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神魔大戦 Hero&Forces  作者: 岸野 遙
スタートフェイズ
38/40

精霊&悪魔

 精霊―――戦乙女が踊る。



 精緻な装飾の施された刃を、タクトのように振るい。

 戦場に不似合いなドレスを翻し、時に激しく、時に静かに。


 片翼の悪魔が放つ火球をかわし、斬り払い。

 細剣と翼が斬り結ぶ。


「ていれい、なかなかやりまつね!」

「竜太様を傷つけた報い、その身に受けていただきます!」


 美しく舞い踊るローラの姿に見とれつつ、ターンを進めて手札を回す。

 マナの大半はローラの召喚に費やされているが、合間で盾としてポーンを増やし、またスペルでローラの傷を癒す。


「ああもう、うっとうちいでつ!

 帰りたい帰りたい、もうおつかいちて帰りたくなってきまちた!」

「今更逃げようとしても、認められません」


 ゲームルール上で考えれば、悪魔もローラも残り体力はほとんどないはずだ。

 それでもお互いに、なお激しく戦いを繰り広げる。



 やがてしびれを切らした悪魔が、真っ赤な炎に包まれ―――


「えええい、もうこのつがたではやってられんでつ!

 魔力のことも諦めて本気を出つでつ!」


 叫び声を上げながら、噴き出した炎と悪魔が同化していく。


 片翼の悪魔の輪郭をした、揺らめく赤い炎。

 その身をローラの細剣がすり抜けた。


「魔炎生命体、といったところでしょうか。

 これは困りました」

「ふはは、このつがたならばお前の攻撃はきかないでつ!」


……ルール的に考えても、攻撃ダメージの無効化といったところか?

 奥の手だか本気モードだか分からないが、確かにこれは厄介だ。

 デッキの全容は分からないけれど、レベル1でスペルや特殊ダメージのカードがどれほど入っているかを考えると非常に厳しい。


「やっぱり逃がちておけばよかったとか泣いても、もう許ちてやらんでつ!

 魔力がもったいないから、とっととケリつけるでつ!」


 跳ねあがった熱気に額を拭いつつ、傍らのローラにぼやく。


「さっきからお互いに、やっぱり戦闘やめとけばよかったと思ってばっかりじゃないか?」

「そうかもしれませんね。

 竜太様も悪魔も、お互いに見通しが甘いと言う事かと思います」

「ローラは違うの?」

「竜太様が戦えと言えば、私にいなやはございません。

 例え敵方に100万の軍勢があろうとも、竜太様が涎を垂らすような幼女が相手であろうとも、私は戦いを全うするだけです」

「それ、並列になってないよな?

 ていうか涎ってなんだ、ローラはオレをどういう目で見てるんだ!?」


 オレのぼやきに、いつかと同じ憂いを帯びた眼差しで、物憂げに深い溜息を吐き


「変態、幼女趣味、オタ―――」

「やっぱ言い、言わなくていい!」


 よくわかった、よぉぉくわかった!



 降り注ぐ炎の雨を、ポーンを使って防いでいく。

 1ターンに1体のポーンとトレードする形だ。

 反撃が全く効いていないため、悪魔は防御など考えず嬉々としてオレ達を追い回してくる。


「ローラ、あれ倒せる?」

「申し訳ございません。

 この状況では、通常攻撃しかダメージソースを持たない私には敵を倒すことができません」


 正直に、ルールに則り、倒せない事実を伝えるローラ。

 別にそれはいい。予想はしていたから。


「じゃ、何とかすることはできる?」

「逃げ出してこの戦闘を終わらせることなら出来ます」


 逃げ出す、か。

 この戦闘中、何度も何度も提示され、その都度断ってきた選択。


「このデッキの残りカードで、なんとかできそう?」

「ゼロではないですが、非常に低い可能性だと思われます」


 だよね。

 盗賊前からデッキ回しとかしてたし、山札の残りはもうわずかだ。

 オレの残り体力を考えれば、山札が切れればドロー不能で即座に体力も尽きるだろう。


 勝ち目が、見えない。

 せめて【勇者の潜在能力】がもう一枚あればまた状況も違うかもしれないが、このままでは敗色濃厚だ。


 己の中の、貫きたい主義と、勝敗やその結果とがせめぎ合う。


「えぇぇい、うっとうちいでつ!

 ゴーレムはもう飽きたでつ、おもちろくないでつ!」


 またも攻撃を阻まれて叫ぶ悪魔を見上げて。


「ローラ」

「はい?」

「力を貸してくれ。

 勝つぞ」

「……分かりました、竜太様に全てお任せします」


 オレの言葉を疑うでもなく、異論をはさむでもなく。

 ただ、信じてくれるローラに、感謝を込めて頷く。


「さあ、これがこのデュエルのラストターンだ!」

「何をつる気か分かりまてんが、きみたちの攻撃は効かないでつ!」


 悪魔の言葉を無視してドロー。

 引いたカードは、使用することのできない、オレの魂のカードだった。


 おやっさん、見てろよ。

 オレは、オレのやり方で生き抜いて見せる。死にたいなんて、二度と言わない!



(大丈夫、これから先ずっと、私があなたの傍に居ます)



「アタックフェイズ!

 マグロ装備のマスターで、敵悪魔を攻撃する」


 叫びながら、手にしたマグロを投げつける。


「そんな魚は通ぢないでつ、こんがり焼けるがいいでつ!」


 悪魔が両手を翳して火球を放つ。

 焼けていい匂いを立てながら、マグロが勢いを弱めずに揺らめく悪魔の身体を突き抜け―――


「悪魔を対象に、特殊能力『時空転送』発動!」

「!

 分かりました。能力を発動、戦場の外へと悪魔を転送します」

「!?」


 ローラの振りかざした細剣の先に、空間の歪みが生じる。

 歪みの中心には、炎と化した悪魔。

 炎の揺らぎと空間の揺らぎが一体化していき―――


「く、くぬぅぅぅ、てめてこれだけは!」


 悪魔の炎の翼が揺らぎを突き抜けて伸ばされ、屋根へと向かう。

 オレ達からは見えなかったけど、あそこにミーネちゃんと行き倒れさんがいるはずだ。


「待ちやがれ!」

「ふはは、これで目的たっていでつ」


 炎の翼で、服を焼きながら二人を抱えあげ―――


 そこへ天から降ってくる、匂い立つマグロの一撃!


「ちまっ、くとぉぉ!」


 二人を抱えるために実体化していたのか、それとも抱えられた二人自体に直撃したのか。

 いずれにせよ、振ってきたマグロの衝撃で抱えた翼から零れ落ちた。


 行き倒れさん、一人だけが。


「ミーネちゃん!」

「んぬぅぅ、勝ったと思うなよ、ちょうぶはおあづけで―――」


 オレの叫びと、悪魔の捨て台詞を飲み込んで。

 空間の揺らぎが一瞬膨らみ、収縮して消え失せた。




 炎と化した悪魔との決闘デュエル

 勝負は、特殊能力による戦闘禁止により、引き分けとなった。


 相手が連れ去りに来た行き倒れさんではなく、ミーネちゃん一人だけを失って―――




【妄想時空のリオリ】 レベル4 光属性 攻撃:★★ 防御:★★★★ 体力:★★★★ 種族『精霊』

 『時空転送』 戦闘により対象ユニットが受けるダメージを無効化する。対象ユニットは、以後の決闘デュエルで攻撃にも防御にも参加できず、また攻撃の対象とならない。この能力は決闘デュエル中に一度しか使用できない。

 『魂のカード』 緊急発動。カードの意志により、己の代償で行動を行う事を可能とする。


 長い決闘も終わり、作中ではようやく一日目が終了です。

 あわせて、スタートフェイズもこれにて終了。

 皆様、お付き合い下さりありがとうございました。


 次回は、獣人の村を出て、世界へと足を踏み出します。

 近日予定、まさかの超展開。乞う軽くご期待!


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