃の準備を整える。
しかし相手も決勝戦に出ただけの強者。
『キター、ここで萱幹選手の2枚目のキーカードが炸裂!
破棄待ちカードを生贄に『暗黒魔術の泉』を発動し『暗黒法王ジーディール』召喚!』
これはまた、向こうの理想的な展開通りのカードがきてるな。
暗黒法王ジーディール。自身の攻撃力は低いが、強力な特殊能力を持っている。
アンデッド一体を生贄に捧げて、対戦相手のマスター自身に1ダメージを与えることができる。
単純に考えれば、あと10ターンでオレの負けが決まるわけだ。