ローラ&告白
「……そうなの?」
「そうなんです!」
こ、こええ。
思わず返したオレの呟きに、噛みつくように顔を寄せるローラ。
ちょっと椅子を引いて、逃げる体勢を整える。
うん、これは戦術的だ。ここは逃げてもいいところだと思うし、まだ体制を整えるだけだし。
そんなオレにお構いなく、顔を寄せてローラは続けた。
「精霊となった私は、単独で世界に存在することはできません。
ただひたすら、あなたがこの世界に来るのを、あなたに会えるのを待っていたんです」
「う、うん」
「何もない空間で、これまでずっと、ただあなたのことを考えて過ごしてきました。
女神さまに与えられた『妄想』という行為だけを繰り返し、ひたすら待ち続けました」
そういや、あのおばんは妄想の女神だったっけ。
まだ半日しか経ってないが、もう数ヶ月も前の事のようだ。
「竜太様のことは、変態だとか、幼女愛好家だとか、変態だとか、変態だとか、色々聞いてましたけど」
「待てぃ、幼女愛は変態じゃねーし!」
「それでも!
私にとってはあなたしか居ないんだから、会いたくて、期待して、不安で、でも会いたかったんです!」
オレの全力の突っ込みを、耳栓でもしているかのようにスルーして叫び続けるローラ。
まあ、オレの突っ込みも無粋か。うん、我慢しないと。
「出会えた竜太様は、いきなり私をややおばんとか呼んだり、幼女召喚とかカードだけ期待してるとか、とにかく酷い人で」
うん、黙ってます。目を逸らして顔を背けて黙ってますよー。
と思ったら、ローラの手が頬に添えられ。
ぐきり、と首を直されて顔を覗き込まれた。
……お、オレの突っ込みには反応しないくせに、よそ見にはきっちり反応するんじゃねぇよぅ。
「でも、ちゃんと向き合って謝ってくれたり、私を相棒として頼ってくれたり。
駄目なところばかりだけど、ちょっとはいい所もあって」
涙を流しながら至近距離で見つめ合って、駄目なところばかりと言われるってのはどうだろうか。
と突っ込みたいが我慢。
「期待していたかっこいいヒーローじゃないけれど、聞いていた通り芯のしっかりした人で。
これからずっと一緒に生きていく、私の生涯を捧げる、それもいいかなって想えていました」
「……生涯か」
人としては、いきなり重い話だなと思うけれど。
ローラにとっては、オレの説明役になる以外に生きる選択肢がないなら、それがそのまま生涯ってことになってしまうんだろう。
「そうです。
私には選択肢がないから、良くても嫌でも、竜太様と一緒に居るしかないって分かっているけれど。
どうせずっと一緒に生きるならば、素敵な人がいい、好きになれる人がいいって願っていました」
ローラの両手が、存在を確かめるように、至近距離からオレの頬を撫でる。
いつの間にかテーブルと茶器は消え、オレ達の間を阻むものはなくなっていた。
「……オレは、ローラにとって、その、大丈夫だったのか?」
「駄目に決まってます!」
うわ、全力否定されたし!
「幼女のことしか考えてないし、人の気持ちは分かってくれないし、ややおばんとか言うし」
顔を動かせないから、目線だけ逸らして黙ってますよー。
「思考がデュエリストでカードコレクターだし、私のことちゃんと見てくれないし」
目を逸らしたオレに構わず、思いの丈をぶつけるローラ。
まだ涙は止まっていないけれど、どこからか射す光に煌めくのが綺麗だなと思った。
涙も横顔も、顔のパーツの全ても。
「勝手に、死のうとするし!」
「死ぬ……わけじゃないんだけどな」
「でも、一緒です!」
一緒か……
まあ、そうだよなぁ。命はあっても、死ぬのと大差ない状態だよな。
「せっかく……せっかく、出会えたのに。
やっと出会えて、一緒に過ごせて。好きになれそうかな、ずっと一緒に居てもいいかも、そう想えたのに!」
「駄目に決まってるのに、買いかぶり過ぎだろ」
「そうじゃないです! 竜太様は駄目だけど、素敵なところもちゃんとあります!」
あー、なんだこれは。
美少女が至近距離で泣きながら褒めてくるとか、なんなんだよこれは。
恥ずかしいというか、とにかく顔が熱いし。
辛いわけじゃないけど、なんか、ひたすら落ち着かないし。
「だから!
勝手に死ぬとか決めて、私はそれが許せないんです!」
「わ、わかった、わかったから落ち着いて、お茶のお代わりをお願いしよう。な?」
「わかってません!」
ローラは怒りながら、頬から手を離し。
強く、強く。
しなだれかかるように、オレに抱きつき胸に顔を埋めた。
「本当に……分かってないんだからぁ……」
「んー、あー……うぅ」
ど、どうすりゃいいんだ。
泣きじゃくるローラに、オレは何を言ってやれるんだろう。
「えーっと、その……ごめん」
―――何も言わなくてもいいか。ただこうして、頭を撫でてやれば。